2018年10月15日号
次回11月1日更新予定

artscapeレビュー

書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー

第21回文化庁メディア芸術祭受賞作品展

会期:2018/06/13~2018/06/24

国立新美術館[東京都]

例年どおり冷やかし程度にしか見てないので、めんどくさい作品は通りすぎている。ずいぶん乱暴な見方だが、それで足が止まった作品はホメてあげたい。折笠良の《水準原点》はクレイアニメ。雪原か海原のような白い風景のなかをぐんぐん進んでいくと、ときおり津波のような高波が押し寄せる。なんだろうと見ていると、今度は同じ場所を斜め上から見下ろすかたちで映し出していく。なんと津波の中央では文字が生まれている、というより、文字が生まれる波紋で津波が生じているのだ。その文字をたどっていくと、シベリア抑留経験のある石原吉郎の詩「水準原点」になる。言葉の生成現場がかくも厳しいものであることを伝えるこのアニメも、かくも厳しい生成過程を経て完成したものだ。

もうひとつ、Gary Setzerの映像作品《Panderer(Seventeen Seconds)》はきわめてわかりやすい。映像のなかで男が観客に対し、「美術館で、平均的な鑑賞者がアート作品を見るのに使う時間は1作品につき約17秒であり、この映像作品はその制約を受け入れて17秒という理想的な鑑賞時間を正確に守っている」と語り、17秒で終わる。作品の内容と形式が完全に一致した「理想的」なアートになっているのだ。もちろん理想が必ずしもすばらしいとは限らないが。

2018/06/12(村田真)

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大竹弘二『公開性の根源──秘密政治の系譜学』

発行所:太田出版

発行日:2018/04/18

本書の書籍化を心待ちにしていたのは、評者ばかりではないだろう。2012年より雑誌『atプラス』誌上で始まった同名の連載は、その数年前にカール・シュミットに関する博士論文(『正戦と内戦──カール・シュミットの国際秩序思想』以文社、2009)を上梓した著者の、次なる展開を克明にしるしづけるものだった。その濃密な連載が、大幅な加筆修正を経て500頁を超える大著として目の前に現われたことを、まずは喜びたい。

本書のテーマは、大きく言えば「法規範」とその「執行権力」との関係である。あるいはこれを、「主権」と「統治」の関係と言い換えてもよい。私たちは通常、あらかじめ存在する法規範にもとづき権力が執行される、あるいは最高規範としての主権にもとづき統治がなされる、といった仕方で両者の関係を考えがちだ。むろん、原則としてはその通りである。しかし「今日の政治は、執行が規範を踏み越える例外状態の常態化という観点から考察できるのではないか」(10頁)。これが本書を貫く基本的なスタンスである。

この「法や主権に執行権力が優越する」場面を描き出すべく、本書はまず16世紀という近代国家の生成期に遡る。そして、マキャヴェッリ、ホッブズ、ルソーといった古典はもちろんのこと、シュミット、カントロヴィッチ、アガンベンらのテクストを縦横無尽に参照しながら、先に述べたような主権と統治の関係が論じられていくのだ。そこで暴き出されるのは、近代的な政治的公開性の根源に存在する「前室」(シュミット)の権力、すなわち初期近代において「機密/アルカナ」と呼ばれた権力の姿にほかならない。しかも、そこで扱われる資料体が、いわゆる政治思想のそれにとどまらず、さまざまな文学的テクストにも及んでいることは特筆しておくべきだろう。メルヴィルの中篇小説『書記バートルビー』を、なんと語り手の弁護士の職業(衡平法裁判所の主事)に注目しながら読みなおす第10章「書記の生、文書の世界」、あるいは『城』や『訴訟』の小説家カフカの姿を、「保険会社に務めるサラリーマン」という側面から捉えかえす第11章「フランツ・カフカ、生権力の実務家」など、序論+全13章+補論からなる本書のどこを開いても、広範囲にわたる文献の博捜と読解に裏打ちされた堅実な研究の成果が、いたるところに顔をのぞかせる。

