artscapeレビュー

2011年09月01日号のレビュー/プレビュー

リメイク・ザ・ウォール 西垣肇也樹 展

会期:2011/08/09~2011/08/14

同時代ギャラリー[京都府]

自作パネル18枚からなる、全長約33メートルの超大作絵画が展示された。画廊内に新たな壁面が出現したかのような展示プランも効果的で、久々に圧倒的迫力を持つ絵画作品に出会った気分だ。作品はオールオーバーの抽象画だが、それらが18点並ぶことにより、ある種の物語的起伏が感じられる。作者の西垣はまだ美大の大学院に在籍する新人だが、こんなインパクトたっぷりの個展を見せつけられると、今後の活躍を期待せずにはいられない。

2011/08/09(火)(小吹隆文)

[ジー ジー ジー ジー]グルーヴィジョンズ展

会期:2011/08/04~2011/08/27

ギンザ・グラフィック・ギャラリー[東京都]

重たいガラスの扉を開けて中に入ると、新しいシナベニヤの匂い。白い絵がプリントされたベニヤ板が床に並べられ、周囲の壁にも重ねて立てかけられている。誰もいない。しまった、まだ設営中だったか、とあわてて手元のチラシで日付を確認するとそんなことはない。もう始まっている。ギンザ・グラフィック・ギャラリーの個展は1階が実験的な新作、地階が過去の作品というパターンが通常であり、今回もこれがグルーヴィジョンズの新作だったのだ。1階はたまたま無人だったが、地下に下りると数人の観覧者がいた。
 地下のL字型の展示室の床には部屋の形に合わせたL字型のベニヤの台が設置され、彼らの作品が所狭しと並べられている。チャッピー以外にも、こんな仕事も、あんな仕事もグルーヴィジョンズだったのか。スポットライトの光が当てられたシナベニヤの島に作品が浮かび上がる。壁面にはなにもない。ベニヤの上、黒い太い輪郭線に囲まれた中に、作品や、モーショングラフィックを見せるiPadが配され、ベニヤに直接キャプションが付されている。一見無秩序に並べられているかのようにみえる作品群であるが、その配置は計算されたもの。自他数々の展覧会をディレクションしてきたグルーヴィジョンズ。この展覧会も彼ら自身の企画であり、これまでの仕事を紹介する作品展でありながらも、彼らの世界、彼らの仕事をプロモーションするための優れた新作なのである。[新川徳彦]

2011/08/09(火)(SYNK)

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ヨコハマトリエンナーレ2011

会期:2011/08/06~2011/11/06

横浜美術館、日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)、その他周辺地域[神奈川県]

4回目を迎えたヨコハマトリエンナーレ。最低だった前回とは対照的に、今回はなかなか見応えのある内容になっている。BankART Studio NYKの会場は全体的にまとまりを欠いた展示だったとはいえ、横浜美術館のほうは作品の内容と動線を綿密に計算した展示構成が成功していたように思う。妖怪コレクションを見せる「湯本豪一コレクション」は取って付けたような印象が否めなかったが、それでも石田徹也とポール・デルヴォーを「階段」でつなぐなど、意外な組み合わせは楽しい。とりわけ、強い印象を残したのが蔡佳葳(ツァイ・チャウエイ)、ライアン・ガンダー、そして荒木経惟だ。幼い子どもが大人の手を洗うだけの蔡のシンプルな映像作品と、球体をモチーフにしたリヴァーネ・ノイエンシュワンダーの映像インスタレーションは、それぞれ心に染み入るほど深い感動を呼ぶ。前者は守るべき子どもに守られているからなのか、後者は廃墟を彷徨うシャボン玉の映像が行き場のない魂を連想させるからなのか。きわめつけが最後に展示された荒木で、さまざまな色が混合する美しい夕暮れの写真や愛猫チロが衰えてゆく写真は、人生の黄昏はおろか、人類の終わりをも暗示させる構成になっている。今回のヨコトリのテーマは震災に焦点を絞っているわけではないが、展覧会の来場者の眼には否応なく震災の影が落ちているから、そのように情動的に鑑賞してしまうのかもしれない。けれども、かりにそうだとしても、私たちの心を大きく揺さぶる展覧会であることにちがいはない。毒にも薬にもならないような無難な国際展が数多いなか、今回のヨコトリは川俣正がディレクターを務めた2005年に並ぶ国際展として大いに評価できると思う。

