2018年04月15日号
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artscapeレビュー

2011年10月01日号のレビュー/プレビュー

The Search 2 Feel the Paper

会期:2011/07/11~2011/08/12

見本帖本店[東京都]

花束のためのパッケージ(柿弓子)、山を描き、記録するためのノート(鯉沼恵一)、小さな四角いドットをくり抜いてオリジナルの模様をつくることができるポチ袋(甲田さやか)、紙の破れを楽しむカレンダー(小玉文)、イニシャルの入った紙の小箱(小比類巻蘭)、革細工のような立体感のあるしおり(佐々木未来)、組み立て式の照明器具(下田健斗)、エンボス加工と箔を用いて表現した昆虫がプリントされたレターセット(徳田祐子)、紙の厚みとざらつきを生かし、めくる楽しさを内包した絵本(中村聡)。9人の若手デザイナーたちが、紙、印刷、加工技術を用いて新しい表現を試みる。
 デザイナーの感性を技術や素材によってサポートする試みとしては、凸版印刷のグラフィックトライアルとも似ているが、グラフィックトライアルに参加するデザイナーが第一線で活躍するベテランであるのに対して、こちらは若手デザイナーが対象である。そして、グラフィックトライアルが技術的な制約を超えた新たな可能性を目指しているのに対して、ここでは技術の可能性と制約の双方を知ることに目的があるようだ。制約の最大のものはコストのようで、制作をサポートした技術者のコメントのなかでも、その部分が印象に残った。紙の加工には製品ごとに型が必要であり、複雑なパターンや種類の増加は、そのままコストに反映するのだ。この企画自体にも予算的な制約があったようだが、現実的な商品をつくることを考えれば、コストによる制約は避けて通ることができない問題である。
 チャールズ・イームズは、デザインにおける問題解決にあたって「デザイナーは出来る限り多くの制約を認識する能力を備えるべきだし、それらの制約に喜んで、また熱意をもって当たる」べきであると述べている。すなわち、デザインの評価にとっては、問題解決の程度ばかりではなく、デザイナーが制約にどのように取り組んだのかも重要な要素となる。デザイン展の多くが結果としての作品を見る場であるのに対して、ここでは発想の段階から素材や技術の選択、問題とその解決まで、制作過程のすべてが記録されている。デザイナーにとってはもちろんのこと、制作をサポートする側にとっても、デザインを消費する側にとってもその意義は大きい。[新川徳彦]

2011/08/09(火)(SYNK)

@KCUAサマーワークショップ2011と「COLORS OF KCUA2011」展

会期:2011/08/13~2011/08/21

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]

1990年代以降、日本の美術館は教育普及活動に力を入れるようになり、いまではギャラリートークやワークショップという言葉がすっかり定着した。しかし、その親しみやすい印象とは裏腹に、このふたつほど高度な知識と手法が求められる美術館事業もないだろう。とくに子どもを対象としたワークショップは、ともすればたんなる工作教室に陥りかねず、美術館の事業ならではの意義が失われてしまいがちだ。8月21日に京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAで美術家・中村潤(なかむらめぐ)が行なったワークショップ「Topping T-shirt Party」は、そうしたジレンマに果敢に挑戦するような例として印象に残った。
 小学生など8名が参加した同ワークショップは、スポンジや台所シンク用のすのこなど、身の回りのものを用いて、無地のTシャツを装飾するというもの。彩色用のスプレーのほか、数字を模ったカラフルなアイロンシートや、手作りの小さなぬいぐるみも装飾パーツとして用意されている。しかし、このワークショップが特異なのは、参加者がそれらの装飾物を自分の思うままに選んだり、配置したりできないよう定めていることだ。どの道具やパーツを使い、Tシャツのどこにそれを配置するかはすべて、くじ引きで決まる。「数字くじ」で「5」を引き、「場所くじ」で「肩」をひいた参加者は、5の数字をTシャツの肩に貼りつけないといけない。スプレーも「数字くじ」の番号で使える色が決まる。
 つまり、子どもたちは、「くじ」で決まる偶然性を楽しみつつ、その制約のなかで創造力を発揮することが意図されている。当の子どもたちは知らずとも、彼ら彼女らはシュルレアリスムの作家たちが抱いたような意識の流れを疑似体験することになったろう。日用品の使用は無論、ファウンド・オブジェの美術に目を開かせる。中村が「孔あきシール」をステンシルとして使う方法を説明した際、子どもたちの顔がぱっと輝いた。このような現代美術の制作心理をなぞるようなワークショップは、筆者の知る限り、1990年代中葉のイギリスで始まった。中村はそうした先例を認識せずに企画したと思われるが、それが偶然にもイギリスの美術館教育研究の成果に近しいものとなったのは、彼女自身がトイレットペーパーを編む、という、表現の本質を感性的かつ論理的にとらえようとする作家であるからに違いない。
 同日、ギャラリー@KCUAでは「COLORS OF KCUA2011」展も開催されていた。これは、京都市立芸術大学芸術学研究室の学生が出品作家を選抜するという試みであり、未来の評論家や学芸員による若い視点から選ばれた十数名の作家が採り上げられていた。ここでは、デザインの視点から國政聡志のインスタレーションを紹介したい。國政の作品2点はどちらも梱包用のビニールの結束を多数集めてつくった構築物だが、一つひとつの結束がポリロン染料によってさまざまな色に染められており、透ける色彩がじつに美しい。ビニール結束を美しいと感じる人は案外多いのではないかと思うが、天井を覆う《realize》は、そんな結束たちがやっと自分たちを輝かせる場を勝ち得たようにキラキラと跳ね回っていた。アンチモダン・デザインの精神を無意識に受け継ぎつつも、高度な技術を駆使した造形美がそうした先達の精神を凌駕せんとするところに、現代的な、ささやかな崇高性の模索の存在が感じられた。[橋本啓子]


