2018年06月15日号
次回7月2日更新予定

artscapeレビュー

書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー

潮田登久子『みすず書房旧社屋』

発行:幻戯書房

発行日:2016/11/11

ユニークなドキュメンタリー写真+エッセイ集である。潮田登久子は1995年から「本と本の置かれている環境」をテーマにした写真を撮影しはじめた。本書に収められた「みすず書房旧社屋」の写真もその一環として撮られたもので、1948年に、芦原義信の設計で東京都文京区春木町1丁目(現・本郷3丁目)に建造された木造の社屋が、1996年8月に老朽化によって解体されるまでを追い続けている。
この旧社屋には、僕も一度だけ足を運んだことがある。およそ、みすず書房という日本有数の学術出版社のイメージにはそぐわない、下町のしもた屋という雰囲気の建物だった。それでも、潮田が撮影した写真を見ると、雑多に積み上げられた本の束、増殖する紙類、磨き込まれたテーブル、下宿屋のような流し、英字新聞が床に敷かれたトイレなど、いかにも「本をつくる」のにふさわしい、居心地のよさそうな環境であることがわかる。潮田は建物の外観や内装を丁寧に押えるだけでなく、その居住者たち、つまり編集部員や営業部員たちも撮影している。彼らのたたずまいも環境にしっくり融けあっている。夕方になると、近所の酒屋から缶ビールやおつまみを買ってきて、小宴がはじまるのだが、そんな和やかな談笑のなかから、いい企画が生まれてきたのだろう。いまや失われつつある、文化の匂いのする出版社が支えていたひとつの時代を、写真が見事に掬いとっていた。
本の装丁・デザインは潮田の夫でもある写真家の島尾伸三。当時みすず書房の編集部に在籍していた加藤敬事、横大路俊久、守田省吾、建築家の鈴木了二、写真家の鬼海弘雄と島尾伸三がエッセイを寄稿している。なお、版元の幻戯書房からは「本の景色/BIBLIOTHECAシリーズ」として、同じく潮田の写真で『先生のアトリエ』、『本の景色』が刊行される予定である。続編も楽しみだ。

2016/12/05(月)(飯沢耕太郎)

石川竜一写真集『okinawan portraits 2012-2016』

発行所:赤々舎

発行日:2016/09/02


石川竜一は、2015年に前作の『okinawan portraits 2010-2012』(赤々舎)で第40回木村伊兵衛写真賞を受賞した。本作はのその続編にあたる写真集である。
一癖も二癖もあるウチナンチュー(沖縄人)と正面から対峙し、裂帛の気合いを込めて撮影するポートレートが中心であることには変わりはない。だが、被写体の背景となる沖縄の風景を丸ごと捉えた写真の数が増えているのが目につく。石川のなかで、人物たちを取り巻く環境をしっかりと捉えることで、この地域に特有の風土性を浮かび上がらせようという意図が強まっているのは間違いないだろう。写真集のボリューム自体も厚みを増している。前作とあわせて見直すと、まさに石川の「okinawan portraits」のスタイルが完全に確立したことがわかる。
このシリーズは、おそらく彼のライフワークとして続いていくのだろうが、石川にはむしろ沖縄をベースにした写真だけでなく、撮影の領域をさらに広げていくことを期待したい。被写体とのコミュニケーションをとりやすい沖縄で、ある水準以上のスナップやポートレートを撮影することは、彼の抜群の写真家としての身体能力を活かせば、それほどむずかしくはないと思えるからだ。むしろ、よりコンセプチュアルな方向に狙いを定めた作品、あるいは沖縄以外の場所に長期滞在して撮影した写真も見てみたい。異なった環境に身を置くことで、逆に沖縄という場所の特異性が、さらにくっきりと浮かび上がってくるはずだ。

2016/11/17(飯沢耕太郎)

