2018年01月15日号
次回2月1日更新予定

artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

マンチェスター市立美術館

Manchester Art Gallery[イギリス]

産業革命の中心地となった、工業都市のマンチェスター。マンチェスター市立美術館は、シティセンターに偏在する歴史的建築群のなかでも、その威容を誇っている。3棟が連結された建築の主要部は、1823年にチャールズ・バリー卿によって建設されたもの。また同美術館は、とくにラファエル前派のコレクションで知られる。ラファエル前派のメンバーたちと交友関係にあったフォード・マドックス・ブラウンの絵画作品《労働》(1852-1865年)は、その白眉ともいえよう。地方都市に、なぜ19世紀当時の前衛アートが収集されたのか興味深いところであろう。実は同時代美術のパトロンには、中産階級の工場主や製造業者、産業資本家たちが多かった。彼らは、マンチェスターの綿織物に必要なデザインと色彩の美的感覚と趣味を向上させるために、芸術振興にも熱心だったのだ。館内には、ヴィクトリア時代の装飾芸術コレクションもたくさんある。モリス商会やアーツ&クラフツの室内装飾品、唯美主義運動の家具など。筆者が訪れた折には、「南アジアのデザイン」と題された企画展が開催されていた。インド、スリランカやパキスタンの伝統的な工芸品と現代の工業製品が展示され、やはりここでも19世紀に収集されたインドの手仕事による高品質なテキスタイルが際立っていた。[竹内有子]

2017/09/02(土)(SYNK)

Inspired By India展

会期:2017/06/17~2017/09/08

The Silk Museum[イギリス]

会期:2017/6/17~9/8
会場:The Silk Museum
地域:イギリス
執筆者:SYNK
マックルズフィールドは、マンチェスターから南へ電車で30分程行ったところにある。産業革命の渦中の18世紀半ばから20世紀後半まで、絹織物産業の重要な産地だった。「絹博物館」の展示と、隣接する旧工場「パラダイス・ミル」のツアーを通じて、絹織物の製造過程から完成された製品までを見ることができる。工場には木製のジャガード手織機が26台今なお保存されており、機械を動かしながら、当時のデザイナーと職人の仕事がどのようなものであったかについて説明してくれる。絹博物館の建築は、1879年に建造された美術学校に由来する。いかにもヴィクトリア時代らしい赤レンガの建物の1階は、絹織物の製造技術と美術学校の教育資料や絹製品に関わる常設展示、2階が企画展の会場。このマックルズフィールドは実のところ、アーツ&クラフツ運動で知られるデザイナー/ウィリアム・モリス、また彼のテキスタイル制作に協力した染色業者/トーマス・ウォードルとゆかりが深い土地。今回の企画展では、インドが19世紀英国の絹織物に与えた影響をテーマに、ウォードルとモリスに関する資料、美術学校の生徒の作品、インドのパターン・ブックなどを展示していた。実際、当時のデザイン関係者たちはインドの高品質なテキスタイルを称賛し、お手本にしていたのだ。歴史的建造物のなかで地場産業が盛んだったころの息吹を感じつつ、絹織物産業の貴重な資料と歴史を知る事ができるミュージアム。[竹内有子]

2017/09/01(金)(SYNK)

URUSHIふしぎ物語─人と漆の12000年史─

会期:2017/07/11~2017/09/03

国立歴史民俗博物館[千葉県]

