2018年01月15日号
次回2月1日更新予定

artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

渡辺眸「TEKIYA 香具師」

会期:2017/11/18~2017/12/22

ZEN FOTO GALLERY[東京都]

渡辺眸は東京綜合写真専門学校写真芸術第二学科(夜間部)に在学中に、ふとしたきっかけから「TEKIYA」を撮影するようになった。テキヤ=香具師(やし)とは、いうまでもなく祭りや縁日などに移動式の屋台を出して商売する商人たちだが、アウトロー集団との強いつながりを持つことが多く、一般的にはやや危険でいかがわしい存在とされている。渡辺は「うずまく男たちの熱気と狂気と惰気」に惹かれて、彼らを撮り始めるのだが、当然ながらその過程では一筋縄ではいかない出来事がいろいろあったようだ。
だが、4年間撮り続けた写真群をまとめた今回のZEN FOTO GALLERYでの写真展、および地湧社から刊行された同名の写真集を見ると、彼女が取り立てて身構えることなく、絶妙の距離感を保って彼らに接していることがわかる。渡辺のカメラワークは、ほかの写真家たちとやや違ったところがあって、新宿の雑踏や東大闘争の現場のような、沸騰するエネルギーの渦中にあればあるほど、淡々とした日常の空気感が浮かび上がってくるような写真を撮ることができる。とはいえ、冷ややかに醒め切っているのかといえばけっしてそうではなく、体温を感じ取ることができる関係のあり方はきちんとキープしている。「TEKIYA」のシリーズでいえば、写真に写る男女の表情や身振りから滲み出てくる、エロティックとしか言いようのない気配が印象的だった。
「TEKIYA」は渡辺の実質的なデビュー作というべきシリーズである。今回の展覧会と写真集によって、1960年代後半の東京の空気感を体現する貴重なドキュメントでもある本作が、初めてまとまったかたちで発表されたのはとてもよかった。

2017/11/21(火)(飯沢耕太郎)

プレビュー:光の現代美術@旧三井家下鴨別邸

会期:2017/12/15~2017/12/25

旧三井家下鴨別邸[京都府]

下鴨の森の中にたたずむ旧三井家下鴨別邸。大正14年竣工の美しい木造建築を舞台に、興味深い美術展が開催される。展示は昼夜2部制だ。「昼の部」では、通常は非公開の主屋2階や茶室を舞台に、金氏徹平、三嶽伊紗などのアーティストと、村山明(木工)、山本晃久(鏡師)、吉岡更紗(染織)などの工芸家、中国人作家の孫遜と娄申義が作品展示を開催。「夜の部」ではアーティストの髙橋匡太が日本の伝統色を基調とする光で、望楼をいただく建物全体をライトアップする。美術鑑賞、建築鑑賞として申し分ないのはもちろん、近隣に下鴨神社や鴨川デルタなどの観光名所もあり、冬の京都旅行のコンテンツとしてもおすすめできる。なお本展の企画・運営を行なっているのは「芸術計画・超京都」。彼らは2010年にアートフェアを開催するために活動を開始した。本展は彼らにとって初のテーマ展だが、今後は同様の活動が増えるかもしれない。

2017/11/20(月)(小吹隆文)

没後70年 北野恒富展

会期:2017/11/03~2017/12/17

千葉市美術館[千葉県]