カタログ&ブックス|2016年11月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

長坂常|常に思っていること

著者:長坂常
発行:LIXIL出版
発行日:2016年11月10日
定価:1,800円(税別)
サイズ:A5判、160ページ

現在、都内のさまざまなショップ空間を手がけ、建築誌のみならずライフスタイル誌やカルチャー誌でも紹介されることの多い、長坂常率いるスキーマ建築計画。《Blue Bottle Coffee》や《TODAY'S SPECIAL》などのカフェやショップ、住宅やギャラリーのリノベーション作品、新築住宅や家具、展覧会会場構成など、さまざまなジャンルで設計を楽しみ、空間に求められるフォーマットや既成の空間のつくり方を軽々と更新しています。そして今後の海外での活躍に多くの人が注目しています。 本書では、7人の寄稿者(クライアントや協働者など)による「長坂常について思っていること」(寄稿、インタヴュー、往復書間)と、長坂が「常に思っていること」を、それぞれの作品や体験をめぐって掛け合わせ、構成することで、建築家・長坂常と長坂の建築に対する思いを立体的にみていきます。 作品のあり方と同様、本書でもいろいろな人や物事の声を聞いてさまざまな考えをめぐらせる長坂が、これからどのような作品をつくっていくのか。そんな未来の想像も楽しくなる一冊です。

出版社サイトより]

みちのくアート巡礼キャンプ2016 レポートブック

発行:特定非営利活動法人 芸術公社
発行日:2016年9月30日
定価:非売品
サイズ:A5判、40ページ

東北を知る、巡る。東北から問いを立てる。それを自分の表現や企画へと発展させる──。
「みちのくアート巡礼キャンプ」は、これら3つを主眼とした、東北で今後なんらかの活動を志すアーティストや企画者を対象とした1カ月間の集中ワークショップ。「合宿ワークショップでの講師からのレクチャーや各参加者の最終プランや講評などがまとまっている他、参加者のワークショップを振り返ったテキストも掲載しています。」(ウェブサイトより)
なお、本レポートブックは「みちのくアート巡礼キャンプ2016」のウェブサイトからPDFを閲覧・ダウンロードすることができる。


写真をアートにした男 石原悦郎とツァイト・フォト・サロン

著者:粟生田弓
発行:小学館
発行日:2016年10月16日
定価:2,200円(税別)
サイズ:四六判、322ページ

本書は、1978年に日本で最初に誕生した写真のコマーシャル・ギャラリーであるツァイト・フォトの創始者、石原悦郎の生涯を追うことで、日本写真史を立体的に描く試みである。石原が写真画廊を始めた頃は写真が未だ雑誌の為の印刷原稿の域にとどまり、オリジナル・プリントに対して、芸術的な価値はまったく認められていなかった。彼はいかにして、今日のように写真家がアーティストとして活動し、写真が芸術作品として社会に認められるような状況を作り出したのであろうか。そのことは表舞台にいる写真家だけを見ていては知り得ないことである。石原がフランスで世界的巨匠であるアンリ・カルティエ=ブレッソンやブラッサイらと交流し、その経験を国内作家にも伝えながら、独自に「アートとしての写真」を広めようとした活動は、結果的に植田正治を世界に発信し、荒木経惟、森山大道といった世界的写真家の輩出という大きな果実をもたらす。写真がアートになるために必要なことを総合的にプロデュースした、いわば日本写真史の影の立役者が石原悦郎という人物なのである。石原の眼を追体験できる本書は、日本写真史への理解を深める一冊となる。

出版社サイトより]

TURNフェス ドキュメントブック 2015

発行:アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)
発行日:2016年8月
定価:非売品
サイズ:B5版、120ページ

東京2020オリンピック/パラリンピックの文化プログラムを先導するモデル事業「TURN」(リーディングプロジェクト)の一環である「TURNフェス」は、異なる背景や習慣をもつ一人ひとりが出会うことを楽しみ、深め、共有するフェスティバル。いろいろな人の日常とアーティストの交流から生まれた作品を追体験するエキシビションや、多彩なゲストを招いたカンファレンスを実施。本書ではエキシビションの様子や、対談などを収録。


