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2011年07月15日号のレビュー/プレビュー

パウル・クレー──おわらないアトリエ

会期:2011/05/31~2011/07/31

東京国立近代美術館[東京都]

パウル・クレーというと、ぼくのなかでは嫌いになる理由はなにもないのに、なぜか好きにもなれないという微妙な位置にいたが、この展覧会を見てその理由が少しわかったような気がする。同展はただたんに作品を時代順に並べるのではなく、「クレーの作品は物理的にどのようにつくられたのか」という視点に立ち、さまざまな技法や形式ごとに作品を分類・展示してみせている。たとえば「写して/塗って/写して」では、鉛筆やインクで描いた素描を黒い油絵具を塗った紙の上に置き、針で描線をなぞって転写した上に水彩絵具で着色するという技法を紹介。また「切って/回して/貼って」では、いちど仕上げた作品を切り分けて独立した2点の作品に、あるいは左右を入れ替えて別の作品にしてしまう事例を展示。つまり、クレーの作品には終わりがなく、ある意味つねに生成過程にあるということだろう。そうしたある種のハンパさが、理由だったのかもしれない。ぼくの好みはともかく、こうした生成過程にある作品や「おわらないアトリエ」という考えは、これからますます発展の余地があるように思う。

2011/06/22(水)(村田真)

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路上 On the Road

会期:2011/05/17~2011/07/31

東京国立近代美術館ギャラリー4[東京都]

「路上」というからストリートアートでも紹介されるのかと思ったら、そんなはずもなく、岸田劉生の《道路と土手と塀(切通之写生)》や東山魁夷《道》など文字どおり道路を描いた絵から、ラウシェンバーグや荒川修作らどこが路上なんだかわからない作品まで多々そろえてあった。おもしろいのは、銀座の建物を道沿いに片っ端から撮った木村荘八の『アルバム・銀座八丁』(1954)と、同様のコンセプトによるエド・ルシェーの『サンセット・ストリップ沿いのすべての建物』(1966)が並べてあること。「どうだ、日本人のが早い(ものもある)ぞ」と自慢しているかのようであった。

2011/06/22(水)(村田真)

東日本大震災復興支援「Arts Action 3331」展

会期:2011/06/15~2011/06/27

3331アーツ千代田[東京都]

京都のradが企画した建築展「SPACE OURSELVES」が巡回していた。中村竜治や近藤哲雄など、若手によるポスト震災の好企画である。かといって、ベタな復興計画ではない。失われたささやかな日常の風景の記憶を共有し、次のまちづくりにつなげる試みを提案した白須寛規のプロジェクトが印象深い。ただ、同じ会場において、アートと並ぶと、カッコ良くても、内容の伝わらなさが気になった。展示の方法は今後の課題だろう。

2011/06/24(金)(五十嵐太郎)

カレー屋で彫刻:北浦和也

会期:2011/06/07~2011/07/10

little GANESH[兵庫県]

インドカレーの店で開催された北浦和也の個展。飲食店なので他のお客さんがいると展示作品に近づくのにも少し気が引けるのだが、鼻の先がバールになっているゾウ、水道の蛇口から飛び出しているようなスーツ姿のサラリーマンなど店内のあちこちに展示されていた小さめの彫刻作品はどれもユニークでついうろうろと見て回りたくなる。無骨な彫り跡とその豊かな表現力には今回も目を見張る。自由な想像力という才気も感じる人だ。

2011/06/24(金)(酒井千穂)

プレビュー:生誕100周年記念フェリックス・ホフマン展 うつくしい絵本の贈りもの

会期:2011/07/16~2011/08/28

伊丹市立美術館[兵庫県]

スイス生まれの絵本作家であり、多彩な活動を行なった画家フェリックス・ホフマン。もともと画家活動と美術教師をしていた。日本でも馴染みのある絵本の原画、リトグラフとともに、挿絵、ステンドグラスの下絵、壁画の試作など、これまであまり知られていなかった絵本以外の彼の画業を見ることができる。

2011/06/24(金)(酒井千穂)

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2011年07月15日号の
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