北野恒富というと、甲斐庄楠音や岡本神草(来年5月から千葉市美でもやる)らとともにデロリ系の日本画家だとなんとなく思い込んでいたが、違った。たしかに大作の《淀君》や大正期のポスターなどは多少デロっているものの、むしろ鏑木清方(東京)、上村松園(京都)と並ぶ大阪の美人画を代表する画家として知られているそうだ。そういわれれば、襖の前の芸妓を描いた《鏡の前》と《暖か》の対作品などはそそられるものがある。ちなみに《鏡の前》は黒い着物に赤い帯、《暖か》は赤い着物に黒い帯と対照的で、前者は着物に飛天、後者は襖に若衆が描かれるなど工夫が凝らされている。しかし美人画だけでなく、雨に煙る街並を描いた《宗右衛門町》や、前面に柳を大きく配した《道頓堀》など風景画も負けず劣らず妖しい雰囲気が漂う。ちなみに《宗右衛門町》は川端龍子、小林古径、下村観山ら日本美術院の21人が連作した『東都名所』の1点で、東京の名所を描く組物なのにひとり恒富だけ大阪の宗右衛門町を描いているのだ。

2017/11/19(日)(村田真)

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若手芸術家支援企画 1floor2017 合目的的不毛論

会期:2017/11/18~2017/12/10

神戸アートビレッジセンター[兵庫県]

「1floor」とは神戸アートビレッジセンターが2008年から行なっている公募展で、30歳未満の作家を対象とする若手支援企画だ。同センターの1階に向き合う「KAVCギャラリー」とコミュニティルームの「1room」をひとつの空間とみなし、展覧会プランを作家自身がつくり上げる点に特徴がある。10回目となる今回は大前春菜、菊池和晃、澤田華が選ばれた。個々の作風を説明すると、大前は肉体の皺やたるみを感じる彫刻をつくる作家。菊池は身体表現を用いることが多く、社会と対峙する作品や美術史を参照した作品を制作している。澤田は写真に写りこんだあいまいな図像やノイズをモチーフに、綿密な調査と意図的な誤読を繰り返して考察する過程そのものを作品にしている。このように作風が異なる3人がひとつの展覧会をどのようにつくり上げるのか、そこに本展の面白さがあった。では実際の展覧会はどうだったのかというと、3人がそれぞれの世界を構築しつつ、それでいて一体感も感じられるバランスの良い展覧会に仕上がっていた。最初に「合目的的不毛論」というキーワードを導き出せたのが勝因だろうか。じつは筆者は今回の「1floor」で審査員のひとりを務めており、作風がそれぞれ異なる3人を選出したことに期待と不安を抱いていた。彼らがこちらの期待を上回ってくれたことに、素直に感謝したい。


上=澤田華の作品、下=左から大前春菜、菊池和晃の作品

2017/11/18(土)(小吹隆文)

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レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル

会期:2017/11/18~2017/04/01

森美術館[東京都]

まず初めに暗い通路に通され、ゆるやかなスロープを上っていく。なにが起きるのか期待を持たせる憎い演出だ。広い空間に出るとボートが数隻プールにプカプカ浮かんでいる。《反射する港》と題する作品だ。しかしよく見ると、水面に映ってるボートの反射像が揺らがないので、実際には水がなく、ボートを上下対称につなげて揺らしているだけであることに気づく。いきなりカマしてくれるじゃねーか。ほかにも《教室》、《眺め》、《試着室》など趣向を凝らした装置がいっぱい。
最初はおもしろいけど、しょせんトリックアートにすぎない。と思っていたが、見ていくうちにそんな素朴な作品でないことに気づく。これらはいずれも絵画と関連の深い「窓」と「鏡」から発想されたものなのだ。最初の《反射する港》は鏡、マンション住人の生活をのぞき見る《眺め》は窓、迷路のような《試着室》は鏡といった具合。なかには《雲》のように窓とも鏡とも結びつかない作品もあるが、これは発想が陳腐だし、完成度も低い駄作だ。逆に窓と鏡の双方を結びつけたのが、最後の《建物》と題するインスタレーション。床に窓のあるビルの壁を再現し、観客がその窓に手をかけて横たわると、斜め上45度の角度に据えられた巨大な鏡に、窓から落ちそうな観客の姿が垂直に映るという仕掛け。観客参加型で、しかも撮影可能なインスタレーションだから、まさにインスタ映え。

2017/11/17(金)(村田真)

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