2018年04月15日号
次回5月15日更新予定

artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

AMBIENT 深澤直人がデザインする生活の周囲展

会期:2017/07/08~2017/10/01

パナソニック 汐留ミュージアム[東京都]

携帯電話などの電子機器から家電、家具、インテリアまで、深澤直人がこれまでにデザインしてきた多彩な仕事を紹介する展覧会。展覧会タイトルの「ambient」を辞書で引くと「周囲の、環境の」という訳が出る。この「ambient」を、深澤は「ものとものの間にある空気」と説明する。そこで思い出したのは、2009年に21_21 DESIGN SIGHTで開催された深澤直人の展覧会「THE OUTLINE 見えていない輪郭」だ。深澤直人のプロダクトと藤井保による写真で構成された展覧会が提示していたのは、プロダクトそのものではなく、プロダクトとその周囲との関係によって現われる「輪郭」だった。写真は当然静的なものだったが、照明を入れた乳白色アクリルの上に展示されたプロダクトの輪郭は、それを見る人の視線の移動によって絶え間なく変化する。平面図には現われないかたち、視線の移動によってシームレスに変化する輪郭の美しさを見せる展覧会だった。そして今回の展覧会は「ambient」。「周囲」が意味するものは、「輪郭」が示す「線」ではなく「空間」あるいは「空気」。その「空気」を見せるために、展示室はキッチン、ダイニング、リビング、浴室などの居住空間に見立てて造作され、そこに深澤がこれまでに手がけたプロダクトが配されている。観覧者はケースに展示されたプロダクトを単体で鑑賞するのではなく、モデルルームのような室内に置かれた作品の周りをめぐり、空間とプロダクトの関係性が生み出す「空気」を体感することになる仕掛けだ。
そのような生活空間一式が深澤の仕事のみで構成できていることはその仕事の多彩さを語っており、またメーカーがさまざまであるにも関わらず、価格帯もさまざまであるにも関わらず、そこには一貫したスタイルを見ることができる。しかしその一貫性は、アーティストの作品スタイルに見られるそれではなく、デザイン思想によって生み出されるもの。深澤のデザインはしばしば「アノニマス(無名の)」と呼ばれる。たとえば、無印良品の壁掛式CDプレーヤー(1999)やパナソニックのドライヤー(2006)は、デザインに詳しい者ならば深澤直人の仕事と知っているが、メーカーは深澤の名前を出していないので、この製品のユーザーのどれほどがそのことを知っているだろうか。筆者はこの夏、無印良品の店頭で新しいスーツケースを試してみて、シンプルでとても使い勝手が良く手頃な価格の製品という印象を持ったのだが、本展を見てはじめてそれが深澤デザインだということを知った。消費者は、深澤直人のプロダクトをデザイナーの名前ではなく、いいデザイン、しっくりくるデザイン、使いやすいデザインという視点で手にとるのだ。そしてメーカーが深澤に期待していることもまた、スター・デザイナーのブランドで売るのではなく、造形的な差別化ではなく、触れたとき、使ったときに違いが分かるデザインということなのだろう。総数100点以上のプロダクトが紹介されている展示空間は、デザイン関係者のみならず、ふつうの生活者にとっても、「よいデザインとは何か」という問いに対するひとつの指針、デザインが場にもたらす「空気」の存在を教えてくれる。[新川徳彦]


会場風景

2017/08/15(火)(SYNK)

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追悼水木しげる ゲゲゲの人生展

会期:2017/07/26~2017/08/14

大丸ミュージアム・神戸[兵庫県]

2015年、93歳で亡くなった水木しげるの生涯を彼の作品とコレクションから振り返る展覧会。少年期から晩年に渡るまでのスケッチや絵画、『ゲゲゲの鬼太郎』や『悪魔くん』に代表される漫画の原稿から、エッセイ、出版物、愛蔵品等まで、幅広い展示物によって彼の人生と人となりを網羅的に知ることができる。水木は少年時代に天才画家と呼ばれたそうだが、それも納得するほどの画力。多彩なジャンルを手がけたなかでも、絵本や童画の愛らしい作品は、後年の妖怪画とは異なる水木ワールドで驚く。また彼は図案職人を目指したこともあり、本展では珍しいデザイン作品を見ることもできる。とはいえ、水木の仕事に決定的な影響を与えたのが、戦争の体験だったろう。本展では戦記漫画や手記原稿が展示され、生々しい体験を伝える。以後、紙芝居画家を経て、漫画家デビューしてから1960年代以降の活躍はファンならずとも、よく知っているところ。やはりなんといっても鬼太郎シリーズに見られる、水木のキャラクター造形の面白さには感服する。どんな先例にも負わない、個性的なキャラクターの数々は、水木がいかに作画資料を熱心に収集研究して、新奇性を追究したかを示している。水木の人生を追っていくと、彼のあらゆる経験や哲学が作品世界にいきいきと息づいていることに気付く。そして、自らの波乱万丈な生涯を感じさせないような、「なまけ者になりなさい」と記された水木のあたたかい言葉に、ほろっとさせられる。本展はこのあと、福岡、名古屋、沖縄に巡回する。[竹内有子]

2017/08/12(土)(SYNK)

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神戸港と神戸文化の企画展 神戸 みなと 時空

会期:2017/01/25~2017/12/28

デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO[兵庫県]

