2018年01月15日号
次回2月1日更新予定

artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

「織物以前 タパとフェルト」展

会期:2017/09/08~2017/11/21

LIXILギャラリー大阪[大阪府]

織機が生まれる以前、布の始まりはどのようなものだったろう。本展は、オセアニア(パプアニューギニア、フィジー、トンガ)の「タパ(樹皮布)」と、東南アジア(新疆ウイグル自治区カシュガル、トルコ)の「フェルト」を紹介し、布文化の始原を探るもの。そもそも、機織りによる織布は、オセアニアのごく限られた地域にしか伝播しなかったという。その代わりに不織布、つまり編布やタパが発達して、今日にまで伝えられている。タパは、カジの木の外皮を剥がし、水に晒して柔らかくした後、ハンマーなどで叩いて伸ばして作る。一見、紙のようにも見える素朴な材質感が魅力だ。製造に使う道具も展示で見ることができる。しかしその魅力を最大限にまで高めているのが、民族独自の装飾文様である。展示品の出品者でもある福本繁樹氏によれば、その装飾には神話、氏族の由来や名誉を表す重要な意味がある。皮膚に施すボディペインティングが、衣に変容したものと見られるそうだ。一方、遊牧民族が用いるフェルトのあたたかみにも独特の味わいがある。羊毛を幾層にも重ねて熱や圧などで加工し、シート状にしたものがフェルト。珍しい形のマントやアースカラーの美しい敷物が展示されている。世界の豊かな民族文化に触れて、手仕事と技術発展の意味、そして衣を纏うことの歴史の重層性について考えさせられる。[竹内有子]

2017/10/2(日)(SYNK)

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更紗のきもの

会期:2017/10/03~2017/11/21

文化学園服飾博物館[東京都]

「更紗」とはインドを起源とする染物の総称。いつ頃から始まったのかは定かではないが、13世紀には大量生産が可能なほど、技術は発達していたという。技法としては手描きもあれば、プリントもある。染められる布は主に綿だが、絹や化繊もある。11-12世紀にはジャワ、そして17世紀以降にはヨーロッパ、日本でも江戸時代に作られるようになり、それぞれジャワ更紗、オランダ更紗、和更紗などと呼ばれている。染め方も素材も地域もさまざまとなると他の染色と何が違うのか、何が「更紗」なのかよく分からなくなるが、ブリタニカ百科事典には「人物、鳥獣、植物などの種々の模様を捺染」とあり、漠然と文様のありかたによって区別されるようだ。
展示はインド更紗から始まり、それが交易品として世界に広がり、世界各地の染織に影響を与え、模倣品を生み出した様子、そして明治から昭和初期の日本における更紗が紹介されている。インド更紗が交易品として各地で珍重された理由は、化学染料がなかった時代に、藍や茜を主体とした鮮やかな色彩の染色を他の地域ではできなかったからだ。ヨーロッパ各地では、インド更紗の輸入増大が貿易に不均衡をもたらし、輸入の制限、模倣と自国における生産が模索される。結果的にイギリスにおいて綿工業が産業革命の原動力のひとつとなったことはいうまでもない。アジアでは手仕事による模倣が行なわれたが、ヨーロッパでは染色工程には銅版プリントやシリンダーを用いた連続生産が導入された。日本に更紗がもたらされたのは16-17世紀(室町時代末~江戸時代)。南蛮貿易によってもたらされた文様染め木綿布が更紗と総称されたという。船載品はインド製のみならず、江戸時代後期にはヨーロッパ製のプリント綿布も輸入される。他方で江戸時代初期には日本でも輸入更紗を模倣した和更紗の製作が始まるが、輸入品のような鮮やかな色彩のものはつくることができなかったため、輸入品は変わらず珍重された。明治時代になると身分制による衣服の制限がなくなった。世界各地の文様が染色に取り入れるなかで更紗文様にも注目が集まり、明治から昭和初期にかけて更紗文様の図版集が相次いで出版された。『更紗圖案百題』(高橋白扇編、岸版画印刷所、1926年/大正15年)には、古渡り風の更紗、和風の文様の他に、ヨーロッパ、オリエント、アンデスなど世界各地の文様が収録されており、さまざまな文様が「更紗」と呼ばれ参照されていたことを示している。
展示品のなかでも印象的な逸品は三井家旧蔵「更紗切継ぎ杜若文様小袖」(江戸時代後期)。小袖の肩、裾、衽に17世紀から19世紀初めまでのものと考えられるインド製の22種類の更紗が継ぎ合わされている。古渡り更紗は小さな裂で家が買えるほどの価格であったと聞く。更紗に加えて胴には杜若(かきつばた)を手描きと刺繍で表したこの小袖は、どれほど高価なものであっただろうか。[新川徳彦]


展示風景

公式サイト:http://museum.bunka.ac.jp/exhibition/

関連レビュー

畠中光享コレクション インドに咲く染と織の華|SYNK(新川徳彦):artscapeレビュー

西洋更紗 トワル・ド・ジュイ|SYNK(新川徳彦):artscapeレビュー

2017/10/19(木)(SYNK)

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フィンランド独立100周年記念 フィンランド・デザイン展

会期:2017/09/09~2017/10/22

府中市美術館[東京都]

