2019年01月15日号
次回2月1日更新予定

artscapeレビュー

書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー

露口啓二『地名』

発行所:赤々舎

発行日:2018/02/01

露口啓二は、昨年(2017)、福島県の原子力発電所事故にともなう「帰還困難区域」と「居住制限区域」を含む風景写真集『自然史』(赤々舎)を上梓し、高い評価を受けた。その彼の次の写真集は、1999年に開始され、中断を経て2014年に再開された「地名」シリーズだった。北海道各地で撮影された写真には、それぞれ「大誉地/Oyochi/o-i-ochi(川尻〈そこ〉に・それが・多くいる・ところ=river mouth.it.a lot of.place)」という具合に、和名の地名とその読み、その元になったアイヌ語の地名とその意味が付されている。いうまでもなく、露口がもくろんでいるのは、アイヌたちが暮らしていた土地を収奪して上書きした北海道の地名が孕む重層的な構造を、写真と「地名」を通じて暴き出すことである。併記された和名とアイヌ語を眺めているだけで、さまざまな感慨が湧き上がってくるのを抑えることができない。

さらに興味深いのは、「成人した人々の標準的と思われる視線の高さ」で撮影された場所を、少し時間を置いて「再度訪れ、同じ場所から前回の写真の右あるいは左を撮影」していることだ。写真集には、そうやって撮影された2枚の写真が並んでいるのだが、この操作も二つの地名と同様に、その「間」へと思いを導くために設定されているのではないだろうか。周到に準備され、細やかに達成された作業の集積によって、日本の風景を、写真を通じて読み解いていく新たな回路が生み出されつつある。『自然史』と『地名』を二つの柱とする露口の写真家としての営みが、今後、どのように大きく開花していくのかが楽しみだ。

2018/06/25(月)(飯沢耕太郎)

カタログ&ブックス│2018年6月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

Under 35 Architects exhibition 2018 OPERATION BOOK
35歳以下の若手建築家による建築の展覧会(2018)図録

発行:アートアンドアーキテクトフェスタ
発行日:2018年6月1日
定価:926円(税抜)
サイズ:A5判、ソフトカバー、164ページ
アートディレクション:平沼佐知子(平沼孝啓建築研究所)

今秋、うめきたシップホール(大阪)にて開催される「Under 35 Architects exhibition 35歳以下の若手建築家による建築の展覧会2018」の展覧会図録。
「これからの活躍が期待される 35歳以下の出展候補者を全国から募り、ひと世代上の建築家である「平田晃久」の厳正な審査を経て選出された建築作品の展覧会です。また、その出展作品の中から優秀な作品を選出し、Under 35 Architects exhibition 2018 Gold Medal賞 、Toyo Ito Prize(伊東賞)を授与します。本展は、これからの活躍が期待される若手建築家に発表の機会を与え、日本の建築の可能性を提示し、建築文化の今と未来を知る最高の舞台となるでしょう。」

[引用部分:展覧会ウェブサイトより]
YCAM BOOK

発行:山口情報芸術センター[YCAM]
発行日:2018年3月4日
定価:非売品(ウェブサイトより閲覧可能)
サイズ:A5判、ソフトカバー(紙製ケース入り)、48ページ
編集:桜井祐(TISSUE Inc.)+山口情報芸術センター[YCAM]
アートディレクション:大西隆介(direction Q)
イラストレーション:楢崎萌々恵

YCAMの活動を紹介する冊子「YCAM BOOK」が完成しました。この冊子は、YCAMの多岐に渡る活動をご紹介するものです。
冊子は、YCAMの概要を紹介する冊子と、2017年度ならびに2018年度の事業を紹介する冊子の2種類に分かれており、それらが組み合わされています。
編集は桜井祐さん+YCAM、アートディレクションは大西隆介さん、表紙などのイラストは楢崎萌々恵さんです。
僅かではありますが、館内で開催するイベントなどで配布する予定ですので、お見かけの際はぜひお手に取ってご覧ください。

