2018年12月01日号
次回12月17日更新予定

artscapeレビュー

その他のジャンルに関するレビュー/プレビュー

KAC Performing Arts Program 2017/ Contemporary Dance ワークショップ&ディスカッション『ダンスの占拠/都市を占めるダンス』

会期:2018/03/24

京都芸術センター[京都府]

「都市におけるダンス」をテーマに、ダンスやダンサーを取り巻く現在の状況を再認識し、課題や展望を話し合う、ワークショップとディスカッションのプログラム。ほぼ丸一日にわたって行なわれたディスカッションの6つのセッションのうち、筆者は、手塚夏子のお話とワークショップ「フォルクスビューネの占拠にいて考えたこと」、「ダンサーが手を組むこと~労働としてのダンスと、互助組織、ネットワーク」、「若手ダンサーが求める課題と環境、そして機会」、「ダンス/地域/都市/社会/世界」の4つを聴講した。

まず、1つめのセッションでは、ダンサーの手塚夏子が、昨年ベルリンの劇場フォルクスビューネが占拠された現場での体験談を話した。ワークショップのようなものや炊き出しも行なわれ、現場は殺気立つというより穏やかな雰囲気だったというが、そこには、「対立の歴史が長いからこそ、運動を静かに続けることで対話を持続させよう」という静かな熱があるのではと手塚は話す。占拠事件の直接的なきっかけは、劇場総監督を25年間務め、実験的・問題提起的なアプローチで知られる演出家のフランク・カストルフが退任し、後任に元テート・ギャラリーの館長クリス・デーコンが着任したことで、これまで同劇場が培ってきた演劇文化や批判精神が失われるのではという反発が起こったことにある。手塚はさらに、「無骨ながらも創造的な街だったベルリンが、ジェントリフィケーションにより変容していくことに対する怒りも背景にあったのではないか。自分のアートが商品としてどう価値づけられるかという方向にアーティストの意識が変わっていくし、そうした意識のアーティストが入ってくる。60年代のジャドソン教会派のように、『タダ(に近い)場所』があることが重要。商品価値ではなく、何が自分たちのリアリティかを模索できる場所からこそ、何かが生まれる可能性がある」と話した。

「ダンサーが手を組むこと~労働としてのダンスと、互助組織、ネットワーク」のセッションでは、ダンサー・振付家の伊藤キムが、「ダンサーや振付家の労働組合をつくる」提言を行ない、議論の中心となった。プロデューサーや有名振付家など力のある相手に対し、ダンサーが個人でギャラなどの交渉に臨むことは難しいが、組合をつくって団体で交渉すればどうかという提言だ。そのためには、ダンサーは「踊りたいから踊る人」ではなく、職業人としての自覚を持つ必要があると訴えた。会場からも活発な意見が出され、演劇批評の藤原ちからは、俳優や制作者の労働環境問題についても触れつつ、「労働の対価として認められたものだけがアートなのか。今の日本社会や行政が求めるものという枠でアートをはかれるのか。アートの自律性についても丁寧に議論していくべきだ」と述べた。また、舞踊史研究者の古後奈緒子は、フランスの大学のカリキュラムを紹介し、労働基準法や契約の結び方についても教えること、ダンス史をきちんと学ぶことで自作の歴史的位置付けについて語れるように教育がなされていることについて話した。

最後のセッション「ダンス/地域/都市/社会/世界」では、神戸のNPO DANCE BOXのディレクター横堀ふみが、多文化が混淆する町の中にある劇場としての取り組みを紹介した。また、JCDN(NPO法人ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク)の佐東範一が、「踊りに行くぜ!」などのネットワーク整備や制作支援活動、震災を契機に始まった東北地方の芸能との交流をはかる「習いに行くぜ!」や三陸国際芸術祭の取り組みを紹介した。会場からの発言を交えてのディスカッションでは、公共ホールとの連携のあり方、「観客」の想定や育成、助成金頼みの体質からどう脱却するか、「コミュニティダンス」など地域で生まれるダンスのニーズなど、多岐にわたる論点が提出された。

若手、中堅、ベテランと層の厚いダンサーに加え、制作者やプロデューサーが集まって話し合い、刺激を与え合う貴重な機会だった。また、DANCE BOX(神戸)やJCDN(京都)など中間支援を行なう団体は関西に多い。こうした機会が今後も継続され、シーンの活性化につながることを願う。

2018/03/24(土)(高嶋慈)

神宮徴古館・神宮美術館

神宮徴古館・神宮美術館[三重県]

