2018年11月15日号
次回12月3日更新予定

artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

Layerscape 柳原照弘展

会期:2018/07/04~2018/08/07

クリエイションギャラリーG8[東京都]

デザイナーの柳原照弘の仕事を、一部だがよく知っている。それは佐賀県有田焼創業400年事業の「2016/」プロジェクトだ。私自身も同事業に一部携わったため、端々で「2016/」の噂を聞いていた。「2016/」とは、有田焼の窯元と商社16社と、オランダを中心とする8カ国16組のデザイナーとが協業し構築したひとつのブランドである。柳原はこれのクリエイティブ・ディレクターを務めた。2016年4月には全部で300以上のアイテムを開発し、ミラノ・サローネで商品発表をして好評を得たことで知られている。注目したいのは、むしろそのプロセスだ。デザイナー陣が2度にわたり、各1週間ほど有田町の古民家に滞在し、産地視察や事業者との意見交換、また商品開発の打ち合わせなどに費やした。滞在日程や日数は各々が自由に決めたことから、なかには1カ月ほど有田町に滞在したデザイナーもいたという。有田町を世界中のクリエイターが集まるプラットフォームへと導いたのである。

柳原のベースにつねにあるのは「デザインする状況をデザインする」という考えだという。この言葉の意味を考えるとき、「2016/」のプロセスを思い返す。柳原は徹底的に協調型のデザイナーなのだ。人と人とが信頼関係を構築することをむしろ楽しんでいるようにも思える。

本展は、人と物と空間とが結びついたとき、どのような状況が生まれるのかを実験したような展覧会だった。最初の展示室には、人物の上半身写真がプリントされた紙が何枚も吊るされていた。それらはなんとなく人物写真に見えるのであって、本当のところはわからない。なぜなら完全にピントをずらした“ピンボケ”写真であるからだ。このぼんやりした人物写真の合間を縫って、来訪者が室内をウロウロとすることで、虚像と実像が混じり合う。

展示風景 クリエイションギャラリーG8

奥の展示室は3枚の布で大きく区切られていた。この布が光によってモアレを起こし、ぼんやりと透けて見える向こう側を不思議な空間へと誘う。布の向こう側へ回ると、柳原がこれまでにデザインした実験的なプロダクトが展示されていた。「2016/」の技術革新に挑んだ磁器もあれば、目の錯覚を起こすようなガラス製品もある。柳原は本展を「平面と空間の境界線を探る旅」と言う。二次元と三次元を混濁させ、人と物と空間までも混濁させる。そうして既成概念をいったんゼロに戻したときに初めて見える、または起こる何かを、柳原はデザインの手がかりとしているのかもしれない。

展示風景 クリエイションギャラリーG8

公式ページ:http://rcc.recruit.co.jp/g8/exhibition/201807/201807.html

2018/07/04(杉江あこ)

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特別展「縄文─1万年の美の鼓動」

会期:2018/07/03~2018/09/02

東京国立博物館 平成館[東京都]

とにかく迫力いっぱいであった。かの岡本太郎が「縄文の美の発見」として、縄文土器に「いやったらしい美しさ」を見出したことは有名だ。それ以前にも柳宗悦、芹沢銈介、濱田庄司といった民藝運動の人らが縄文土偶を愛玩したことが本展で紹介されている。彼らをはじめ、縄文土器や土偶に惹かれる美術家や作家、工芸家は案外と多い。いったい何が彼らを強く惹きつけるのだろう。それは日本人のDNAのなかにわずかに残っていると言われる、縄文人の血が騒ぐからではないか。弥生人の洗練された感性とはまったく異なる、縄文人の躍動的で神秘的な力に、日本のものづくりの“本当の”源流を見たような気がした。

本展を見るまで、正直言って、私は縄文時代にまったく疎かった。歴史の教科書でさらりと触れた程度ではっきりとはわかっていない。縄文時代とは「旧石器時代が終わったおよそ1万3000年前から約1万年間続いた時代」とあらためて教わり、その約1万年間という長さに圧倒された。西暦はまだ2000年を超えたばかりである。氷期が終わりを迎えたこの時代、日本列島は温暖で湿潤な気候に変わり、豊かな自然環境のもと、人々は狩猟や漁労、植物の採集で生計を立て、皆で協力し合いながら定住生活を行なっていたという。そこで生み出されたのが土器や石器、土偶や装身具などだ。

