artscapeレビュー

2011年09月15日号のレビュー/プレビュー

長者町まちなかアート発展計画

会期:2011/07/23~2011/08/21

市川商店[愛知県]

あいちトリエンナーレ2010では街なか展開として、名古屋駅と栄の中間にある長者町が注目されたが、そのときは使われなかった市川商店が、今年の夏は石田達郎の作品を展示しつつ、インフォメーションセンターとして活躍している(一方、昨年の舞台となった建物が駐車場になったり、再開発されている物件もあった)。そしてトリエンナーレを契機としたメンバーが、こうした活動を支えている。

2011/08/12(金)(五十嵐太郎)

瀧本幹也「LAND SPACE」

会期:2011/07/16~2011/08/28

MA2 Gallery[東京都]

瀧本幹也の爽やかで意欲的な展示だ。2009年から5回にわたって撮影したというフロリダ・ケネディ宇宙センターのスペースシャトルのシリーズには、「宇宙少年」の夢が結晶している。5キロ以内に近づくのは禁止されているため、音に反応してリモートコントロールでシャッターを切る装置を使って、発射台から500メートルの地点から打ち上げの様子を連続的に撮影しているのだという。スペースシャトル計画が終焉を迎えた今、記念碑的なシリーズになるのではないだろうか。ぜひアメリカでの展示を実現してもらいたいものだ。
ただ、ノイズをすべてカットして、ピカピカのロケットや建築物、発射台の内部などに焦点を絞った作品の選択は微妙なところだろう。もう少し宇宙に挑む人間たちの生々しい営みも見てみたい気がした。完璧な“絵”をめざすあまり、瀧本自身の立ち位置も含めて、宇宙計画を推進する過程につきまとう、どちらかといえば子どもっぽい欲望や衝動の部分が見えにくくなっている。広告を中心として仕事をしてきた写真家にありがちな「小綺麗にまとめてしまう」弱点が出てしまったようにも感じる。
2階のスペースに展示されていた「LAND」のシリーズにも同じようなことを感じた。フレームが凝っていて、左右に内側を照らし出すLED照明が組みこまれている。面白いアイディアなのだが、白っぽい光が強過ぎてむしろ画面が見えにくくなってしまった。そもそも「SPACE」と「LAND」という組み合わせにあまり必然性がないのではないか。スペースシャトルから見た地球の“皮膚”の眺めを、標本のように提示するということなのだろうが、やや理に落ち過ぎた嫌いがある。二つのシリーズは切り離して見せた方がよいのではないかと思った。
なおLOUIS VUITTON六本木ヒルズ店でも、同時期に瀧本の新作展「LOUIS VUITTON FOREST」(7月29日~8月31日)が開催された。やはり「まとめ過ぎ」という感はあるが、こちらも時間をかけた意欲作である。

2011/08/13(土)(飯沢耕太郎)

佐久島アート・ピクニック2011

会期:2011/04/23~2012/03/31

佐久島[愛知県]

晴天のハイシーズンだったために、海水浴を楽しむ客でいっぱいの佐久島行きの船は座る場所もない。派手さに欠けるが、木村崇人やみかんぐみなど、10年前から島のあちこちにアートを導入している。越後妻有と同じくらい古く、瀬戸内国際芸術祭よりも断然早い。建築家の南川祐輝による2つの白黒フォリーは、フォルマリズム的な形態ながら、ねそべったり、ポーズをとったりなどのアクティビティを誘発する興味深いデザインである。

上:南川祐輝《イーストハウス》
下:南川祐輝《おひるねハウス》

2011/08/13(土)(五十嵐太郎)

夏休み企画展「sweet memory──おとぎ話の王子でも」

会期:2011/07/20~2011/09/11

京都芸術センター[京都府]

甘いもの・お菓子をテーマに、謝琳、河地貢士、林智子、瓜生祐子ら4名の作家が紹介された。教会や聖堂などの建物を思わせる真っ白な砂糖の塔が立ち並ぶ謝琳のインスタレーション、果物の盛り合わせやスイーツを自然の風景に見立て繊細な線と色彩で表現した瓜生のタブロー、市販の駄菓子を素材にした河地の小さなカービング、そして、参加者を募り、小さな瓶に採取したそれぞれの涙(本物)をまるでアクセサリーのように砂糖菓子の“こはく”に閉じ込め、美しく作品化した林智子のプロジェクト。林のこの作品には参加者各々の思い出のエピソードやメッセージが書かれたカードも一緒に展示されていた。甘さという味覚から引き出されるさまざまな記憶、ものごとの関係にアプローチする今展、日常的な視点から表現を展開する作家たちの作品には、全体的に甘さという儚い幸福感が漂っており美しいものが多かったが、謝琳と林の作品にはさらに快感というその強力なイメージから連想が広がる要素があり、それもまた興味深く思った。

2011/08/13(土)(酒井千穂)

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『コクリコ坂から』

会期:2011/07/16

全国東宝系[全国]

なんでこの作品を映画化したのか、疑問に思っていたが、漫画版とかなり違うことに驚かされる。いや、だからこそ映画として成立したと言えるだろう。建築がもうひとつの登場人物になっていたが、その描写も正確だ。ただし、木島安史がリノベーションした孤風院を想起させる建物「カルチエラタン」は、『千と千尋の神隠し』における湯屋のような存在に変容している。原作にはまったくない、学生による明治建築の保存運動が面白い。とはいえ、過去をノスタルジーで美化する『always』の嫌らしさもない。映画に描かれるカルチエの雰囲気は、かつて二年間を過ごした東大駒場寮に残っていた。懐かしい。

2011/08/14(日)(五十嵐太郎)

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