シアターコモンズ・ラボ 2017-2018 レポートブック

発行:シアターコモンズ・ラボ事務局
発行日:2018年3月
定価:非売品(ウェブサイトよりPDFダウンロード可能)
サイズ:A5判、ソフトカバー、50ページ
執筆:シアターコモンズ・ラボ事務局(藤井さゆり、柴原聡子)、相馬千秋、濱野智史、小松理虔、カゲヤマ気象台、シアターコモンズ・ラボ参加者の皆さん(参加者の声)
編集:柴原聡子、藤井さゆり
アートディレクション&デザイン:加藤賢策(LABORATORIES)

2017年からスタートした新規人材育成事業「シアターコモンズ・ラボ─社会芸術アカデミー事業」。第1期(2017年度)のレポートブックが完成しました。1年間を通じて5つのラボとセミナーシリーズを開催、100名を超える受講者が演劇的発想を活用し、それぞれの問題意識をあらたな創作や企画に接続するワークショップに参加しました。その濃密な学びの時間を写真と文章で記録したレポートブック全50ページ。ぜひご覧ください。

ウェブサイトより]
トーキョーアーツアンドスペース アニュアル 2017

発行:公益財団法人東京都歴史文化財団東京都現代美術館トーキョーアーツアンドスペース事業課
発行日:2018年5月24日
定価:非売品(ウェブサイトよりPDFダウンロード可能)
サイズ:A5判、ソフトカバー、176ページ
編集:杉本勝彦、トーキョーアーツアンドスペース(伊藤まゆみ、市川亜木子、荻田果林、渡辺俊夫)
インタビュー:島貫泰介
表紙・インタビュー撮影:後藤武浩
デザイン:漆原悠一(tento)

トーキョーアーツアンドスペースの2017年度の活動をまとめた事業報告書。全国の美大や美術館のライブラリーなどでも閲覧可能。


HAPS事業報告書 2017年度

発行:東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス(HAPS)実行委員会
発行日:2018年3月31日
サイズ:A4判、ソフトカバー、28ページ
編集:松永大地
デザイン:坂田佐武郎、桶川真由子
写真:成田舞、前谷開、松見拓也

京都在住の芸術家たちの居住・制作・発表を包括的に支援する、東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス(HAPS)のアニュアルレポート。2017年度の活動報告だけでなく、HAPSの事業内容の詳細や支援アーティストの声なども紹介。


神戸スタディーズ#6「“KOBE”を語る GHQと神戸のまち」

制作・発行:デザイン・クリエイティブセンター神戸
発行日:2018年3月
定価:非売品(ウェブサイトより送料着払で送付申し込み可能/PDFダウンロード可能)
サイズ:B5判、ソフトカバー、48ページ
執筆・編集:村上しほり
アートディレクション:上田英司(シルシ)

「第二次世界大戦後の1945年9月からサンフランシスコ平和条約発効の1952年4月まで、GHQ(General Headquarters=連合国占領軍)に日本が占領されていたことをご存知ですか? 戦時下の神戸については、これまで長い時間をかけて少しずつ解明されてきました。しかし、戦後の神戸にGHQが駐留していたことや、その時期の暮らしに関する記憶は、十分には語り継がれておらず、いまだ知られていないことが多くあります。その主な理由は、神戸には当時の状況を記録した資料が限られてきたこと、そして、戦後の暮らしや“進駐軍”について語られる機会がなかったことにあるでしょう。」
神戸スタディーズ#6」として、デザイン・クリエイティブセンター神戸で行われたGHQ占領期の神戸のまちについてのレクチャーと、実際にそこに暮らした方々が語りあう公開ヒアリングのレポートブック。

[引用部分:発行元ウェブサイトより]
ARTEFACT 01 都市のカルチュラル・ナラティヴ/増上寺

発行:慶應義塾大学アート・センター
発行日:2018年3月12日
定価:無料(ウェブサイトより送料着払で送付申し込み可能/PDFダウンロード可能)
サイズ:B5判、86ページ
編集・企画:「都市のカルチュラル・ナラティヴ」プロジェクト(本間友、松谷芙美)
企画制作:Rhetorica(松本友也、太田知也、遠山啓一)
アートディレクション・デザイン:太田知也(Rhetorica)
協力:フランツ・ワクトメイスター(翻訳・アシスタント)、髙野明子(校閲)、田島遥(取材)

