artscapeレビュー

2011年08月01日号のレビュー/プレビュー

大西正一「Untitled──セカイニフレルタメノホウホウ」

会期:2011/06/21~2011/07/09

The Third Gallery Aya[大阪府]

風景、道具、機械、生き物など、およそあらゆるものを感情を排して撮影した写真が、一定のフォーマットに沿って並んでいる。4つの壁面のうち一面はグリッド状に整然と配置され、残りの面はランダムに並んでいるが、どうやら被写体のタイプによりグルーピングされているらしい。展示を見た瞬間、わが家のパソコンの画面やパソコン内の画像ファイルを連想した。われわれの脳内でも、案外本展と同じように情報の整理が行なわれているのかもしれない。

2011/06/23(木)(小吹隆文)

増山士郎

会期:2011/05/21~2011/06/25

ギャラリーαM[東京都]

増山士郎の新作展。北アイルランドのベルファストで滞在制作した作品などを発表した。会場の中央に広がるベルファストの街を再現したジオラマで、建物に記されたマーキングを見ると、カトリックとプロテスタントによって分断された街の様子が手に取るように分かる。イギリスからの分離独立を目指すナショナリストとイギリスとの連合を唱えるユニオニストの対立も読み込むことができる。この容易には解きほぐし難い対立関係を前に、基本的にアートはなす術もない。けれども増山がおもしろいのは、そのことを十分に承知しつつも、あくまでも個人的な視点から社会的な文脈に到達すべく、パフォーマティヴに行動しているからだ。そのことを示す象徴的な作品が、住まいの庭に転がる犬の糞を白い防護服に身を包んで処理する映像作品である。スローモーションを多用した映像は、いかにも深刻な報道番組を連想させるが、そのあまりにも馬鹿馬鹿しい行為とのギャップが見る者の笑いを誘う。しかし、このジオラマに囲まれた空間でこの映像を見ていると、この撤去する行為が、ちょうどテロリストによって仕掛けられた爆弾を処理する様子と重なって見えることに気づかされる。卑俗な日常生活と、果てしないテロとの闘いが重ねられているわけだ。これは、一見すると「日常と非日常」という古くからの対立項にもとづいているように見えるかもしれない。けれども、少なくともアイルランドにおいては、犬の糞を撤去する行為と爆弾を処理する行為が同じ水準にあることを想像的に思い巡らすと、この単純な図式がもはや失効していることに驚きを禁じえない。爆弾闘争というかたちはとらずとも、虚構をはるかに凌駕する現実の圧倒的な力を前にした今となっては、アイルランドであろうと日本であろうと根本的にちがいはないのかもしれない。増山のアートは、非日常が日常と化してしまったことを告げるリアリズムであり、それでもなおアートを試みる愚直なアートなのだ。

2011/06/23(木)(福住廉)

カレル・ゼマン展 トリック映画の前衛

会期:2011/06/14~2011/07/24

渋谷区立松濤美術館[東京都]

イジー・トゥルンカと並び、チェコ・アニメを代表するカレル・ゼマンの展覧会。人形や切り絵、ガラスなどを駆使して制作されたアニメーション映像をはじめ、それらの絵コンテや資料などが展示された。1940年代から50年代にかけてのアニメーションだから、その技術はきわめてローテクであり、CGや3Gがデフォルトになりつつある現在の基準からすれば、たしかに稚拙に見えるのかもしれない。けれども、重ね撮りによってイメージを合成したり、ガラスの湾曲面によって海中のゆらぎを表現するなど、画面の随所に見られる工夫の痕跡が、なんともほほえましい。技術や制度が確立されていなかったからこそ、知恵を絞ってなんとかしようと努めたのであり、それだけ表現の意欲が掻き立てられたのだろう。技術的には成熟期を迎え、産業的には逆に斜陽の時代に入りつつある現在のアニメーションを顧みると、はたしてゼマンの時代とどちらが幸福なのかと考えざるをえない。今後は表現の意欲という原点がますます問われるのではないか。

2011/06/24(金)(福住廉)

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堀内誠一 旅と絵本とデザインと

会期:2011/04/23~2011/06/26

うらわ美術館[埼玉県]

『anan』や『POPEYE』、『BRUTUS』のアートディレクションで知られる堀内誠一の本格的な回顧展。ADから絵本、ミニコミ誌、アエログラム(航空書簡)など、堀内の幅広い手仕事をていねいに振り返る構成で、非常に見応えがあった。図案家の父、治雄が師事していた多田北烏が主宰する「サン・スタジオ」に毎日新聞の美術記者、船戸洪吉が所属していたことや、堀内が14歳で入社した新宿伊勢丹百貨店で「原子力展」(読売新聞社主催、1954年8月12日〜8月22日)の広告やディスプレイを手がけたことなど、あまり知られていない事実を知ることができたのも大きい。雑誌誌面のカラーコピーを壁に貼りつけた展示はいかにも粗雑で貧相だったが、旅の絵手紙とともに現地で購入した玩具や土産品もあわせて展示するなど、遊び心を生かした展示手法も随所で見られた。なにより瞠目させられたのは、バラエティ豊かな絵本の数々。一冊一冊、内容にあわせて絵筆のタッチを変えており、堀内による華々しいクリエイションは確かな手わざによって支えられていたことがうかがえた。この描写の多様性は、たとえば河村要助の描写がおおむね単一性によって一貫していたことと比べると、よりいっそう際立って見えるにちがいない(「河村要助の真実」展、クリエイションギャラリーG8、2011年4月23日〜5月20日)。細かい情報とともに手描きで描き起こした絵地図や旅先から友人に宛てたアエログラム、滞在先のパリで自主的に発行していたミニコミ誌にも、その手わざの才覚が十分に発揮されていたから、やはりこのフリーハンドによる描写力こそ、堀内誠一の真髄なのだろう。

2011/06/26(日)(福住廉)

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オン・ザ・ロード 森山大道 写真展

会期:2011/06/28~2011/09/19

国立国際美術館[大阪府]

写真家・森山大道の、1965年のカメラ雑誌デビューから約半世紀に及ぶ活動を、10冊の写真集の流れに即して展覧。総点数400点以上に及ぶ大展覧会である。路上でのスナップ写真という制作スタイルは一貫しており、そのブレの無さには驚くばかりだが、写っている人間や空気感には、やはり時代の変化が感じられる。昔の方が濃い人が多く、現代に近づくほど軽薄な空気が感じられるのは、私の偏見だろうか。従来から指摘されてきた森山作品の特質に加え、仕事と時間が積み重なって初めて見える“時代”という巨大なものが感じ取れる展覧会だった。

2011/06/27(月)(小吹隆文)

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2011年08月01日号の
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