展示風景 東京国立博物館 平成館 特別展「縄文─1万年の美の鼓動」
「火焰型土器・王冠型土器」新潟・十日町市博物館蔵

縄文時代中期を代表する土器が、新潟県十日町市で出土された「火焰型土器・王冠型土器」である。すぼんだ胴部からワッと広がる口辺部。器面に粘土が紐状や筒状に貼り付けられ、うねるように、波立つように、これでもかこれでもかと全身が模様で覆われている。しかもこの模様が自由奔放に見えて、じつは規則的に配置されていることにも驚く。本展がすごいのは、この「火焰型土器・王冠型土器」の数々がガラスケースに覆われず、生身のまま展示されていたことだ。いまにも手に触れられそうな距離で眺めると、はるか昔の縄文人の息遣いまで聞こえてきそうである。同時代にユーラシア大陸でつくられた土器も併せて展示されていたが、これらを観ると、日本列島でつくられた土器がいかに独創的なものであったかがわかる。ほかに耳飾りや髪飾りなどの装身具の数々にも息を呑んだが、最大の見どころは国宝6件。これらが一堂に会すのは初めてで(ただし《土偶 縄文のビーナス》と《土偶 仮面の女神》は7月31日からの展示なので私は観られなかった)、この貴重な機会を見逃してはならないと思う。

国宝 土偶 縄文のビーナス
長野・茅野市蔵(茅野市尖石縄文考古館保管)展示期間:2018年7月31日(火)~9月2日(日)
長野県茅野市 棚畑遺跡出土(縄文時代中期/前3000~前2000)

公式ページ:http://jomon-kodo.jp

2018/07/02(杉江あこ)

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アート&デザインの大茶会

会期:2018/06/15~2018/07/22

大分県立美術館[大分県]

茶会をテーマにした展覧会は案外多い。千利休に端を発する茶道という絶対的な様式美がアーティストやデザイナーの心をくすぐるのだろうか。本展はマルセル・ワンダース、須藤玲子、ミヤケマイによる合同展だったが、茶会のテーマにもっとも即していたのはミヤケマイだった。そこで本稿では彼女のインスタレーション作品《現代の大茶室》を取り上げたい。

ミヤケがテーマとしたのは「モダン陰陽五行」。陰陽五行説はご存知の通り中国で生まれた自然哲学で、茶道にも深い関わりがある。ミヤケはこれを独自に解釈し、「木」「火」「土」「金」「水」の五つの空間をつくり上げた。寄付から細い路地を通り抜けると、最初の茶室へと導かれる。そこは五つの空間の結節点であり、入口でもあった。茶室に上がって掛軸などの作品を観ていると、ひとつの空間の入口に明かりが灯った。明かりに導かれて足を踏み入れると、そこは「木」の空間だった。この空間の壁にはいくつものアクリル板の額がかかっており、額には松や南天、椿などの常緑樹が根っ子を付けた状態で、1本ずつ、植物標本のように収まっていた。しかも根や茎、葉は本物だが、実や花は造作というキッチュな魅力がある。中央には半畳分の茶室に見立てたロッキングチェアが置かれており、そこに正座して揺られながら、いくつもの額を借景のように眺める仕掛けとなっていた。

ミヤケマイ《SHISEIDO THE STORE ウィンドウディスプレイ》 (2018)[撮影:繁田諭]

隣の空間へ移動すると、そこは「水」の空間だった。壁には幻想的な水滴の展示があり、懐中電灯の光を当てると、それまで見えなかったメッセージが浮かび上がる。また野点傘がかかった1艘の舟があり、舟の中に座ると、それまで聞こえなかった水の音が聞こえてきた。しかも水の音は2種類あり、片側は雨の音、もう片側は波の音である。舟の中で対面する2人が互いに別々の水の音を聞くという仕掛けだ。続く「金」「火」「土」の空間でも、そうした体験型の作品が並んでいた。本来ならひとつの茶室の中にある五行をあえて別々の空間仕立てとし、鑑賞者は体験を通して、自らの脳内で五行を再構成するというインスタレーションなのである。さらにミヤケが作品を通して伝えたのは、「見えないからそこにないとは限らない」という一貫したメッセージだった。鑑賞者は何かしらの行動を起こしたり、注意を払ったりしなければ見ることができない些細な事象にハッと気づかされる。それは普段の生活に置き換えてみても然りだ。スマホの画面ばかりを見ていては季節のちょっとした移ろいにすら気づけなくなってしまう。そんな現代人への警鐘のようにも捉えられた。