以上の紹介からも明らかであるように、本書の射程は、むろん現下の国内/国際政治の諸問題に限定されるものではない。しかし、執行権力が法規範を堂々と踏み越えるという「例外状態の常態化」がまさに目の前で展開されるいまこそ、本書は読まれるべき格好の時機を迎えているように思われる。

2018/05/28(月)(星野太)

ジャン=リュック・ナンシー『ミューズたち』

訳者:荻野厚志

発行所:月曜社

発行日:2018/04/07

哲学者ジャン=リュック・ナンシー(1940-)が「芸術」を論じた(あるいは語った)論文・講演原稿を収めたのが本書である。ナンシーの芸術論といえば、すでに邦訳もある『肖像の眼差し』(岡田温司・長友文史訳、人文書院、2004)や『イメージの奥底で』(西山達也・大道寺玲央訳、以文社、2006)といった著作が真っ先に思い浮かぶ。だが、これらの力点はあくまでも「肖像」や「イメージ」という──厳密には「芸術」とは別の圏域に属する──概念に置かれており、そこで美や芸術一般をめぐる思索が十全に展開されていたわけではなかった。対して、これら二書に先立って刊行された本書『ミューズたち』(原著1994/増補版2001)こそ、美や芸術をめぐるナンシーの哲学的主著と呼べるものである。

その要点は、表題にすでに現われている。本書において、ナンシーは西洋における芸術の象徴たる「ミューズ」が、単数ではなく複数であることに繰り返し注意を促す。「存在するのはミューズたちであって、ミューズなるものではない」(9頁)。これは、芸術をめぐる思考の歴史にとって、けっして些末な問題ではない。なぜなら、現に複数のジャンルからなる芸術は、ある時にはその複数性において、またある時にはその単数性(すなわち、それらを束ねる「芸術」なるもの)において論じられてきたからだ。他方ナンシーは、こうした複数性と単数性のいずれかに与する立場をともにしりぞけつつ、かつて自著の表題にも用いた「単数複数存在(être singulier pluriel)」としての芸術について論じる。むろん、そこでは「芸術」なるものの単数/複数性にとどまらず、ギリシア語の「テクネー」、ラテン語の「アルス」から分岐した(今日でいう)「技術」と「芸術」の関係もまた、同じく議論の俎上に載せられる。

カラヴァッジョの《聖母マリアの死》(1605-06、ルーヴル美術館蔵)にまるごと捧げられた第Ⅲ章「閾の上に」のような例外もあるが、基本的に本書はナンシーという哲学者の思弁が開陳された書物であり、読解に際してはある程度、著者の用いる概念や論法に馴染んでおく必要がある。そのため晦渋な記述に行き当たることもしばしばと思われるが、訳者の言葉を借りればそれはナンシーが「フランス語をかなり酷使して書く」(279頁)がゆえであり、そこではけっして無益な言葉遊びがなされているわけではない。比較的コンパクトながら、本文でも繰り返し言及されるヘーゲルやハイデガーの美学・芸術哲学に伍する内容を秘めた、熟読に値する一書である。

2018/05/28(月)(星野太)

ハンス・ウルリッヒ・オブリスト『キュレーションの方法──オブリストは語る』

訳者:中野勉

発行所:河出書房新社

発行日:2018/02/26

ハンス・ウルリッヒ・オブリスト(1968-)による本書『キュレーションの方法』は、その数年前に上梓された前著『キュレーション小史』(邦訳『キュレーション──「現代アート」をつくったキュレーターたち』村上華子訳、フィルムアート社、2013)と、いわば対をなす書物である。前著が、ウォルター・ホップスやポントゥス・フルテンをはじめとする先達のキュレーターへのすぐれたインタビュー集であったのに対し、本書はオブリスト自身がこれまでの半生を振り返りつつ、自らの「キュレーションの方法」について語った、自伝的なエッセイ集とも呼べるものである。