ARTEFACTは「都市のカルチュラル・ナラティヴ」のプロジェクト・マガジンです。
プロジェクトの活動を、レファレンスを追記した書き起こしやレポートなどによって記録するとともに、プロジェクトの活動に参加できなかった人でも、本誌を手にとることによって都市のカルチュラル・ナラティヴを知り、楽しむことができるような誌面作りを目指して、マガジンとしての企画記事も含めた構成をとっています。

海を渡ったニッポンの家具 豪華絢爛仰天手仕事 (LIXIL BOOKLET)

著者:菅靖子、門田園子、庄子晃子 発行:LIXIL出版
発行日:2018年6月20日
定価:1,800円(税抜)
サイズ:A4判変型、ソフトカバー、84ページ
写真:大西成明
アートディレクション:祖父江慎

明治時代、輸出用として作られた家具。欧州のジャポニスム流行の波に乗り、陶磁器や七宝、金工品などとともに日本の伝統的な美術工芸品の一つとしてもてはやされた。高度な手技と欧米向けにアレンジされた過剰な装飾でキッチュにも見えるデザインは、当時の輸出家具の特徴と言えよう。他の工芸品と比べ、国内に現存品が少ない中、本書では、珠玉の工芸家具を、寄木細工、芝山象嵌、青貝細工、彫刻家具、仙台箪笥の5つに分け、技法や背景、見どころと併せて紹介する。フォルムの面白さ、そして神業のような装飾などをたっぷりと堪能させてくれる写真家・大西成明による図版満載の一冊。

2018/06/15(artscape編集部)

第21回文化庁メディア芸術祭受賞作品展

会期:2018/06/13~2018/06/24

国立新美術館[東京都]

例年どおり冷やかし程度にしか見てないので、めんどくさい作品は通りすぎている。ずいぶん乱暴な見方だが、それで足が止まった作品はホメてあげたい。折笠良の《水準原点》はクレイアニメ。雪原か海原のような白い風景のなかをぐんぐん進んでいくと、ときおり津波のような高波が押し寄せる。なんだろうと見ていると、今度は同じ場所を斜め上から見下ろすかたちで映し出していく。なんと津波の中央では文字が生まれている、というより、文字が生まれる波紋で津波が生じているのだ。その文字をたどっていくと、シベリア抑留経験のある石原吉郎の詩「水準原点」になる。言葉の生成現場がかくも厳しいものであることを伝えるこのアニメも、かくも厳しい生成過程を経て完成したものだ。

もうひとつ、Gary Setzerの映像作品《Panderer(Seventeen Seconds)》はきわめてわかりやすい。映像のなかで男が観客に対し、「美術館で、平均的な鑑賞者がアート作品を見るのに使う時間は1作品につき約17秒であり、この映像作品はその制約を受け入れて17秒という理想的な鑑賞時間を正確に守っている」と語り、17秒で終わる。作品の内容と形式が完全に一致した「理想的」なアートになっているのだ。もちろん理想が必ずしもすばらしいとは限らないが。

2018/06/12(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00044636.json s 10147193

大竹弘二『公開性の根源──秘密政治の系譜学』

発行所:太田出版

発行日:2018/04/18

本書の書籍化を心待ちにしていたのは、評者ばかりではないだろう。2012年より雑誌『atプラス』誌上で始まった同名の連載は、その数年前にカール・シュミットに関する博士論文(『正戦と内戦──カール・シュミットの国際秩序思想』以文社、2009)を上梓した著者の、次なる展開を克明にしるしづけるものだった。その濃密な連載が、大幅な加筆修正を経て500頁を超える大著として目の前に現われたことを、まずは喜びたい。

本書のテーマは、大きく言えば「法規範」とその「執行権力」との関係である。あるいはこれを、「主権」と「統治」の関係と言い換えてもよい。私たちは通常、あらかじめ存在する法規範にもとづき権力が執行される、あるいは最高規範としての主権にもとづき統治がなされる、といった仕方で両者の関係を考えがちだ。むろん、原則としてはその通りである。しかし「今日の政治は、執行が規範を踏み越える例外状態の常態化という観点から考察できるのではないか」(10頁)。これが本書を貫く基本的なスタンスである。