植物としてのウルシから塗料としての漆、工芸品としての漆器、そしてその未来まで、12000年にわたる日本の漆の歴史を多様な視点から辿る展覧会。
展示は6章から構成されている。第一章は植物としてのウルシと栽培の歴史。日本のウルシの木は中国から移入されたもの。現在見つかっている日本最古のウルシ材は12,600年前のもので、これが展覧会タイトルの由来だ。第二章は漆の採取(漆掻き)と漆工用具、漆工製品。第三章は漆、漆器利用の社会史。すなわち第二章では供給が、第三章では需要の歴史が語られている。第四章はその希少性故に権力者の財力や美意識を象徴するものとして扱われた漆と漆器。第五章は漆器の流通や技術交流の歴史。第六章では明治の輸出工芸を含む近代以降の漆工芸と、これからの漆利用の可能性が紹介されている。これらの展示構成を見れば分かるとおり展示は単純な時系列ではない。また考古学、美術史学、文献史学、民俗学、植物学、分析化学など、それぞれの専門分野での諸研究を総合した、歴博ならではといえる学際的な研究の成果となっている。美術工芸の優品が、考古資料、歴史史料などとともに展示の文脈に応じて並列されているところも特徴だ。300頁におよぶ本展図録は、漆に関する基礎文献としても役立ちそうだ。
個人的に最も興味深く見たのは「漆はうごく」と題された第五章だ。ここで「うごく」とは遠隔地との流通、交易、技術交流を指している。17世紀後半以降、各藩が奨励した特産品生産のなかの代表的製品のひとつが漆器だった。これらの製品は江戸期には国内で流通し、幕末から明治期になると海外へも輸出されていった。時代をさかのぼると、鎌倉時代から室町時代には禅宗の伝播とともに唐物の漆器が輸入されている。漆器の流通はアジア内にとどまらない。16世紀末には渡来したポルトガル人宣教師たちが漆塗りのキリスト教祭具、櫃や箪笥などを求めた。南蛮漆器と呼ばれたこれらの製品は、器形はヨーロッパ風で、平蒔絵と螺鈿細工によってびっしりと文様がちりばめられている。漆器がグローバル商品であったことを物語るさらに興味深い例が漆塗りが施された革製の盾だ。オランダ東インド会社では、インドのベンガルで革製の盾を加工させ、これを日本に運んで漆で装飾させ、インドやヨーロッパに輸出していたという。もともとヨーロッパでは漆は産しなかったために、ヨーロッパ人たちは自分たちの好みにあう意匠の製品を中国や日本に発注していた。また(これは日本の文脈ではないのだが)ヨーロッパでは漆のような効果が得られる模造漆塗料が開発された。この塗料はジャパン(japan)、技法はジャパニング(japaning)と呼ばれ、ヨーロッパ製の家具の一部に日本製輸入漆器の一部を用い、他の部分をこの模造漆で仕上げることも行なわれていた。さらに「うごいた」のは製品だけではない。南蛮漆器が輸出された桃山期にはすでに東南アジア産の漆液が日本に輸入され、漆器生産に用いられていたというのである。
林野庁のデータによれば、平成27年の国産漆の生産量は1,182kg。国内消費量の97%は輸入品が占め、そのほとんどは中国産だ。輸入品を含む漆への全般的な需要減と国産品の高価格のために国産漆への需要は減少し、生産も縮小してきた。しかしここのところ需要が増大、生産量も平成26年に比べて17.8%増加している。需要増の要因は国宝および重要文化財の修復事業にある。文化庁は平成27年度から修復の上塗りと中塗りを日本産に、平成30年度から下地を含め100%日本産漆を使う方針を通達したのである。生産者にとって需要増は喜ばしいことだと思われるが、問題もある。漆の生産は急速に増やすことができない。ウルシの木から漆を採取できるようになるまで15年から20年かかり、なおかつ1本の木から採取できる量はわずか200ml。現在日本で主に行なわれている採取方法は殺し掻きと呼ばれ、この200mlほどを採取し終えたあとウルシの木は伐採されてしまう。漆の生産を増やすためにはウルシの木の植樹面積を増やし、恒常的に維持管理していく必要がある。供給にボトルネックがあるために国産漆の価格が高騰し、従来からの需要者の手に届かなくなるという問題も起きていると聞く。不足する供給を中国産の輸入で補うことになったら本末転倒ではないだろうか。他方で、本展でも示されていたように漆液輸入の歴史は古い。それにそもそも日本のウルシの木は中国から移入されたものだ。国産品なら質がよく、輸入品の質は低いという単純な話ではなく、品質には漆の採取方法や流通過程が複雑に影響しているようだ。その点、本展では明治以降の技術史が手薄な印象。漆の生産と利用をめぐる現況について、もう少し詳しく知りたいところだ。[新川徳彦]

関連レビュー

うるしの近代──京都、「工芸」前夜から|SYNK(新川徳彦):artscapeレビュー

2017/09/01(金)(SYNK)

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2017 イタリア・ボローニャ国際絵本原画展

会期:2017/08/19~2017/09/24

西宮市大谷記念美術館[兵庫県]