とはいえ、本書はキュレーションの「方法」なるものについて、ひとつの体系だった理論を提供するものではない。そうではなく、本書はオブリストという──現在もっとも忙しく世界を飛び回る──ライター/インタビュアー/キュレーターがいかにして出来上がったのかを伝える、ひとつのドキュメントなのである。その冒頭では、スイスに生まれた10代のオブリストがフィッシュリ&ヴァイスやアリギエロ・ボエッティに出会い、エドゥアール・グリッサンの著作に影響を受け、そしてハラルド・ゼーマンの「綜合芸術作品への傾向」展に計41回(!)足を運んだという若き日のエピソードが、印象的な筆致によって語られる。その早熟ぶりと行動力にはただ驚かされるばかりだが、個人的なエピソードと客観的な考察を交互に含む本書の内容は、キュレーションという営為(やその周辺の事柄)に関心を寄せる読者に、さまざまな示唆を与えてくれるに違いない。

同時に本書は、ルーシー・リパードの「数字」展やセス・ジーゲローブの「ゼロックス・ブック」プロジェクト、そしてジャン=フランソワ・リオタールの「非物質的なものたち」など、1970年代から80年代にかけての先駆的な試みを、オブリストや同世代のアーティストがどのように見ていたのかを伝える資料としても興味深いものである(ちなみに評者自身、かつてリオタールがキュレーションを務めた「非物質」展について調査をしていたとき、本書で引用されているフィリップ・パレーノの証言から大きな示唆を受けた経験がある)。その意味で、本書は稀代のインタビュアーであるオブリストが自らを材料にこしらえた、一種のオーラル・ヒストリーのようなものとみなせるかもしれない。

2018/05/28(月)(星野太)

カタログ&ブックス│2018年4月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

コンニチハ技術トシテノ美術 Nice to meet you Artechnik

企画・発行:せんだいメディアテーク
制作・販売:T&M Projects
発行日:2018年3月20日
定価:1,500円(税抜)
サイズ:B5判変形、ソフトカバー、128ページ
写真:小岩勉
デザイン:佐藤豊
編集協力:高橋創一
編集:細谷修平、清水建人(せんだいメディアテーク)

2017年度の展覧会「コンニチハ技術トシテノ美術」の記録書籍を刊行しました。展示作品の写真や作家の言葉、社会学者貞包英之さんと鷲田清一館長の論考、comosTVのトークイベントなどを掲載しています。

現代アートとは何か

著者:小崎哲哉
発行:河出書房新社
発行日:2018年3月27日
定価:2,700円(税抜)
サイズ:四六判変形、ハードカバー、448ページ

現代アートを司るのは、いったい誰なのか? 世界的企業のトップや王族などのスーパーコレクター、暗躍するギャラリスト、資本主義と微妙な距離を保つキュレーター、存在感を失いつつも反撃を試みる理論家、そして新たな世界秩序に挑むアーティストたち……。日本からはなかなか見えてこない、グローバル社会における現代アートの常識(ルール)=本当の姿(リアル)を描きつつ、なぜアートがこのような表現に至ったのか、そしてこれからのアートがどのように変貌してゆくのかを、本書は問う。さらに、これら現代アートの「動機」をチャート化した「現代アート採点法」によって、「難解」と思われがちなアート作品が目からウロコにわかりはじめるだろう。アートジャーナリズムの第一人者による、まったく新しい現代アート入門。

メディア・アート原論

編者:久保田晃弘・畠中実
発行:フィルムアート社
発行日:2018年3月24日
定価:1,700円(税抜)
サイズ:B6判、ソフトカバー、208ページ
デザイン:戸塚泰雄(nu)