2011/08/10(水)(福住廉)

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橋本典久の世界 虫めがね∞地球儀

会期:2011/06/10~2011/08/11

GALLERY A4[東京都]

「パノラマボール」で知られる橋本典久の個展。日常風景を撮影した写真を球体に張り合わせた立体作品《Panorama Ball[パノラマボール]》のほか、昆虫を生きたままスキャンして人間以上のサイズまで拡大した写真作品《超高解像度人間大昆虫写真》、6本のLEDアレイを高速で回転することでパノラマボールを動画化した《Panorama Ball Vision[パノラマボールビジョン]》などを発表した。いずれもハイテクノロジーを駆使したメディアアートといえるが、それらが技術に耽溺した凡百のメディアアートと異なっているのは、そこにきわめて原初的な「視たい欲望」が一貫しているからだ。巨大で精緻な昆虫写真にあるのは、小さな昆虫の肢体に目を凝らす子どもの執拗な視線であるし、パノラマボールにあるのは、視線の対象を四角いフレームによって再現することへの徹底的な違和感である。その結果、つくり出された作品が私たちの視線に軽い衝撃を与えることは事実だが、その一方で、それが必ずしも人間の視線に馴染むわけではないところに大きな意味がある。私たちがほんとうに驚くのは、四角いフレームと平面がこれほど人間にとって自然化されているという事実である。

2011/08/11(木)(福住廉)

皇帝の愛したガラス

会期:2011/07/14~2011/09/25

東京都庭園美術館[東京都]

エルミタージュ美術館に収蔵されているヨーロッパ・ガラス工芸の優品190点を展示する。コレクションは15世紀ヴェネツィアの作品から始まり、ボヘミア、イギリス、スペイン、フランス、ロシアなど各地の製品を網羅し、ヨーロッパにおけるガラス工芸の歴史を俯瞰する構成になっている。ヴェネツィアやフランスのガラス工芸を見る機会は多いが、今回の展覧会ではロシア帝室ガラス工場(1777年創設、1792年国有化)の作品を含め、これまで日本では体系的に紹介されることがなかったロシアのガラス芸術を見ることができる。充実したコレクションであり、サントリー美術館の「あこがれのヴェネチア・グラス」展(2011年8月10日~10月10日)と併せて見ると、ヨーロッパにおけるガラス工芸の発展をより深く知ることができると思う。
 実用的な形態をもつ出品作がほとんどのなかで、異彩を放っていたのはガラスのモザイク画である。19世紀初頭のミラノと、1820~30年代にロシアで制作された作品が出品されているが、とくにミラノのものは、油彩画と見間違えるほどの表現を微小なガラス片の組み合わせによってつくりあげた驚異的な作品である。
ロシアの王族や貴族たちは古くからヨーロッパのガラス工芸を収集してきたが、エルミタージュ美術館にガラス工芸が収蔵されるようになったのはようやく19世紀後半になってからのことだ。その後ロシア革命によって貴族たちの旧蔵品がエルミタージュに集められた一方で、新しい作品のコレクションは一時的に停止。ガレやドームなど20世紀初頭におけるガラス工芸のコレクションが充実したのは、1970年代以降のことだという。このような背景を考えると、コレクションは作品が生み出された時代の価値観によってではなく、後代の芸術観を基盤に形成されたと考えてよいのであろうか。
 東京都庭園美術館は、この展覧会のあと建物公開(東京都庭園美術館建物公開「アール・デコの館」、2011年10月6日~10月31日)を経て11月から長期改修工事に入る。旧朝香宮邸を転用したこの美術館は小さな展示室が多く、混雑しているときには作品を見づらいこともあったが、今回のガラス工芸のように展示作品によってはアール・デコ様式の内装が他の美術館にはないすばらしい効果を発揮していた。改修の詳細は未定とのことであるが、リニューアル後も引き続きこの場所で優れた工芸品を見ることができれば嬉しい。[新川徳彦]

2011/08/11(木)(SYNK)

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2011年09月01日号の
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