この「法や主権に執行権力が優越する」場面を描き出すべく、本書はまず16世紀という近代国家の生成期に遡る。そして、マキャヴェッリ、ホッブズ、ルソーといった古典はもちろんのこと、シュミット、カントロヴィッチ、アガンベンらのテクストを縦横無尽に参照しながら、先に述べたような主権と統治の関係が論じられていくのだ。そこで暴き出されるのは、近代的な政治的公開性の根源に存在する「前室」(シュミット)の権力、すなわち初期近代において「機密/アルカナ」と呼ばれた権力の姿にほかならない。しかも、そこで扱われる資料体が、いわゆる政治思想のそれにとどまらず、さまざまな文学的テクストにも及んでいることは特筆しておくべきだろう。メルヴィルの中篇小説『書記バートルビー』を、なんと語り手の弁護士の職業(衡平法裁判所の主事)に注目しながら読みなおす第10章「書記の生、文書の世界」、あるいは『城』や『訴訟』の小説家カフカの姿を、「保険会社に務めるサラリーマン」という側面から捉えかえす第11章「フランツ・カフカ、生権力の実務家」など、序論+全13章+補論からなる本書のどこを開いても、広範囲にわたる文献の博捜と読解に裏打ちされた堅実な研究の成果が、いたるところに顔をのぞかせる。

以上の紹介からも明らかであるように、本書の射程は、むろん現下の国内/国際政治の諸問題に限定されるものではない。しかし、執行権力が法規範を堂々と踏み越えるという「例外状態の常態化」がまさに目の前で展開されるいまこそ、本書は読まれるべき格好の時機を迎えているように思われる。

2018/05/28(月)(星野太)

ジャン=リュック・ナンシー『ミューズたち』

訳者:荻野厚志

発行所:月曜社

発行日:2018/04/07

哲学者ジャン=リュック・ナンシー(1940-)が「芸術」を論じた(あるいは語った)論文・講演原稿を収めたのが本書である。ナンシーの芸術論といえば、すでに邦訳もある『肖像の眼差し』(岡田温司・長友文史訳、人文書院、2004)や『イメージの奥底で』(西山達也・大道寺玲央訳、以文社、2006)といった著作が真っ先に思い浮かぶ。だが、これらの力点はあくまでも「肖像」や「イメージ」という──厳密には「芸術」とは別の圏域に属する──概念に置かれており、そこで美や芸術一般をめぐる思索が十全に展開されていたわけではなかった。対して、これら二書に先立って刊行された本書『ミューズたち』(原著1994/増補版2001)こそ、美や芸術をめぐるナンシーの哲学的主著と呼べるものである。

その要点は、表題にすでに現われている。本書において、ナンシーは西洋における芸術の象徴たる「ミューズ」が、単数ではなく複数であることに繰り返し注意を促す。「存在するのはミューズたちであって、ミューズなるものではない」(9頁)。これは、芸術をめぐる思考の歴史にとって、けっして些末な問題ではない。なぜなら、現に複数のジャンルからなる芸術は、ある時にはその複数性において、またある時にはその単数性(すなわち、それらを束ねる「芸術」なるもの)において論じられてきたからだ。他方ナンシーは、こうした複数性と単数性のいずれかに与する立場をともにしりぞけつつ、かつて自著の表題にも用いた「単数複数存在(être singulier pluriel)」としての芸術について論じる。むろん、そこでは「芸術」なるものの単数/複数性にとどまらず、ギリシア語の「テクネー」、ラテン語の「アルス」から分岐した(今日でいう)「技術」と「芸術」の関係もまた、同じく議論の俎上に載せられる。

カラヴァッジョの《聖母マリアの死》(1605-06、ルーヴル美術館蔵)にまるごと捧げられた第Ⅲ章「閾の上に」のような例外もあるが、基本的に本書はナンシーという哲学者の思弁が開陳された書物であり、読解に際してはある程度、著者の用いる概念や論法に馴染んでおく必要がある。そのため晦渋な記述に行き当たることもしばしばと思われるが、訳者の言葉を借りればそれはナンシーが「フランス語をかなり酷使して書く」(279頁)がゆえであり、そこではけっして無益な言葉遊びがなされているわけではない。比較的コンパクトながら、本文でも繰り返し言及されるヘーゲルやハイデガーの美学・芸術哲学に伍する内容を秘めた、熟読に値する一書である。

2018/05/28(月)(星野太)

文字の大きさ