2019年02月15日号
次回3月1日更新予定

artscapeレビュー

写真に関するレビュー/プレビュー

愛について アジアン・コンテンポラリー

会期:2018/10/02~2018/11/25

東京都写真美術館[東京都]

今年、東京都写真美術館事業企画課長からブリヂストン美術館副館長に転じた笠原美智子は、東京都写真美術館の学芸員として、ジェンダーやセクシュアリティをテーマにした多くの展覧会を企画してきた。今回の「愛について アジアン・コンテンポラリー」展はその置き土産と言うべきグループ展で、現代アジアの女性アーティストたちにスポットを当てている。出品作家は笠原が選出した中国のチェン・ズ(陳哲)、シンガポールのジェラルディン・カン、台湾のホウ・ルル・シュウズ(侯淑姿)、在日コリアン3世のキム・インスク(金仁淑)、韓国のキム・オクソン(金玉善)、そして東京都写真美術館学芸員の山田裕理が選出した大阪出身の須藤絢乃の6人である。

いうまでもなく、日本を含めて、アジアの女性は長く社会的に抑圧されてきた歴史を持つ。女性アーティストたちもむろん例外ではない。今回の出品作家の多くは、それぞれの精神的、肉体的な違和感や苦痛を起点として、写真作品のテーマを選び、自己と社会との関係のあり方を細やかに再組織化し、提示しようとしている。むろん国や地域によって生の条件は異なっているが、アーティスト自身の身体性が、作品の中に不可欠の要素として組み込まれていることで、男性作家とは違った、直接的で生々しいメッセージが伝わってきた。

家族のポートレートを演出して撮り続けるジェラルディン・カン、中国の内戦を逃れて台湾に渡った住人たちの住む「眷村」をテーマとしたホウ・ルル・シュウズ、在日コリアンとして直面したアイデンティテイの多様化に着目する金仁淑、自身を含めて外国人と結婚した韓国人のカップルを撮影したキム・オクソン、そしてジェンダーの違和感を梃子に変身型のセルフポートレートを制作し続ける須藤絢乃と、それぞれクオリティの高い作品が並んで見応えがあった。だが特に注目したのは1989年、北京生まれのチェン・ズの展示だった。

自傷行為をテーマとした作品で、2011年に第3回三影堂撮影大賞を受賞してデビューしたチェンは、今回「我慢できる」と「蜜蜂」の2作品を出品した。傷口を抉るような痛々しいイメージと、美の極致とでも言うべき完璧な画面構成とが合体して、繊細なストーリーが織り上げられていく。今回はアジア各国に目配りしたやや総花的な展示だったが、東京都写真美術館にはさらに積極的に、「アジアン・コンテンポラリー」の写真作品をより深く掘り下げた企画を期待したい。

2018/10/06(土)(飯沢耕太郎)

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倉谷卓「Ghost’s Drive」

会期:2018/09/26~2018/10/09

銀座ニコンサロン[東京都]

目の付け所のよさを感じる写真展だった。1984年、山形県生まれの倉谷卓は、故郷に近い山形県遊佐町で、お盆の時期にオモチャの自動車を軒先に吊り下げる習慣があることを知る。それらを同町の友人の助けを借りて、3年余りにわたって撮影したのが、今回展示された「Ghost’s Drive」のシリーズである。

同地域では、以前はナスやキュウリなどを供えるとともに、水草で編んだ「精霊馬」を吊り下げていたのだという。ところが、それをつくる職人が少なくなったことと、移動の手段が馬から自動車に変わったこともあって、戦後の一時期からオモチャの車が普通になった。先祖の霊が自動車に乗って訪れるという発想自体が面白いが、それぞれの家ごとに、さまざまな種類の車が吊り下げられているのが目を引く。赤い車が多いのは、「故人が乗っていた、憧れていた車」ということのようだ。電車やバスなどもあるが、これはご先祖さまの数が多いので、一度に乗ることができるようにという理由だという。タクシーには料金の千円札が挟み込まれている。飛行機やヘリコプターなどまである。

倉谷の撮影ぶりは、肩の力を抜いた軽やかなもので、吊り下げられたオブジェの「ポップでシュール」な雰囲気がうまく捉えられている。「Ghost’s Drive」というタイトルも気が利いている。民俗行事が時代の変化とともに現代化していくプロセスは、ドキュメンタリー写真のテーマとしてもっと広く取り上げられてもいいのではないだろうか。なお、本展は10月25日~11月7日に大阪ニコンサロンに巡回する。

2018/10/02(火)(飯沢耕太郎)

中藤毅彦「White Noise」

会期:2018/09/14~2018/10/13

ZEN FOTO GALLERY[東京都]

