2018年04月15日号
次回5月15日更新予定

artscapeレビュー

書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー

秦雅則『鏡と心中』

発行所:一ツ目

発行日:2016/08/09

2008年にキヤノン写真新世紀でグランプリを受賞し、2009~11年に東京・四谷で「企画ギャラリー・明るい部屋」を運営していた頃の秦雅則は、次々に溢れ出していく構想を形にしていく、すこぶる生産的な活動を展開していた。このところ、やや動きが鈍っているのではないかと思っていたら、いきなりハードカバーの写真集が刊行された。これまで、ZINEに類する小冊子はつくっていたが、本格的な写真集としては本書が最初のものになる。
ただ、『鏡と心中』というタイトルの本は、すでに2012年のartdishでの個展「人間にはつかえない言葉」に際して刊行されている。そのときには、写真は口絵ページに12枚ほどおさめられていただけで、「夢日記」のような体裁の文章ページが大部分だった。今回は、いわば写真集判の『鏡と心中』であり、写真図版は72枚という大冊に仕上がっていた。
写っているのは身近な片隅の風景であり、花や植物、小動物、杭や土管などを、しっかりと凝視して、スクエアの画面におさめている。かつての性的なイメージを再構築した破天荒なコラージュ作品とはかなり趣が違う。むしろ静まりかえったスタティックな印象を与える写真群だが、画像の一部に黒々と腐食したような空白が顔を覗かせている写真が目につく。おそらく、フィルムを放置することで生じた傷や染みだろう。それらが現実の風景を、風化していく記憶や、忘れかけた夢に似た感触に変質させている。丁寧につくられたいい写真集だが、秦にはもっと「暴れて」ほしいという気持ちも抑えきれない。次作は真逆の、ノイズや企みが満載の写真集を出してほしいものだ。

2016/09/27(火)(飯沢耕太郎)

カタログ&ブックス│2016年9月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

ポンピドゥー・センター傑作展─ピカソ、マティス、デュシャンからクリストまで─

監修:クレール・ガルニエ、ローラン・ル・ボン
発行:朝日新聞社
発行日:2016年
定価:2,223円(税別)
サイズ:B5変型、224ページ

東京都美術館での展覧会「ポンピドゥー・センター傑作展」の公式カタログ。パリのポンピドゥー・センターの作品のなかから、展覧会と同様に1906〜1977年の1年ごとに、ひとりの作家のひとつの作品を掲載。合計71作品でフランスの20世紀美術をタイムラインでたどりることができます。作家のポートレートと作家自身の言葉を見開きページで紹介し、個性豊かな巨匠たちの創造性が堪能できる構成となっています。



WASHI 紙のみぞ知る用と美

企画:LIXILギャラリー企画委員会
アートディレクター:祖父江慎
デザイン:小川あずさ(cozfish)
発行:LIXIL出版
発行日:2016年9月15日
定価:1,800円(税別)
サイズ:A4変型、84ページ

お椀も箪笥も着物も、みんな和紙でできていた!? 明治に入るまで和紙は、農閑期に庶民が漉く手軽な素材であり、様々に代用可能な優れた生活用材だった。漉き方や産地によって特長のある和紙に、揉む・張る・撚る・編むなどの多様な加工を加え、工芸品のような暮らしを彩る道具が作られてきた。
本書では、木、布、皮などに擬態した変幻自在な紙製品、約70点を「衣」「食」「住」「遊」の生活場面からカラー図版で紹介。和紙文化が栄えた江戸時代から昭和初期にかけ丹精を込めて生み出された逸品を披露する。巻頭では繊維の不思議を解き明かし、巻末で未来に繋がる和紙の素材力と魅力を語る。さまざまな造形を生んだ和紙の可能性をみつめた一冊。

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どうぶつのことば──根源的暴力をこえて

著者:鴻池朋子
発行:羽鳥書店
発行日:2016年9月
定価:3,400円(税別)
サイズ:A5判、384ページ

昨年から今年にかけて神奈川県民ホールギャラリー、群馬県立美術館で個展「根源的暴力」を開催したアーティスト、鴻池朋子による、対話と書き下ろしを収録した書籍。2014年に日比谷で行われたシンポジウムの模様、鴻池と様々な分野の専門家との対話、鴻池自身による自然と人間の境界をめぐるエッセイから成る3章で構成され、個展に際して出版された作品集『根源的暴力』とは別の角度からアーティストを見つめることのできる一冊です。


建築家・坂本一成の世界

著者:坂本一成、長島明夫
ブックデザイン:服部一成
発行: LIXIL出版
発行日:2016年9月5日
定価:5,200円(税別)
サイズ:A4変型、304ページ