左=ワークショップ風景。撮影=中本愛来/右=國政聡志《realize》

2011/08/21(日)(SYNK)

名和晃平─シンセシス

会期:2011/06/11~2011/08/28

東京都現代美術館[東京都]

是が非でも見ておかねばと思っていた展覧会に、会期末直前に滑り込みで間に合った。本展絡みで作家本人に取材をしていたので、制作中の作品を見ていたし、展覧会の概要も知っていた。しかし、頭で思い描くのと生で見るのとでは大違いだ。こちらのイメージを楽々と上回るスケールの大きな展示に、文字通り圧倒された。個々の作品はもちろんだが、彼の場合、展覧会全体のパッケージングが非常に優れている。起伏を持った展示で観客を飽きさせず、最後までフレッシュな感動を保ち続けるのだ。特に、空間ごとに繊細な味付けを施した照明の見事さは特筆ものだ。

2011/08/26(金)(小吹隆文)

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鈴木省三 展 天空が近づく

会期:2011/08/25~2011/08/27

The Artcomplex Center Tokyo[東京都]

画家、鈴木省三の個展。100号ほどの大きな抽象画20点あまりをずらりと並べ、あわせていくつかの小品も一挙に展示した会場には、抽象画ならではの緊張感と迫力がみなぎっていた。発表されたのは、色彩が乱舞する背景の上に黒く太い直線を構築した絵画。黄緑色の曲線が浮遊感のある柔らかな運動性を、黒い直線が激しく上昇する運動性をそれぞれ別々の水準で感じさせているため、見る者の視線は画面の隅々まで異なるリズムで誘導される。抽象画とはじつに音楽的な絵画であることを改めて感じさせる展覧会だ。

2011/08/27(土)(福住廉)

ジパング展 31人の気鋭作家が切り拓く、現代日本のアートシーン。

会期:2011/08/31~2011/09/12

大阪髙島屋7Fグランドホール[大阪府]

東京展での大々的なメディア露出や観客動員の話題が伝わり、関西でも注目が高まっていた「ジパング展」。もちろん、これが日本の現代アートのすべてではないが、仕掛人の三潴末雄(ミヅマアートギャラリー)と井村優三(イムラアートギャラリー)の現代アート観は、はっきり伝わった。関西の美術ファンとしては、日頃なかなか見られない首都圏の作家に数多く出会えたことも大きな収穫だ。本展はこの後京都に巡回するが、来年には国内の美術館数館でも開催が決定したそうだ。将来的にはアジアでの展開も視野に入れているらしいので、その動向には今後も注意を払う必要があるだろう。

2011/08/31(水)(小吹隆文)

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