1159年から1809年まではスウェーデンの支配下、1809年から1917年まではロシアの支配下にあったフィンランドが独立して100年。本展では、フィンランドの独立前、1900年のパリ万国博覧会から現在までのフィンランド・デザインを時代順に6章に分けて概観している。興味深い展示は、1900年前後の工芸品。フィンランド・デザインというと、一般的には第二次世界大戦後の北欧デザイン・ブーム、モダン・デザインのプロダクトを目にすることがほとんどで、独立以前の装飾的な工芸品を見る機会はほとんどないからだ。出品されている陶磁器やガラス器は、西欧のデザイン史的にはアール・ヌーヴォー期の終わりに相当する時期のものだと思うが、器の形や文様は比較的シンプルでその後のモダン・デザインへの流れを想起させる。柏木博は世紀転換期に「力強さと率直さがフィンランドのデザインの方向を特徴づけた」と書き、その背景としてフィンランドが北欧の中でも貧しい地域であったことを挙げている(本展図録、21頁)。たしかに、西欧のアール・ヌーヴォーの装飾は工業的生産に適せず、高価で、主に新興富裕層のためのデザインであったことが指摘されるが、フィンランドにおいては経済的状況ゆえに比較的シンプルなデザインが生まれたのだとしたら、その伝統がその後に消費者として台頭してきた欧米や日本の市民にに受け入れられるものになったと考えてもおかしくない。プライウッドを用いたアルヴァ・アアルトらの家具、絵付けのない色彩のみによるカイ・フランクの陶磁器やガラス器、織ではなく、伝統的な染やプリントでもなく、安価なシルクスクリーン印刷を用いたマリメッコのテキスタイルもまた、そうした国家の歴史的経緯のなかから必然的に生まれてきたデザインと考えることもできようか。
フィンランド・デザインの展覧会というと、トーベ・ヤンソンのムーミン・シリーズは欠かせない。とはいえ、トーベ・ヤンソンの仕事は「デザイン」なのかという点に筆者は常々疑問を抱いているのだが、ここではムーミン・シリーズに登場するキャラクターを用いたフィンレイソン社のプリント・ファブリックや、トーベ・スロッテによってアレンジされたアラビア社のマグカップやタイルなど、キャラクター・グッズが数多く紹介されており、たしかにこれはデザインという文脈で紹介されうる仕事だと納得させられたのだった。
なお本展は、宮城県美術館に巡回する(2017/10/28~12/24)。[新川徳彦]


会場風景

2017/10/19(木)(SYNK)

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つながる食のデザイン展

会期:2017/10/07~2017/10/22

デザイン・クリエイティブセンター神戸[兵庫県]

神戸の食に関わる人々が考える未来像や諸活動を紹介する展覧会。シェフ、酪農家、販売者らとクリエイターたちが協同して、映像や展示を通じ「食」の現場の問題を可視化する試みである。食の安全や今後の可能性、酪農にみるサステナビリティやエコロジー、パンの製造工程から流通に至る過程にみる個人の価値観の検討、豚まん製造にみる職人技、食に関わる疑問を消費者と製造者が語るドキュメンタリー、売り場での消費者とのコミュニケーションの価値、食育の問題、チョコレートから味覚の記述を参加者に再考させるもの等々、テーマは多様で幅広い。デザイン・クリエイティブセンター神戸は、食のデザインに関わる実践的プロジェクトやイベントを連続的に行なってその記録をまとめてきた。そこには現場のヒアリングで多くの問題が提起、諸反応が蓄積されてきただろう。本展は、食の問題を異なる立場から表明するという点では意義深いが、各人のさまざまなコンセプトあるいは意見の蓄積を「どう見せるのか」あるいは「どうテーマ構成するのか」という点で、より総合的なディレクションが必要だと感じた。とはいえ、これからも市民を巻き込み、都市の活性化を促す、同センターの地道な営為を応援してゆきたい。[竹内有子]


会場風景

2017/10/16(月)(SYNK)

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オルセー美術館 至宝のリマスターアート展

会期:2017/10/04~2017/10/17

大丸ミュージアム神戸[兵庫県]

本展で用いられる「リマスターアート」とは、記録用のデジタルアーカイヴ画像をもとにした原作の復元を意味する。ただし注意が必要なのは、これがオルセー美術館の公式な認定を受けたレプリカであること。だから、通常では許可されない「原寸大」のサイズで作られている。高精細の3D画像によって作品解析を行う、最先端技術をもって作成された復元作品は「マスターレプリカ」と呼ばれる。もっとも、これを狭義の「美術鑑賞」の場でどう捉えるかについては意見の分かれるところだろう。復元画は、当然ながらメディウム自体を再現するわけではない。原作の筆のタッチや絵具が盛り上がる様子はよく見えても(画面は特殊顔料をスプレー状のもので吹きつけて仕上げられるという)やはり平坦であり、実際の生々しいテクスチュアや迫力のある凹凸までは写さない。しかしながら、従来の印刷物等による複製とは異なる高度な技術は、原画の筆触や色彩の正確な再現を可能にしている。今後の研究や教育での活用が大いに期待される。また異国の美術館に足を運んで見ることができないような場合にも、同技術の復元品は役立つ。本展では、美術史に出てくる名作(印象派以前からマネ、印象派とポスト印象派の巨匠たち)ばかり計60点を見ることができる。最新の複製技術の発達に目を瞠るか、はたまた真性のアウラを作品鑑賞に求めるのか、その人次第。実見して確かめるのも悪くない。[竹内有子]

オルセー美術館公式認定 Precision Re-mater Art
https://www.youtube.com/watch?v=zwjvWx7sIdE

2017/10/15(日)(SYNK)

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