青森EARTH2016 根と路


執筆:今福龍太、唄邦弘、奥脇嵩大
造本設計・デザイン:大西正一
発行:青森県立美術館
発行日:2016年8月
定価:2,800円(税込)
サイズ:A5変形(函入)、218ページ

2016年7月から9月にかけて青森県立美術館で開催された「青森EARTH2016 根と路」の公式カタログ。縄文に創造の原点をたずね、青森の大地に根ざした新たなアートを探求する企画。その集大成となる今年は「人は大地に『根』を張り生き、旅という『路』を行く」というコンセプトのもと、「根と路」と題して開催された。文化人類学者の今福龍太氏による群島世界、民族、宇宙等をテーマにした新作掌編8編のほか、美学者、唄邦弘氏による「洞窟とイメージ」についての小論を収録している。


KIITOドキュメントブック 2015


企画・制作・編集:デザイン・クリエイティブセンター神戸
アートディレクション&デザイン:寄藤文平+北谷彩夏(文平銀座)
発行:デザイン・クリエイティブセンター神戸
発行日:2016年3月
定価:非売品
サイズ:A4、80ページ

デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)の年間の活動を紹介するアニュアルブック。「ちびっこうべ」「セルフ・ビルド・ワークショップ」「神戸『食』プロジェクト」など、2015年度にKIITOで催されたプロジェクトを総覧する。なお、本書はウェブサイトから閲覧・ダウンロードすることができる。


未知の表現を求めて─吉原治良の挑戦

発行:芦屋市立美術博物館、大阪新美術館建設準備室
発行日:2016年9月
定価:1,600円(税込)
サイズ:B5版、112ページ

20世紀の前衛美術を代表する画家・吉原治良(1905-1972)の生涯を、第一級の吉原コレクションを誇る芦屋市立美術博物館と大阪新美術館建設準備室の所蔵作品から厳選した約90点をもとにたどる「未知の表現を求めて―吉原治良の挑戦」展公式カタログ。豊富な図版と吉原治良のさまざまな活動を紹介するコラムを収録。


2016/11/01(火)(artscape編集部)

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日本人と洋服の150年

会期:2016/10/06~2016/11/30

文化学園服飾博物館[東京都]