建築家・坂本一成の50年におよぶ仕事を網羅した作品集の決定版。
この作品集では、写真や図面などの豊富なヴィジュアル要素に加え、個々の建築に寄り添う細密な解説、そして様々な時代における坂本自身の言葉や他者の批評を断片として散りばめることで、坂本の建築の実像を浮かび上がらせようとしています。
坂本の建築は一つの視点の写真だけで表せるものではありません。
その建築のあらゆる部分は、他の部分、あるいは全体、さらには敷地を超えた世界と響きあうなかで成り立っています。
様々に異なる要素が多様な関係を持ちながら共存する、それこそが坂本一成の建築的世界だと言えるでしょう。
本書の構成は、そんな坂本の建築の在り方と呼応しています。
巻頭・巻末には、名作《House SA》《宇土市立網津小学校》の今の日常の姿をみずみずしく撮り下ろした写真を掲載。未完の作品も含む全作品歴、メディア掲載歴も完備した、坂本一成の建築を知るには必携の一冊です。

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金子國義スタイルブック

編著:金子修、岡部光
発行:アートダイバー
発行日:2016年7月23日
定価:1,600円(税別)
サイズ:四六判変、112ページ

2015年3月、画家・金子國義が逝去しました。この稀有な画家が残した名作の数々は、これからも時代を超えて愛され続けていくことでしょう。歌舞伎の舞台美術家のもとで修行し、日本の伝統芸能やその美意識を徹底的に学びながら、同時にヨーロッパの文化にも精通していた金子國義の作風は、唯一無二の魅力に溢れており、今後ますますグローバルな注目を集めるに違いありません。
金子作品の最大の魅力は、画家の存在そのものが作品世界に強く投影されていることです。「人生を謳歌しよう」「美しく生きよう」という姿勢に貫かれた哲学、いわば金子スクールの教えは、そのお弟子さんや私淑していたアーティストのなかで確実に引き継がれているのです。
本書では、金子國義がそうした人々に向けて実際に発した言葉やメッセージを、スタジオ・カネコ協力のもと、関係者への取材を通して集め、代表作とともに掲載します。その内容は、芸術に限ったものではありません。かつて日本の家庭でごく自然に教えられ、私たちが身につけていった「所作」「おもてなしの心」、そして「美しく生きるためのヒント」などが、金子國義ならではのセンスやユーモアに彩られた言葉として現れます。

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國府理作品集 KOKUFUBOOK

著者:坂本一成、長島明夫
発行:青幻舎
発行日:2016年6月11日
定価:3,200円(税別)
サイズ:A4変型、168ページ

國府理(こくふ・おさむ 1970-2014)は、乗り物の形態をモチーフに、実際に稼働させる動力と機能を備えた大型の立体作品を制作、発表。移動手段の実用枠を超えたユニークな乗り物を独自の設計思想と自らの手でつくり出し、機械・自然・人とが融合・対立・循環するメカニズムを考察し、それらを「もう一つの世界」として現実世界と相対させながら、人間と自然が共生していく「未来」を模索し続けた。本書は代表作約100点に、彼自身による「言葉」を添え、國府理の世界を一望する決定版作品集である。

2016/09/02(金)(artscape編集部)

カタログ&ブックス|2016年08月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

TOKYOインテリアツアー

著者:浅子佳英、安藤僚子
発行:LIXIL出版
発行日:2016年6月25日
定価:2,000円(税別)
サイズ:A5判、176ページ

東京のインテリアデザインと都市との関係をあきらかにする考現学的ガイドブック。 銀座、丸の内、原宿、中目黒など9つのエリアを対象に97のインテリアをイラストとテキストで紹介します。 本書に掲載されたショップやカフェ、ギャラリースペースなど、誰もが体感できるインテリアを眺めてみると、めまぐるしく変わるインテリアの集積として立ち上がる東京の姿が浮かび上がってくるでしょう。 これまで詳細なリサーチのなかったインテリアデザインを鑑賞・分析の対象として見せ、都市遊歩の魅力を刷新する1冊です。

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トーキョーワンダーサイト アニュアル 2015

監修:今村有策(トーキョーワンダーサイト館長)
発行:公益財団法人東京都歴史文化財団トーキョーワンダーサイト
発行日:2016年7月14日
定価:非売品
サイズ:A5判、160ページ

東京を拠点に、公募展、レジデンス事業、若手クリエーターの発掘事業などを手がけるトーキョーワンダーサイト。本書はその2015年度の活動記録集として出版された。1年間に行なわれた全事業の詳細や参加アーティストのプロフィール、公募展の審査員レビューのほか、ディン・Q・リーら6名のアーティストへのインタビューを収録。



インドネシア ファッション─海のシルクロードで花開いた民族服飾の世界─

監修:戸津正勝
発行:一般社団法人NHKサービスセンター
発行日:2016年7月
定価:非売品
サイズ:200×220mm、70ページ

2016年7月から翌月にかけて、日本・インドネシア共和国国交樹立60周年を記念し町田市立博物館で開催された「インドネシア ファッション─海のシルクロードで花開いた民族服飾の世界─」展の公式図録。インドネシア地域の研究者である戸津正勝氏が監修を行ない、氏が40年にわたって蒐集した服飾資料が展示された。本書には、出展された資料図版のほか、戸津氏による論考・解説が収録されている。