伊勢の神宮にご参拝、ではなく見学に来ました。ここは小学生のとき修学旅行で訪れて以来だが、二見浦の夫婦岩は覚えているのに神宮の記憶はまったくない。まあガキにとって寺社ほど退屈な場所はないからな。そんなわけで、いまにいたるまで、伊勢神宮は天照大神を祀る場所で、20年にいちど社殿を建て替える式年遷宮が行われるということくらいしか知らなかった。調べてみると、伊勢には内宮と外宮の2カ所あり、しかもどちらにも社殿がいくつもあるらしい。目的地は内宮の御正宮と呼ばれるところだが、最奥部にあるので駅の近くの外宮から見ていく。土宮や風宮など計14ある別宮の隣はどこも更地になっていて、白い砂利を敷きつめた上に家型の木箱が置かれている。あ、なるほど、式年遷宮というのはよく写真で見かける御正宮だけでなく、すべての社殿で行われるのか。想像以上に大変な行事だ。

内宮からバスで外宮に向かう途中、徴古館と美術館の前で下車。小高い丘の上に建つ神宮徴古館は、赤坂迎賓館を手がけた片山東熊の設計で、明治42年の竣工というからもう100年以上たつ(ただし2階部分は戦後増築)。左右対称のルネサンス様式だが、場所に不釣り合いな威容だ。展示物件は式年遷宮で出た御装束神宝など。御装束神宝とは社殿に納められた神々の調度品の類いで、以前は式年遷宮のたびに埋めたり焼いたりして新調していたが、もったいないので(とはいってないけど)一部を保存・展示することにしたという。その奥には神宮美術館があって、式年遷宮を記念して奉納された美術品が収蔵されている。もちろんだれでも奉納できるわけではなく、文化勲章受章者や日本芸術院会員など国に認められた芸術家に限られるため、前衛芸術はない。この時期はちょうど皇居で開かれる歌会始のお題に因んだ特別展が開かれていて、今回は「語」をテーマにした作品約20点が展示されていた。

2018/03/16(村田真)

カタログ&ブックス│2018年1月





展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

評伝 ゲルハルト・リヒター Gerhard Richter, Maler


著者:ディートマー・エルガー
翻訳:清水穣
発行:美術出版社
発行日:2018年1月10日
定価:4,600円(税別)
サイズ:21×14.5cm、444ページ

ドイツで2002年に刊行された評伝『Gerhard Richter. Maler---Biografie und Werk(画家ゲルハルト・リヒター、伝記と作品)』をベースに、近年の活動を新たに書き下ろした新版。作品図版やプライベートフォトなどおよそ150点を掲載。リヒターの言葉と初期から2017年の作品を通じて、絵画への想い、その思考の源を辿るリヒター公認の決定的評伝。



OPEN GATE 2017 動き続ける展覧会 〜 An ever-changing exhibition (「何もないところから」〜 start from here)


写真:渡部勇介、WinWin
テキスト:大友良英、坂口千秋、芹沢高志、Sachiko M
デザイン:横山サオリ
発行:P3 and environment
発行日:2018年1月1日
定価:1,500円(税別)
サイズ:17×19cm

2017年9月に開催した OPEN GATE 2017 の写真集が出来ました。会場に作品、アーティスト共々現れるところから、自然のままに暗くなりかすかな光の中で会場を去る瞬間まで、どこで何が起こるか予測できない会場内を時にひた走り、時に暖かく見守りながらASR公式カメラマン渡部勇介とWinWinが撮り続けた大量の写真の中からぐっと選別。「何もないところから」「何もないところまで」展覧会や公演という概念を超えた独自のスタイルが、目の前で日々生み注目されていく様子をダイジェストで紹介。




白百


著者:原研哉
デザイン:原研哉
発行:中央公論新社
発行日:2018年1月10日
定価:1,900円(税別)
サイズ:四六判、216ページ

記憶の束から思いつくままに百の白を引き抜き、一葉ずつの白を味わってみたい。もはや白いという形容も希薄になるほどに――日本文化を支える要点であり、自身のデザインの根幹にある感性「白」について百の具体例を挙げて語る。前著『白』と対をなす実践編。




カイ・フランクへの旅 “フィンランド・デザインの良心"の軌跡をめぐる─


著者:小西亜希子‎
写真:永禮賢
発行:グラフィック社
定価:3,200円(税込)
サイズ:B5変型、224ページ

今日に続くフィンランド・デザインの礎を作り、1950〜60年代の黄金期を支えたプロダクトデザイナー、カイ・フランク。彼がデザインしたシンプルで機能的、丈夫で手頃な価格のテーブルウェアは、イッタラの「ティーマ」や「カルティオ」として、発表から60年以上を経たいまなお世界中で愛されている。そんなレジェンドの知られざる仕事や人生、素顔を、丁寧な取材と貴重な写真の数々によりひもといてゆくデザイン紀行。



