artscapeレビュー

2011年05月15日号のレビュー/プレビュー

前田郁子 展「窓」

会期:2011/04/12~2011/04/17

立体ギャラリー射手座[京都府]

京都造形芸術大学通信教育部の日本画コースで学んだ作家の個展。作家自身と身近な人々を描いた肖像画が展示されていた。それぞれには建物の窓や壁、ドアなども描かれているのだが、それらは背景とは限らず、窓の格子が人物の顔を遮るように前面に描かれているものもある。写真館で撮影された記念写真のような、あるいは証明写真のような、微妙な緊張感につつまれた、人々のなんとなく硬い表情をさらに強調してみせるドアや窓というフレームの効果と色彩のせいか、強烈な存在感で印象に残る個展だった。

2011/04/16(土)(酒井千穂)

開廊30周年記念「馬文(ジェニファー・ウェン・マ):浪ー墨春(Jennifer Wen Ma, Tide-Inked Spring)」

会期:2011/04/08~2011/04/30

アートスペース虹[京都府]

開廊30周年記念の企画展。ギャラリー壁面に設置された棚に合計12本の小さなしだれ桜が並べられていた。花をつけているものが多いのだが、どれも違和感がある。よく見ると木も枝も墨が塗られていて、葉もところどころ黒かった。最初は全体を真っ黒に塗ったものだったのだという。ギャラリー中央には、大きな石が置かれ、凹みに墨汁が張られている。その水面に浮かぶ白い布をスクリーンにして、筆が線を描く映像が映し出されていた。庭園のような設えの美しい空間なのだが、アーティストは日本人ではないだろうとピンとくる来場者も多かったと聞いた。木を墨で塗るという感覚が相容れない感覚なのだ。しかし、会期中のそれぞれの時間のうつろいを示していた小さな桜は、花を咲かせているものも散ってしまったものもじつに可憐だった。作家とはメールなどでやり取りをし、すべての展示はギャラリーのオーナー熊谷さんが手がけたのだという。開廊以来、さまざまな作品を紹介し、多くの作家を世に送り出してきた小さなギャラリーの歴史を如実に物語るような展覧会でもあった。

2011/04/16(土)(酒井千穂)

建築系ラジオ春合宿2011「予選落ちなし、必ず講評が受けられる建築系ラジオ~設計・論文発表会」

会期:2011/04/16

丹沢ホーム[神奈川県]

建築系ラジオが企画した「予選落ちなし、必ず講評が受けられる建築系ラジオ~設計・論文発表会」は、卒計イベントが一部の選ばれた作品とそれ以外の選ばれなかった作品という風に、二分されてしまうことに対し、全員がクリティックを受けることができるオルタナティブである。実際、原広司が設計した丹沢ホームに泊まり、学部1年、2年の学生も、約30分の講評を全国各地からの先生と建築家から受けるという贅沢な企画になった。特に東京理科大学の一年生、木崎美帆が、写真課題や自室に手を加える課題において独特のセンスを示したことが印象に残っている。

2011/04/16(土)(五十嵐太郎)

ナイロビアートプロジェクト「ナイロビレジデンス」帰国報告会

会期:2011/04/17

京都芸術センター談話室[京都府]

東京藝術大学大学院博士後期課程に在籍する美術家の西尾美也を中心にした日本人とケニア人の有志からなる、西尾工作所ナイロビ支部により企画運営されているナイロビ・アートプロジェクト。ケニア共和国のナイロビで、日常的な生活空間を実験場に、アーティストと地域住民が創発的な関わり合いを生みだすアートプロジェクトを実践するというもので、3月の1カ月間、このプログラムに参加した東明と松原慈による報告会が京都芸術センターで開かれた。
東は、町の通り沿いにある家具工房の近くで制作した木の棒を組んだジャングルジムのような作品の制作についてや、人々が集う教会でナイロビのゴミ袋とカーテンでつくったパラシュート作品を飛ばすワークショップの様子を報告。松原からは、巨大な広告塔に薄い布を貼り、それをスクリーンにして町の人々を撮影した映像を上映するというプロジェクトや、滞在中に出会ったものごとをアナグラムなどの言葉遊びに変換し、新聞や雑誌にして地元の新聞売りとともに販売したことなどが発表された。
二人のアーティストの活動もさることながら、両者のプレゼンからはともに、まったく異なる生活文化に暮らす人々の常識や社会通念のひとつがあるときにポロっと崩れ、一部の人にしろ、それまでそこになかった別の価値観が好意的に迎えられるときがうかがえて、じつに興味深く感じた。ナイロビアートプロジェクトの今後の活動展開も気になる。
[写真:松原慈が滞在中制作した新聞]

2011/04/17(日)(酒井千穂)

建築系ラジオ春合宿2011「神奈川県西部建築ツアー」

会期:2011/04/17

54の窓、松田山ハーブガーデン、アサヒビール神奈川工場、とらや工房[神奈川県]

合宿の二日目は、石井和紘の54の窓、高松伸の松田山ハーブガーデン、安藤忠雄のアサヒビール神奈川工場をまわり、原を含む、ポストモダン四天王について、学生とともにラジオ収録を行なう。最後は内藤廣によるとらや工房へ。断面で空間を決定し、環境に沿った配置でおちついた場をつくるシンプルだが、強度のあるデザイン。この隣が吉田五十八による東山旧岸邸で、ディテールのレベルで現代的な感覚により再解釈された和の空間を堪能する。その後、とらやに戻り、菓子とお茶をいただく。なかなか、初心者にはできないセレクションのマニアックな建築ツアーとなった。

2011/04/17(日)(五十嵐太郎)

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