森村泰昌:自画像の美術史─「私」と「わたし」が出会うとき

編集:植松由佳、隈千夏
発行:国立国際美術館
発行日:2016年4月5日
定価:2,000円(税別)
サイズ:B4判変形、224ページ

2016年4月から6月にかけて、大阪・国立国際美術館で開催された「森村泰昌:自画像の美術史─「私」と「わたし」が出会うとき」展の公式図録。国際的に活躍する森村の地元である大阪の美術館では、初の大規模個展となった。森村の代表作である、自身が歴史上の有名人に扮するセルフ・ポートレイト作品、約100点にも及ぶカラー図版のほか、森村とドミニク・ゴンザレス=フォルステルと往復書簡を収録。


あゝ新宿─スペクタクルとしての都市

監修:岡室美奈子
発行:早稲田大学坪内博士記念演劇博物館
発行日:2016年6月20日
定価:2,000円(税別)
サイズ:B5判、160ページ

1960年代、新宿は明らかに若者文化の中心だった。紀伊國屋書店、アートシアター新宿文化、蝎座、新宿ピットイン、DIG、風月堂、花園神社、西口広場……。そこには土方巽、三島由紀夫、大島渚、唐十郎、寺山修司、横尾忠則、山下洋輔らさまざまな芸術文化の担い手たちや若者たちが集結し、猥雑でカオス的なエネルギーが渦を巻いていた。新宿という街自体がハプニングを呼び込む一つの劇場、一つのスペクタクル、あるいは一つの祝祭広場を志向していたのだ。では、現在の新宿はどうか。かつてのようなエネルギーに満ち溢れた新宿独自の文化は失われてしまったのだろうか。
写真やポスター、チラシなどの資料と当事者の証言で新宿の文化史を辿り直し、複数の論考によって新宿という街を検証する。そして磯崎新による幻の新都庁案で提示されていた祝祭広場の思想を手がかりに、祝祭都市新宿の未来像を構想したい。

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30年30話 クリエイター30組の対話によるデザインの過去・現在・未来

編集:戸塚泰雄、森田真規
発行:株式会社誠文堂新光社
発行日:2016年9月1日
定価:2,000円(税別)
サイズ:B5判、248ページ

日本で初めてのグラフィック・デザイン専門ギャラリーとして設立された「クリエイションギャラリーG8」。その創立30周年を記念して、2016年2月から翌月にかけて開催された「30年30話」展の公式図録。服部一成+菊地敦己、田中良治+千房けん輔(exonemo)など、ギャラリーと関係の深い30組のクリエイターたちクリエイターたちによるトークイベントが会期中に行なわれ、本書はその30組すべての模様が掲載。


2016/08/14(artscape編集部)

須田一政『SUDDENLY』

発行所:Place M

発行日:2016年5月16日

須田一政は2015年に敗血症を患っていた。化膿連鎖球菌に侵され、炎症の程度を示すCRP値は最高40に達した(基準値は0.3以下)という。その「いつ心臓が停止しても不思議ではない状態」から帰還したあとに、体調回復のために入院していた病院の病室で、繰り返し写真を見直し、「選び抜いた」近作を集成したのが本書である。
まさに「生死の境」に去来し、うごめきつつ姿を変えていくようなイメージ群が、写真集のページから溢れ出すように並んでいる。このところの須田の仕事ぶりには鬼気迫るものがあるが、この写真集でもそのただならぬ凄みに、絶句してしまうような写真が目白押しだった。特に目につくのは、液晶テレビの画面を写している写真である。須田は洋画が好きなようで、それらの一場面が断片的な映像として写しとられている。ほかにも、看板やポスターの一部を切り取った写真も多い。須田は写真集のあとがきで、スタンリー・キューブリックの「妄想や実現しなかった夢を現実と同じくらい重要なものとして扱おうとした」という言葉を引用している。このような、映像(まさに「妄想や実現しなかった夢」)を現実と等価のものとして扱う姿勢は、初期の頃からあったのだが、それがより研ぎ澄まされ、融通無碍なものになりつつある。
同年齢の(76歳)の荒木経惟もそうなのだが、須田の近作を見ていると、老いをネガティブにとらえるのではなく、むしろ何かを呼び覚ましていく契機としてとらえ直していこうとしているように見える。幽冥の世界を自由に行き来する表現が、輪郭をとりつつある。

2016/08/10(飯沢耕太郎)

五十嵐太郎、菊地尊也、東北大学五十嵐太郎研究室編著『図面でひもとく名建築』

会期:2016/08/06

『図面でひもとく名建築』の打ち上げを行なう。企画の開始から約1年で完成したので、これまでに五十嵐研で取り組んだ書籍に比べても、かなり早いペースだった。表紙を描いてもらったケンチクイラストレーターの野口理沙子さん、一瀬健人さんも参加する。果たして、そんなニッチな職業が成立するのだろうかと思っていたら、彼らは設計事務所に勤務しつつ、イラスト業も展開しているという。
http://noguchi-risako.com

2016/08/06(土)(五十嵐太郎)

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