神戸開港150周年を記念して、デザイン・クリエイティブセンター神戸KIITO(旧神戸市立生糸検査所)では、①「TOY & DOLL COLLECTION」②「陳舜臣と神戸ミステリー館」③「鈴木商店記念館」の三本立ての展示が行なわれている。それぞれ、神戸ゆかりの文化/文学/産業を軸にして、①は世界と日本の玩具を、②は陳舜臣の神戸を舞台にした推理小説『枯草の根』『三色の家』等に登場する場所を再現、③では小説やテレビドラマ『お家さん』でも知られ、大正期に日本一の総合商社となった神戸の「鈴木商店」の歴史を扱う。なかでも興味深いのが、日本玩具博物館との共催による人形文化の展示。日本の郷土玩具、世界の乗り物玩具のほか、とりわけ目新しかったのは、企画展示の「神戸人形」。これは明治中期に神戸で生まれたからくり人形で、土産物として海外にも輸出されるほど人気を博したという。なんとも面白いのが題材のほとんどがお化けであること、当時は「お化け人形」とも呼ばれた。木目を生かした素朴な木の造り、からくりは目が離れたり口を大きく動かしたり、夕涼みしたり釣鐘を持ったりするユーモラスなお化けは日本文化ならでは。大正期以降には量産されて、色調が黒地と赤に統一されたが、戦後に生産は衰退した。阪神淡路大震災で廃絶するも、現在は同館が復元の形をとって再興を目指しているところだという。港町で栄え世界へ渡った神戸人形、次世代への伝承を望みたい。[竹内有子]


「お化け人形」の展示風景

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創造性を紡ぐ拠点を目指して──デザイン・クリエイティブセンター神戸|近藤健史:キュレーターズノート

2017/08/05(土)(SYNK)

拡がる彫刻 熱き男たちによるドローイング 植松奎二 JUN TAMBA 榎忠

会期:2017/07/04~2017/09/28

bbプラザ美術館[兵庫県]

「彫刻とドローイング」をテーマに、現代美術家の3人植松奎二、JUN TAMBA、榎忠の作品と空間展示を月替わりで紹介する展覧会。現在、デュッセルドルフと日本にアトリエを構え活動する植松奎二の展示は、最新作のインスタレーション《見えない軸─水平・垂直・傾, Invisible axis Horizontal, Vertical, Inclination》を会場の中央に設置、四方を1969年から2017年までのドローイング作品群で囲むように構成した。《見えない軸》は、中央に据えられた石とさまざまな角度で傾く金属の柱(真鍮)とワイヤーを用いて、本来は不可視の「重力」を、事物のあいだに看取される関係性を通して表わそうとする。また、2×4メートルを超える大きさのドローイング《浮く石, Floating stone》は、同館で公開制作されたもの。タイトルが示す通り「巨大な石が宙に浮かぶさま」の描写は、現実にはありえない奇想の空間を創出する。このような、普段私たちが知覚することのない「重力」についての気づきは、ひいては、宇宙/地球/人間の存在に関わって「大事な見えないものとは何か」を考えることにもつながってゆくだろう。植松の作品は、世界の構造への普遍的な問いから鑑賞者個人の内面に至るまで、多様なレヴェルの気づきを与えてくれる。[竹内有子]

2017/07/30(日)(SYNK)

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日本の家 1945年以降の建築と暮らし

会期:2017/07/19~2017/10/29

東京国立近代美術館[東京都]

このところ、日本の住宅建築に関する展覧会が連続している。2014年7月から埼玉県立近代美術館ほかを巡回した「戦後日本住宅伝説」展は、1950-70年代まで、高度成長期に手がけられた住宅を見せるものだった。2017年4月にパナソニック汐留ミュージアムで開催された「日本、家の列島」では現代の建築家による住宅に焦点が当てられた。そして本展は戦後70年にわたる住宅建築だ。「日本、家の列島」と「日本の家」はいずれも海外巡回展の日本展。ただし、「日本、家の列島」はフランス人建築家の視点によって紹介するもの。「日本の家」は、2016年、日本イタリア国交150周年を記念して日本で企画し、ローマおよびロンドンで開催されたもの。いずれも「戦後の」「日本の住宅」を扱っているが、時代や視点の所在が異なっている。これらのなかで、本展「日本の家」が戦後70年というもっとも長いスパンを取り上げているのだが、展覧会は時系列ではなく、「系譜」を基準とした13のテーマに分かれている。まったく時間軸が無視されているわけではないのだが、1945-1970、1970-1995、1995-2015の3つに分けられたマトリクスが用いられている。はたしてこの分類、系譜はどこまで日本の住宅建築を上手く説明できているのか、現時点ではいまひとつ判断できないでいる。会期中にもう少し考えてみたい。海外に紹介することを目的とした企画のためか、なぜ日本の、住宅建築の展覧会なのかという主旨は分かりやすい。著名建築家が個人住宅を手がける例は海外には少ない。海外と比較して日本には戸建て住宅が多い。それは戦後推進された持ち家制度ゆえでもある。そうした住宅の大多数を手がけたのがハウスメーカー(本展では積水ハウスのプレファブ住宅が紹介されている)で、それらのメーカーが手がけ、私たちの街をかたちづくってきた規格化された住宅に対する批評として、建築家による住宅がある。その批評の類型がここでいうところの「系譜」である、と考えればよいか。[新川徳彦]


会場には、清家清「斎藤助教授の家」(1952)の原寸大模型も展示されている

左上ちらし:Design by Norio Nakamura

2017/07/18(火)(SYNK)

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