メディア・アートを明確に定義することは難しく、メディア・アートをめぐる言説に関しても複数が錯綜している状態です。本書は、最先端の工学に明るく、創作者としても活躍中の久保田晃弘さんと日本のメディア・アートのメッカ、NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]で20年間メディア・アートの現場に携わってきた畠中実さんという第一人者の二人が、メディア・アートに関する論点をわかりやすく整理・解説した入門書です。

キュレーションの方法 オブリストは語る

著者:ハンス・ウルリッヒ・オブリスト
訳者:中野勉
発行:河出書房新社
発行日:2018年2月26日
定価:2,916円(税抜)
サイズ:四六判、ハードカバー、248ページ

英「アートレビュー」誌「現代アートの最も影響力を持つ100人」で第1位に選ばれたトップ・キュレーターが、自身の活動を振り返り、現代アートを含む芸術文化の過去と未来を語り尽くす!

JA 109 SPRING, 2018 Kengo Kuma: a LAB for materials

発行:新建築社
発行日:2018年3月3日
定価:2,963円(税抜)
サイズ:297×226mm、ソフトカバー、208ページ
表紙デザイン:田中義久

くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質」展の公式図録。「国内外で膨大なプロジェクトを抱えつつ疾走する世界的建築家、隈研吾(1954~)。古今東西の思想に精通し、「負ける建築」「自然な建築」などの理念を実践してきた約30年に及ぶプロジェクトを集大成して展観します。本展では特に、隈が仕事を通じて対話を重ねてきた素材に着目し、主要なマテリアル(竹、木、紙、石、土など)ごとに分類・整理することで、“もの”という観点から概観を試みます。」
展覧会は東京ステーションギャラリーにて2018年5月6日(日)まで開催中。

[引用部分:美術館ウェブサイトより]

グリーンランド:中谷芙二子+宇吉郎

発行:エルメス財団
発行日:2018年3月
定価:非売品
サイズ:A5判、ソフトカバー、72ページ
アートディレクション:犀

2018年3月上旬までメゾンエルメスで開催された、霧のアーティストとして国際的に活躍する中谷芙二子とその父・宇吉郎による同名の展覧会の公式カタログ。展示のインスタレーションビュー、作品リストのほか、岡崎乾二郎による評論「あふるるもの」などを収録。

AC2 No.19(通巻20号)

発行:青森公立大学 国際芸術センター青森(ACAC)
発行日:2018年3月23日
定価:無料(送料は自己負担、取り寄せ方法などの詳細は発行元のページ参照)
サイズ:B5判変型、ソフトカバー、124ページ
デザイン・レイアウト:小枝由紀美

アーティスト・イン・レジデンスを主な事業とする国際芸術センター青森による編集・発行の定期刊行誌。特集は「美術と社会」。2017年に同施設で滞在制作を行なったアーティストのインタビューや展示記録などを複数掲載。


芸術と労働

編者:白川昌生/杉田敦
発行:水声社
発行日:2018年3月1日
定価:2,916円(税抜)
サイズ:ハードカバー、236ページ

芸術活動と労働について現況をさまざまな視点から捉え、芸術と労働、芸術と社会との関わりを考察し、その行方を探る試み。

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コンサベーション_ピース ここからむこうへ part A 青野文昭展

編者・執筆:大内曜
発行:武蔵野市立吉祥寺美術館
発行日:2018年3月30日
定価:2,000円(税抜)
サイズ:A4判、ソフトカバー、80ページ
デザイン:尾中俊介(Calamari Inc.)

2017年9月9日〜10月15日に武蔵野市立吉祥寺美術館で開催した「コンサベーション_ピース ここからむこうへ part A 青野文昭展」の公式カタログ。同展の会場写真や青野文昭氏による関連テキストのほか、小説家の保坂和志氏が本展に寄せたテキストを掲載。出品作以外の過去作品図版も多数掲載し、青野氏の作品集としての体裁を兼ねた内容です。

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2018/04/15(artscape編集部)

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