公式ページ:http://www.opam.jp/exhibitions/detail/328

2018/06/16(杉江あこ)

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第21回文化庁メディア芸術祭受賞作品展

会期:2018/06/13~2018/06/24

国立新美術館[東京都]

例年どおり冷やかし程度にしか見てないので、めんどくさい作品は通りすぎている。ずいぶん乱暴な見方だが、それで足が止まった作品はホメてあげたい。折笠良の《水準原点》はクレイアニメ。雪原か海原のような白い風景のなかをぐんぐん進んでいくと、ときおり津波のような高波が押し寄せる。なんだろうと見ていると、今度は同じ場所を斜め上から見下ろすかたちで映し出していく。なんと津波の中央では文字が生まれている、というより、文字が生まれる波紋で津波が生じているのだ。その文字をたどっていくと、シベリア抑留経験のある石原吉郎の詩「水準原点」になる。言葉の生成現場がかくも厳しいものであることを伝えるこのアニメも、かくも厳しい生成過程を経て完成したものだ。

もうひとつ、Gary Setzerの映像作品《Panderer(Seventeen Seconds)》はきわめてわかりやすい。映像のなかで男が観客に対し、「美術館で、平均的な鑑賞者がアート作品を見るのに使う時間は1作品につき約17秒であり、この映像作品はその制約を受け入れて17秒という理想的な鑑賞時間を正確に守っている」と語り、17秒で終わる。作品の内容と形式が完全に一致した「理想的」なアートになっているのだ。もちろん理想が必ずしもすばらしいとは限らないが。

2018/06/12(村田真)

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JAGDA新人賞展2018 金井あき・花原正基・福澤卓馬

会期:2018/05/24~2018/06/26

クリエイションギャラリーG8[東京都]

現在、第一線で活躍するグラフィックデザイナーの多くが、過去にJAGDA新人賞を獲っている。1983年に創設されたJAGDA新人賞は、年鑑『Graphic Design in Japan』出品者の中から、毎年、今後の活躍が期待される有望なグラフィックデザイナーに贈られる賞だ。グラフィックデザイナーの登竜門と言われるだけあり、現在、その名があまり知られていなくても、受賞者は10年後、日本を代表するグラフィックデザイナーのひとりとなっている可能性が高い。そういう意味で、注目したい賞のひとつである。

「JAGDA新人賞2018」には、金井あき、花原正基、福澤卓馬の3人が選ばれた。本展はその3人の受賞作と近作の展示である。金井はコクヨのインハウスデザイナーで、同社のライフスタイルショップ「THINK OF THINGS」や、デザイン賞「コクヨデザインアワード」などのアートディレクションを手がけた経歴があり、これらのパッケージやツールなどが中心に展示された。一覧すると文具メーカーらしい賢さや品のよさを備えつつ、キャッチーさも併せ持ったデザインであることが伝わる。一方、資生堂の宣伝部に所属する花原は、企業広告や企画展ポスターなどを中心に展示していた。女性を対象にした美への訴求が前提ではあるが、そこには女性への媚びはあまり感じられず、むしろ端正なクリエイションが際立っていたのが印象的だ。

展示風景 クリエイションギャラリーG8

福澤はデザイン会社のドラフトに所属するアートディレクターで、同社のブランド「D-BROS」の商品開発をはじめ、他企業の広告のアートディレクションを手がけている。その一例としてキリンビバレッジのお茶の体験施設のロゴやツールなどが展示されていた。やはりデザインの正確さとキャッチーさを備えていて、ブレがない。全体を通して、3人とも企業とうまく仕事をしているという印象を抱いた。グラフィックデザイナーの仕事は、当然だが、クライアントがあってこそ成り立つ。よい仕事をするには、自身の能力も然りだが、何より理解あるクライアントに恵まれなければならない。その点で、受賞者たちのクライアントである日本の企業に対しても、世界に誇れるクリエイションの高さを感じる展覧会だった。

展示風景 クリエイションギャラリーG8

公式ページ:http://rcc.recruit.co.jp/g8/exhibition/201805/201805.html

2018/05/31(杉江あこ)

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