artscapeレビュー

2011年10月01日号のレビュー/プレビュー

中島麦 悲しいほどお天気

会期:2011/09/09~2011/10/10

Gallery OUT of PLACE[奈良県]

風景から着想した色鮮やかな抽象画で知られる中島麦。今回は画廊壁面に巨大な壁画を描くとともに、画廊壁面と同じ形(五角形)の小品を大量に展示した。壁画は未完成の状態で中断しており、最終日のライブペインティングで完成させる。また、会場には中島が今夏に東北地方を訪れた際に撮影したスチール写真をつなげた映像作品も展示されていた。そのなかには大震災の被災地の情景も含まれており、今回の個展を象徴する家型のフォルムも、ひょっとしたらその時の経験が影響しているのかもしれない。

2011/09/11(日)(小吹隆文)

9・11新宿原発やめろデモ!!!!!

会期:2011/09/11

新宿一帯[東京都]

3月11日からちょうど半年にあたる日に行なわれた脱原発デモ。新宿駅の周囲を反時計回りに周回するコースをおよそ1万人あまりが歩いた。前回の銀座・新橋に引き続き、警察による警備は過剰で大仰だったが、結果的にデモの参加者を12名も逮捕するという異常な事態を招いてしまった。私たちの目の前で、デモ参加者の手足を家畜のように持ち運んだ私服警官の姿は、それが「警備」という名を借りた「弾圧」であることを如実に物語っていた。デモの最後に新宿アルタ前で開かれる恒例の集会では、柄谷行人をはじめとする知識人や政治家、音楽家などが次々と発言したが、飛び抜けてすばらしかったのが、いとうせいこう×DUB MASTER X。原発の廃炉を訴えるポエトリー・リーディングによって、無粋な警察のせいで沈みかけた空気を鮮やかに盛り上げてみせた。「廃炉せよ! 廃炉せよ! 廃炉せよ!」と叫ぶいとうせいこうの言葉は、もちろん原発の廃炉を要求するメッセージだが、音楽的なリズムとともにその鋭い声が空間に何度も反響し、聴衆が熱を帯びて高揚してくると、次第に「ハイロセヨハイロセヨハイロセヨ!」とまるで念仏のように聞こえてきたから不思議だ。「ナムアミダブツナムアミダブツナムアミダブツ」と誰もが口にできるように、いとうせいこうは脱原発を願う者であれば誰もが念じることができる詩的な言葉を生み出そうとしたのではないだろうか。いまのところ、3.11以後の世界を生きるためのもっともすぐれた文化表現だと思う。

2011/09/11(日)(福住廉)

岡本信治郎 展「空襲25時」

会期:2011/08/09~2011/09/19

渋谷区立松濤美術館[東京都]

美術家・岡本信治郎の個展。1933年生まれで、60年代の反芸術の現場にも立ち会っていた画家だから回顧展というかたちでも展覧会は十分に成立するはずだが、近年盛んに取り組んでいる戦争絵画《空襲25時》のシリーズを一挙に展示したところに、画家としての気骨を大いに感じさせる好企画だ。その《空襲25時》は、情感を退けた機械的な線と鮮やかな色面によって構成された大作だが、随所に文字や記号をふんだんに取り入れているため、全体的な印象としてはタブローというより曼荼羅や絵図に近く、「見る快楽」より「読む楽しさ」が勝っているところに大きな特徴がある。事実、正直に言って、もっとも強く印象に残ったのは、展示には含まれていなかったが、会場に置かれたファイルに収録された絵本だった。癌を告知された娘と共同で制作された絵本に、岡本は絵を提供しているが、物語と組み合わさることで、その絵は自立した絵画の状態よりいっそう生き生きとしているように見えた。美術館や美術大学のなかにいまだに蔓延っているモダニズム絵画論とは別のところに絵の可能性が宿っていることを高らかに宣言する展覧会である。

2011/09/11(日)(福住廉)

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加賀城健 展

会期:2011/09/13~2011/09/25

ギャラリー揺[京都府]

染色工芸では失敗とされるブレやボケをあえて生かしたり、ドローイング、ペインティング、コラージュといった技法を大胆に導入して独自の染色作品を模索している加賀城健。今回は市販のテントを流用し、新たに張った布地にペインティングの要領で染めを施した作品と、伸子張りの情景からインスパイアされた作品を発表。どちらもピンと張った布地の美しさを強調した表現で、どれほど作品がアート寄りになっても、彼の出自が染色だと分かる内容となっている。また、加賀城とテントの関係は、彼が子どもの頃に景品で当たったテントを室内に張って遊んでいたことに由来するそうで、個人的な記憶をダイレクトに反映した作品を出品したのも本展の特徴である。

2011/09/13(火)(小吹隆文)

引込線 所沢ビエンナーレ2011

会期:2011/08/27~2011/09/18

所沢市生涯学習推進センター、旧所沢市立第2学校給食センター[埼玉県]

3回目を迎えた「引込線」。会場をこれまでの西武鉄道旧所沢車両工場から所沢市生涯学習センターと旧所沢市第2学校給食センターに移し、参加作家の選考も実行委員会による合議制から4人の美術家(伊藤誠、海老塚耕一、遠藤利克、岡崎乾二郎)による責任選考制に切り替えられた。そして、何より「文化庁主催事業」というお墨付きが加えられたところに、今回のもっとも大きな特徴がある。ただし、この展覧会がこれまでそうだったように、今回も作品の質より空間の魅力が際立っており、とりわけ給食センターはそれ自体が見事な造形美を誇っていた。その反面、生涯学習センターの会場は体育館の茫洋とした空間に作品が埋没していたが、同会場内のプールに設置された遠藤利克の作品だけは、例外的にその場と調和していたように見えた。プールの広い空に打ち立てられた黒い木枠のインスタレーション。それは焼け野原に残された廃墟のようでもあり、遠景に垣間見える集合住宅の未来像を予見しているようでもある。3.11以後という第二の戦後を迎えた今、未来と過去を同時に幻視させる、きわめて霊性の強いインスタレーションである。

2011/09/13(火)(福住廉)

2011年10月01日号の
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