中藤毅彦は東京ビジュアルアーツ写真学科在籍中に、森山大道に師事している。その意味では生粋の「森山チルドレン」のひとりであり、これまで発表した作品においても、たびたびその影響を指摘されてきた。だが、今回東京・六本木のZEN FOTO GALLERYで開催した「White Noise」展の作品を見ると、彼もまた元田敬三と同様に、森山の路上スナップ写真の作法を取り込みつつ、独自の領域に踏み込もうとしているようだ。

「White Noise」は、2011年の東日本大震災以降に撮影した写真群を集成したシリーズである。ギャラリーの壁一面を埋め尽くす、モノクロームおよびカラー作品約50点のなかには、看板、ポスター、グラフィティなどの描写が目につく。中藤は明らかに、都市の表層を覆い尽くすそれらの視覚的記号に鋭敏に反応してシャッターを切っているのだ。そのような傾向は森山の写真にもあるのだが、中藤はかなり極端に画面のグラフィカルな要素を強化しているように見える。カラー写真を古い絵はがきの人工着色のような色味で出力しているのも、グラフィック志向の現われといえるだろう。また、あくまでも個の視点にこだわり、カメラを手に街を歩きつつ撮影する森山と比較して、中藤のビュー・ポイントは多層的であり、多様な方向に拡散していく。森山を起点とした日本の写真家たちの営みが、さまざまな形で枝分かれしつつ、収穫の時期を迎えつつあることがよくわかった。

展覧会に合わせて、ZEN FOTO GALLERYから同名の写真集も刊行された。川田喜久治の『地図』(1965年)や細江英公の『鎌鼬』(1969)などの写真集へのオマージュというべき、観音開きを多用した凝った造本が写真の内容とうまくマッチしている。

2018/09/27(木)(飯沢耕太郎)

森山大道「東京ブギウギ」

会期:2018/09/15~2018/09/30

NADiff a/p/a/r/t[東京都]

森山大道の新作『東京ブギウギ』(スーパーラボ、2018)は、2017年以降に新宿、渋谷、池袋、浅草、銀座などの路上で撮り下ろした、カラー写真のストリート・スナップをまとめて掲載した写真集である。森山のカラー作品を特徴づける「チャラチャラ」、「ペラペラ」のキッチュな事物のオンパレードで、平成最後の日々の東京の眺めが、B6判の小ぶりな写真集にぎっしりとパッケージされている。今年80歳を迎えるとはとても思えない、若々しい意欲あふれる写真集の造りを大いに楽しむことができた。

『東京ブギウギ』は通常版のほかに200部限定、オリジナルプリント付きの特別版も刊行されている。そのうちの100冊が、東京・恵比寿のNADiff a/p/a/r/tのギャラリー・スペースで展示・販売された。普通の展覧会のように、作品が全部最後まで壁に掛けられているのではなく、販売済みのものは「sold out」の貼り紙を残して撤去されてしまう。僕が見に行った時には、すでにかなりの数の作品が姿を消していた。どうやら、いかにも「森山っぽい」作品からどんどん売れていったようだ。どうしても残り滓を見せられているような気分にはなるが、これはこれで面白い試みなのではないかと思う。ただ、できれば売れた写真の画像をコピーして残していただけるとよかった。そうすれば、「森山っぽい」写真がどんなものなのかの検証もできただろう。

2018/09/26(水)(飯沢耕太郎)

元田敬三「御意見無用」

会期:2018/09/15~2018/10/08

MEM[東京都]

森山大道展が『東京ブギウギ』を展示していたNADiff a/p/a/r/tの階上にあるギャラリー、MEMでは、元田敬三の「御意見無用」展が開催されていた。ビジュアルアーツ専門学校大阪出身の元田は、森山に直接に教えを受けたわけではない。だが路上スナップ写真への徹底したこだわりを見ると、まさにその正統的な後継者のひとりといえる。それでも、彼の新作を今回あらためて見直して、その撮影のスタイルにかなりの違いがあることがわかった。

何をどのように撮るのかを定めず、白紙の状態で街を彷徨い歩き、目の前に出現した被写体に反応してシャッターを切る森山に対して、元田はある程度被写体の幅を限定しているように見える。今回のシリーズでいえば、「群衆の中であきらかに特異なオーラを放ち、独自の人生観を持っている人たち」に特化してシャッターを切っているのだ。またストロボを多用し、21ミリの広角レンズを使っているために、彼が撮影した人物たちは周囲の光景から浮き上がり、奇妙に歪んだ姿で写真に写りこんでいる。結果として、元田の写真群には、あたかも狙った獲物に飛びかかるような緊迫した雰囲気が漂うことになった。

人によっては、あまりにも強引すぎる撮影法に見えるかもしれないが、1990年代から自分のスタイルを貫き通してきたことによって、彼の写真に独特の凄みと風格が備わりつつあることは間違いない。そろそろ『青い水』(ワイズ出版、2001)以来の制作活動の積み上げを、1冊の写真集にまとめる時期がきているのではないだろうか。

2018/09/26(水)(飯沢耕太郎)

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