artscapeレビュー

2011年07月15日号のレビュー/プレビュー

東日本大震災:南相馬市

会期:2011/06/02

[福島県]

はりゅうウッドスタジオの芳賀沼さんから依頼された、仮設住宅地での集会所のプロジェクトの敷地を見学するために、研究室の吉川彰布くん、村越怜くんとともに、南相馬市を訪れる。津波に襲われ、水平になった風景が、小高い丘を挟みながら断続的に出現する様子は、岩手のリアス式海岸や仙台の平野とは違う。研究室の石井くんの実家は無事だったらしいが、その近郊は壊滅的な被害だった。その後、原発事故の立ち入り禁止区域ぎりぎりまで南下すると、本当に人影がなくなる。原発からの距離によって見えない境界線が引かれていた。

2011/06/02(木)(五十嵐太郎)

野村佐紀子 展

会期:2011/06/02~2011/06/17

photographers’ gallery[東京都]

野村佐紀子はこのところphotographers’ galleryで毎年個展を開催しているが、それもいつのまにか4回目になった。展示を重ねていく間に、以前の彼女の写真とは違ったスタイルの表現の形が生まれつつあるように思う。
野村の代名詞といえるのは、プライヴェートな空間で、闇の中に溶け込んでいくような男性ヌードだが、photographers’ galleryでの展示では、その前後に風景、オブジェ、スナップなどの写真群がつけ合わされ、写真家の移動の軌跡や感情のざわめきが浮かび上がってくる「物語」的な構造が模索されている。その試みは、今回の展示作品でほぼ完成の域に達したのではないだろうか。白木のフレームにおさめられた18点の写真を目で追っていくうちに、不思議な余韻を残すイメージの流れに誘い込まれていくような気がしてくる。写真の大きさ(2点だけがやや大きく引き伸ばされている)のバランスや、カラー(4点)とモノクローム(14点)の配合もうまくいっていて、野村の視線と見る者の視線が自ずと同化していくような感覚を味わうことができた。野村が荒木経惟のアシスタントとして写真の世界に飛び込んでから20年が過ぎ、師匠とはやや違った、ゆったりとした時間の流れを含み込んだ「物語作家」のスタイルが身についてきているように感じる。
なお、photographers’ galleryの隣室のKULA PHOTO GALLERYでも、野村の個展「REQUIEM」が開催されていた。旧作の男性ヌード10点と、森の風景とカーテン越しに差しこむ光を捉えたカラー作品が2点。男性ヌードは入稿用の原稿なのだろう。赤いペンでの描き込みやナンバリングの数字がある。本人に確認できなかったのだが、おそらく何か鎮魂の意味を込めた展示なのだろう。こちらも、囁きかけるように静かに語りかける野村の声が聞こえてきそうな、いい展示だった。

2011/06/03(金)(飯沢耕太郎)

ポンペイ展 ~世界遺産 古代ローマ文明の奇跡~

会期:2011/02/10~2011/06/05

仙台市博物館[宮城県]

大学院の時にポンペイ、その後にもうひとつの消えた町エルコラーノも訪れた。また、なぜか日本では三年に一度はポンペイ展を開催しているので、通常なら行かなかったと思うのだが、震災時に仙台でポンペイ展が開催されていたことに奇遇を感じ、終了間際に足を運ぶ(ただし、今回は、現地の展示やポンペイ展でよく目玉になる、火山灰で亡くなった犠牲者の身体が空洞になり、そこに石膏を流して最期の姿を彫刻化したものはなかった)。実際、やけに塀や門構えだけが残ってしまった蒲生など、仙台の被災地にはポンペイのような風景が出現した。改めて当時のフレスコ画は、色があせずに二千年もよく残ったと感心する。現代のデジタル化された情報はどうなるのだろうか。ちなみに、仙台市博物館も被災しており、まだ完全復活していなかった。

2011/06/03(金)(五十嵐太郎)

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東日本大震災:東松島市・石巻

会期:2011/06/04

[宮城県]

電車が通じないため、バスに乗って、矢本/東松島のエリアを訪れた。45号線を越えて少しすると、風景が変わりはじめる。たとえ昼でも、濃霧のなかで、見渡す限り誰もいない、ガレキだらけの耕作地のあぜ道を歩くのは怖い体験である。淀川大橋を渡ろうとしたら、途中でばっさりと切断されていた。仕方なく、大きく迂回して、震災後、三度目の石巻へ。北上運河を越え、中屋敷から東の工業港背後の住宅地や、海辺の南浜町や門脇町はいまだにガレキが片付いていない。もっとも、中央や立町の商店街は、ささやかながら再開し、復興の兆しが見えていた。

2011/06/04(土)(五十嵐太郎)

任意の点を「R」とした展覧会

会期:2011/06/04~2011/06/19

竜宮美術旅館[神奈川県]

竜宮美術旅館は、横浜の日ノ出町にある和洋折衷のラブホ(時代的に「連れ込み旅館」というべきか)を改装したアートスペース。外壁は赤と白で装飾され、風呂場や水回りには魚や女性のレリーフが飾られている一見の価値あり建築だ。その竜宮(=R)を中心に1キロ圏内でゲットした素材を作品に採り入れるという条件で、横浜界隈で活動するアーティスト9人が参加。和室で福島原発の葬式を行なった今井紀彰、畳の上にミラーボールの屏風を置いたタムラタクミ、ペインティングに駄菓子屋で買ったゴム製ウンコをちりばめた吉井千裕、廊下に巨大な剣を突き刺した杉山孝貴など老若男女、テーマも形式もさまざま。むしろこの多様性が奇妙な建築空間と相まって、展覧会の強度を高めているように思えた。あ、ぼくも小品を出してました。

2011/06/04(土)(村田真)

2011年07月15日号の
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