今年51回目を迎えるボローニャ国際絵本原画展。この子供用絵本の見本市に伴うコンクールでは、応募は過去最多だったそうだが、26カ国、75作家が入選した。そのうち、日本人は6名。今回は加えて、メキシコの作家フアン・パロミノが神話を基にした物語『はじまりの前に』の原画(第7回ボローニャSM出版賞受賞記念絵本)が特別展示されている。回を重ねる度に、デジタルメディア、フォトショップやイラストレーターによる作画が増えているのを実感する。ひとくちに絵本原画といっても、技法はさまざま。布のテクスチュアと丁寧な針の運びが映える刺繍作品、シルクスクリーンにサイン入りの作品、コラージュに手書き文字が楽しい作品、など。展覧会ちらしの表に取り上げられている、マリー・ミニョ(フランス)の作品は、色鉛筆のみで仕上げられた、独特な筆触の仕上げが際立つ。表現性も同様に幅広いが、ポップアートを思わせるような作品が多く目についた。美術館を一巡りすると、まるで夏の世界旅行に出かけたような、非日常の気分を味わえる。異国の社会文化を知るだけでなく、絵本を通じて、複数の感情が喚起されるからだ。[竹内有子]

2017/08/19(土)(SYNK)

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AMBIENT 深澤直人がデザインする生活の周囲展

会期:2017/07/08~2017/10/01

パナソニック 汐留ミュージアム[東京都]

携帯電話などの電子機器から家電、家具、インテリアまで、深澤直人がこれまでにデザインしてきた多彩な仕事を紹介する展覧会。展覧会タイトルの「ambient」を辞書で引くと「周囲の、環境の」という訳が出る。この「ambient」を、深澤は「ものとものの間にある空気」と説明する。そこで思い出したのは、2009年に21_21 DESIGN SIGHTで開催された深澤直人の展覧会「THE OUTLINE 見えていない輪郭」だ。深澤直人のプロダクトと藤井保による写真で構成された展覧会が提示していたのは、プロダクトそのものではなく、プロダクトとその周囲との関係によって現われる「輪郭」だった。写真は当然静的なものだったが、照明を入れた乳白色アクリルの上に展示されたプロダクトの輪郭は、それを見る人の視線の移動によって絶え間なく変化する。平面図には現われないかたち、視線の移動によってシームレスに変化する輪郭の美しさを見せる展覧会だった。そして今回の展覧会は「ambient」。「周囲」が意味するものは、「輪郭」が示す「線」ではなく「空間」あるいは「空気」。その「空気」を見せるために、展示室はキッチン、ダイニング、リビング、浴室などの居住空間に見立てて造作され、そこに深澤がこれまでに手がけたプロダクトが配されている。観覧者はケースに展示されたプロダクトを単体で鑑賞するのではなく、モデルルームのような室内に置かれた作品の周りをめぐり、空間とプロダクトの関係性が生み出す「空気」を体感することになる仕掛けだ。
そのような生活空間一式が深澤の仕事のみで構成できていることはその仕事の多彩さを語っており、またメーカーがさまざまであるにも関わらず、価格帯もさまざまであるにも関わらず、そこには一貫したスタイルを見ることができる。しかしその一貫性は、アーティストの作品スタイルに見られるそれではなく、デザイン思想によって生み出されるもの。深澤のデザインはしばしば「アノニマス(無名の)」と呼ばれる。たとえば、無印良品の壁掛式CDプレーヤー(1999)やパナソニックのドライヤー(2006)は、デザインに詳しい者ならば深澤直人の仕事と知っているが、メーカーは深澤の名前を出していないので、この製品のユーザーのどれほどがそのことを知っているだろうか。筆者はこの夏、無印良品の店頭で新しいスーツケースを試してみて、シンプルでとても使い勝手が良く手頃な価格の製品という印象を持ったのだが、本展を見てはじめてそれが深澤デザインだということを知った。消費者は、深澤直人のプロダクトをデザイナーの名前ではなく、いいデザイン、しっくりくるデザイン、使いやすいデザインという視点で手にとるのだ。そしてメーカーが深澤に期待していることもまた、スター・デザイナーのブランドで売るのではなく、造形的な差別化ではなく、触れたとき、使ったときに違いが分かるデザインということなのだろう。総数100点以上のプロダクトが紹介されている展示空間は、デザイン関係者のみならず、ふつうの生活者にとっても、「よいデザインとは何か」という問いに対するひとつの指針、デザインが場にもたらす「空気」の存在を教えてくれる。[新川徳彦]


会場風景

2017/08/15(火)(SYNK)

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