筆者の周囲では日常的に和服を着ている人を見ることは稀で、ほとんどの人たちは洋服で日々を過ごしている。しかしながら日本における洋装の歴史はせいぜい150年。明治維新以前(あるいはそれ以降も長く)着物を着てきた日本人が、どのように西洋の衣服を受け入れていったのか。この展覧会は150年にわたる日本人の洋装の歴史をたどる企画だ。とはいうものの、近年の歴史研究においては明治維新をそれ以前の文化からの断絶と見るのではなく、江戸期から明治期の連続性に着目するものが多い。本展も中心となっているのは明治・大正・昭和の洋服なのだが、序章においてポルトガル人漂着以降の唐物、南蛮物、紅毛物と呼ばれた文物が紹介されており、じつはその展示がとても興味深い。海外からもたらされた代表的な商品は更紗(木綿布)、羅紗(羊毛布)といった織物で、それらは服の一部に取り入れられたり、袋物に仕立てられたり、裂帖に貼り込まれて鑑賞されてきた。「縞」は「島」「島渡り」「島物」に由来する舶来の文様であった。日本の文化に溶けこんだ外来の衣服もある。「合羽」はポルトガル語のcapa(英語のcape)、「襦袢」は同じくgibão、袴に似た仕事着の「軽衫(カルサン)」はcalãoに漢字を当てたものだ。すなわち開国以前から日本人は西洋の衣装を模倣し、生活に取り入れてきたのである。また一方で、明治になってすべての人々の間で急速に洋装化が進んだわけではないことも示されている。官吏、軍人、鉄道員、郵便配達夫など、社会インフラに従事する人々の制服にはいち早く洋装が取り入れられ、大正期には都会で働く男性のほとんどが洋装であったが、そうした人々も自宅では着物で過ごすことが多かった。女性の洋装化はさらに遅かった。展示解説によれば、今和次郎の街頭調査では、昭和初めの東京の女性の洋装化率は2%、昭和12年には25%。戦後においても着物の女性は多く、地方においてそれはさらに顕著だったという。ただし変化がなかったわけではない。カフェの女給は和服に洋式のエプロンをつけ、街を行く女性はレースの日傘を差し、袴姿の女学生はタイツとブーツを履くなど、洋装はしばしば部分的に取り入れられ、ハイブリッドなファッションをつくっていったのだ。
時代の中で変わるものと変わらないもの、あるいは変化の速度という点で、実物資料と同様、あるいはそれ以上に興味深く感じるのは「洋服」という言葉それ自体だ。和服が日常着であった時代にそれと区別する意味で用いられた言葉が、洋装が日常着になり、かつての日常着が「和服」と呼ばれて日常着と区別されるようになったにも関わらず、いまだに「洋服」と呼ばれているのはなぜなのか。「洋服」という言葉には西洋式の服という以上の意味が含まれているのか。「洋服」の歴史には、衣服に対する日本人のアイデンティティと舶来の文化への眼差しを見ることができるのかもしれない。[新川徳彦]


展示風景

2016/10/20(木)(SYNK)

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カタログ&ブックス│2016年10月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

小さなリズム:人類学者による「隈研吾」論

著者:ソフィー・ウダール、港千尋
発行:鹿島出版会
発行日:2016年9月15日
定価:2,600円(税別)
サイズ:四六判、228ページ

隈研吾の建築が生み出されるプロセスに、独創的・挑戦的な思想を感じ取ったフランス人の人類学者と日本人の写真家が、隈事務所の日常をつぶさに観察することによって描き出した型破りな「隈研吾」論。

出版者サイトより]


夢みる人のクロスロード 芸術と記憶の場所

編集:港千尋
発行:平凡社
発行日:2016年8月10日
定価:1,500円(税別)
サイズ:A5変型、152ページ

「あいちトリエンナーレ2016」公式コンセプトブック。いま・ここでアートを考える新しい視角を提示する。池澤夏樹、岡谷公二、関口涼子、今福龍太、ジョルジョ・アガンベン、ジョルジュ・ディディ=ユベルマンなど総勢18名の豪華執筆陣による越境の夢。

出版者サイトより]


建築学生ワークショップ明日香村 2016

発行:特定非営利活動法人アートアンドアーキテクトフェスタ
発行日:2016年9月20日
定価:1,852円(税別)
サイズ:A4判、104ページ

全国の大学生を中心とした、地域滞在型建築ワークショップの全記録。2016年度の開催地は、奈良県明日香村・キトラ古墳周辺地区。全国から集まった約50名の大学生が、国内外で活躍中の講師の指導のもと、ちいさな建築作品を具現化させる。各作品のコンセプトから総評までを、豊富な図版とともに収録。


村上隆のスーパーフラット・コレクション


発行:Kaikai Kiki Co., Ltd.
発行日:2016年10月4日
定価:10,000円(税別)
サイズ:A4変型、444ページ

横浜美術館にて開催された「村上隆のスーパーフラット・コレクション」展(2016)のカタログ。現代美術から陶芸、骨董に至るまで、展示された約1300点の村上隆氏のコレクション全作品、全作家の紹介のほか、デイヴィッド・ウォルシュ氏や広瀬一郎氏との対談を掲載。各分野の用語解説や詳細な年譜も収録。


2016/10/03(月)(artscape編集部)

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