2018/01/12(金)(artscape編集部)

《横浜港大さん橋国際客船ターミナル》

[神奈川県]

クルーズで「飛鳥II」に乗船した。おかげでfoaが設計した《横浜港大さん橋国際客船ターミナル》を初めて出航と入港する側から見ることができた。頭ではわかっていたつもりだったが、本当にこれは船から見ると、さらにカッコよい。海に向かって突き出す波打つような屋上のヴォリュームのほか、客船と平行する水平のラインや層構成などがはっきりとわかる。もちろん、この建築の内部や屋上を歩くだけでも刺激的な空間を味わえるが、やはり移動しつつ海から眺めることもしないと、このデザインの醍醐味を本当に体験したことにならない。となると、世界各地を移動する超大型客船の場合、橋をくぐることができないため、ここに着岸できないのはもったいない。

同様に海から見る横浜の風景も素晴らしい。みなとみらいの高層建築や赤煉瓦の倉庫はもちろん、横浜のランドマークとして親しまれているキング、クィーン、ジャックという3つの近代建築が同時に視野に入るからだ。おそらく昔はもっと目立ったはずだ。しかも晴れていると、ビルのあいだに富士山がでっかく見える。このアングルは写真で知っていたが、本当に見たのは初めてだった。また地図上で理解していた象の鼻の形も、船から見下ろすと肉眼で確認できる。飛鳥IIはさまざまな高さから周囲を観覧できる船尾のデッキをもち、眺望を得るためのデザインがすぐれている。そして朝夕の食事もいい。

ただし、飛鳥IIの空間や内装は、ロイヤル・カリビアンのクルーズ船に比べると、意外に豪華でなかった。かといって、シックでもない。超大型(乗客3~4千人+乗組員千人以上)というスケールメリットのなせる技だろうが、なるほど、ロイヤル・カリビアンの安い価格設定はよくできている。船内で幾つかの音楽をはしごしたが、水野彰子+石井希衣が面白かった。通常、ラウンジの音楽は当たり障りのない有名な曲だけで終わるが、それも一応最初に入れつつ、途中で激しいガチのピアノ・ソロ(ショパンの「革命」とか)、最後にフルートのための超絶技巧系の現代音楽を演奏し、なかなか攻めた選曲だった。

2017/12/24(日)(五十嵐太郎)

東北大学五十嵐研究室ゼミ合宿+原発被災地リサーチ

[福島県]

12月16日と17日の両日、五十嵐研のゼミ合宿を兼ねて、原発事故によって避難指示の対象となった被災地のリサーチを実施した。まず最初に常磐線の木戸駅に近い、楢葉町の住宅と連結する小料理屋「結のはじまり」にてヒアリングを行なう。ここを営むのが、福島の阿部直人の建築事務所から転職した古谷かおりである。また、ならはみらいの西崎芽衣は、京都で社会学を学び、卒業してすぐにここに移住し、空き屋バンクなどの事業を動かしている。続いて、緑川英樹が手がける《木戸の交民家》を見学した。築70年ほどの古民家を再生・活用する活動で、地域コミュニティの交流や米づくりなどにも挑戦している。いずれも3.11がなければ、このエリアと関係なかった若い人が参入し、新しい街づくりにかかわっているのは頼もしい。駅の周囲は入母屋の住宅が並び、個性的な街並みの景観がある。ただ、駅前は急ごしらえの安普請のホテルがもうすぐオープンする予定だった。

川内村では、2016年にオープンした村内唯一のCafe Amazonを訪れた。これが東京ならば、なんの違和感もないが、周りにはお店らしいお店がほとんどなく、つぶれたガソリンスタンドの向かいにぽつんとカフェがある。そこで、なぜこの場所にタイのチェーン店の日本第1号店のカフェができたのか、マネージャーに話をうかがう。東日本大震災のあと、コドモエナジー社が復興支援で、川内村に工場をつくったことがきっかけらしい。また焼き肉店をリノベーションした店舗が、隈研吾風のルーバー改修だなと思ったら、やはり福島の木材利用で両者の関係があることも判明した(正確には内外装は隈事務所ではないが)。なお、ここの女性マネージャーも、タイで20年ほど暮らしてから、いきなり川内村にやってきたという。そしてカフェの存在が、タイと日本の文化交流にも貢献しているようだ。やはり、3.11が縁となって、外部から新しい風が入っているのは興味深い。

2017/12/16(土)・17(日)(五十嵐太郎)

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