2018年06月15日号
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artscapeレビュー

2011年10月15日号のレビュー/プレビュー

松山賢「絵の具の絵」

会期:2011/08/24~2011/09/05

新宿高島屋10階美術画廊[東京都]

これはおもしろい。今月のベスト1。って9月はまだこれしか見てないけど、メダルはほぼ確実だ。文字どおり「絵の具」を描いている。白い皿に赤とか青とか黄色とかの絵具を出してていねいに描写し、背景も同じ色に塗っている。それだけなのだが、この絵のおもしろいところは、たとえばウルトラマリンブルーの絵具を描くとき、素人ならウルトラマリンブルー一色で描けると思いがちだが、もちろんそんなはずはなく、陰影や立体感を出すにはさまざまな色を使わなければいけないこと。つまり「青色」と青色の「絵の具」は別のものだということがわかるのだ。さらにこの絵が正方形の分厚いキャンヴァスに原寸大で描かれているため、だまし絵の効果が倍増すること。とくに真上から描いた作品(壁掛けではなく卓上に水平に置く)にそれが顕著だ。作者によれば「抽象画でも具象画でも、画面に何が描かれているかではなく、何色がどのような形でどのように描かれているかというように見えます。赤い色の面は、赤い色の絵具が塗られたものにすぎないのです」。絶対音感ならぬ「絶対色感」ともいうべき感覚を持った画家ならではの言葉だ。ほかに、小動物の頭蓋骨やミイラ、ミニカーなどを原寸大で描いた小品に、昆虫と少女の組み合わせという松山ならではのモチーフもある。さらに奥のほうには虹色で同心円を描いた3点の連作があって、松山にしては乱暴なタッチなので一瞬なんだろうと首をひねったらわかった。画面下の空白部分が東北地方を横倒しにした白地図になっていて、同心円が震源地からの波(振動波や津波)の伝播を表しているのだ。うーむ松山画伯ともあろうお方までもが大災害に心を痛めておられるとは。いやけっこうモチーフが広がったと内心ほくそ笑んでおられるかも。

2011/09/01(木)(村田真)

谷敦志「ポップでフェティッシュな日常が今日もダラダラ続く!」

会期:2011/08/27~2011/09/05

ポスターハリスギャラリー[東京都]

大阪出身の谷敦志は、今どきむしろ絶滅種に近いフェティッシュ=エロティシズム系の写真家。『BURST』『夜想』『トーキングヘッズ』などの雑誌を舞台に、耽美的で危ない写真作品を発表し続けてきた。近年は音楽や演劇関係のジャケットやポスターの仕事も精力的にこなしており、コアなファンも多い。
今回の展覧会のタイトルが、彼の現在の心境をよく示していると思う。「ポップでフェティッシュな日常が今日もダラダラ続く!」。自分でも「B’zの歌詞みたい」といっていたが、半ばやけくそでこのうっとうしい時代を突っ走っていきたいという気概と覚悟が感じられる。たしかに以前のエロスのダークサイドのうごめきを探り当てようとしていた作品と比較すると、今回のシリーズには「ポップでフェティッシュな」気分が強調されている。大阪人らしく、こてこての笑いを取ろうという意欲も感じられる。
とはいえ、ラテックス製のチューブを巻きつけた奇妙な衣裳に身を包み、どぎついメーキャップを施され、ぎくしゃくしたマネキン人形のようなポーズをとらされている人物たちから透けてくるのは、どす黒い血の匂いであり、時代の暗部をぎりぎりまで抉り続けようとする姿勢にはまったく揺らぎがない。この「Coolでおバカで大丈夫な写真たち」が、ふたたびまったりと弛緩しつつある震災後の日常に、非日常的な裂け目を入れ続けることを期待したい。さらに走り続けていくと、もっととんでもない写真の世界が見えてきそうな予感もする。

2011/09/01(木)(飯沢耕太郎)

齋藤亮一「佳き日」

会期:2011/08/27~2011/09/06

コニカミノルタプラザ ギャラリーC[東京都]

齋藤亮一はこれまでバルカン半島、中央アジア、キューバ、インドなど、世界中を旅して写真を撮り続けてきた。あまり目的のある旅ではなく、人々や風景との偶然の出会いを、精度の高いスナップショットの技術で写し止めていく。写真展の開催や写真集の刊行もコンスタントに積み上げており、優しく温かみのあるその作品世界は完成の域に達している。だが逆にここ数年、どこか吹っ切れない思いが強まっていたのではないかと想像できる。真面目な作家だけに、これから先どのように写真を撮り続けていくのかという悩みもあったのではないだろうか。その答えが、今回の展示で完全に出たとは言い切れない。だが、壁にカラーピンで無造作に留められた写真を眺めているうちに、齋藤が何かを みかけているように思えてきた。
今回のシリーズ「佳き日」のテーマになっているのは、「日本の各地に脈々と受け継がれてきた『はれ』の日」の情景である。青森県の八戸えんぶりから香川県の中山農村歌舞伎まで、全国の祭りや民間行事を丹念に撮影している。日常生活のなかに押し込められていた「佳きエネルギー」が爆発するようなそれらの写真を包み込むように、「はれ」の日のなかの「はれ」の日というべきお花見の場面が並ぶ。それを見ると、咲き誇る桜の花が、やはりどこか心をワクワクさせるような不思議な力を秘めていることがよくわかる。これらの写真を通じて齋藤が確認しようとしているのは、やや月並みな言い方になってしまうが、日本人の感性のルーツ1だろう。世界中を回遊する日々の果てに、もう一度写真家としての原点に回帰したいという思いに至ったのではないだろうか。
人々の晴れやかな笑顔を見ていると、これらの写真の持つ意味がやはり震災後に切実なものに変わってしまったと感じざるをえない。かまくら(秋田県)、みちのく芸能祭り(岩手県)など、東北地方で撮影された写真が多かったので、そう感じたのかもしれない。この時期だからこそ発表したかったという齋藤の気持ちが伝わってきた。なお写真展にあわせて、手にとりやすい同名の写真集もパイインターナショナルから刊行された。

2011/09/01(木)(飯沢耕太郎)

山本基 しろきもりへ─現世の杜・常世の杜─

会期:2011/07/30~2012/03/11

箱根彫刻の森美術館[神奈川県]

彫刻の森美術館の山本基「しろきもりへ」展を訪れる。彫刻家の井上武吉が設計した建築の各部屋において、枯山水風のランドスケープ、螺旋塔、床をおおう数ミリの高さの樹木的な文様(もっとも低い彫刻)と、異なる塩の粗さによる作品群が展開していた。偶然らしいが、来年の3.11までが会期であり、最終日に集めた塩を海に返すという。久しぶりに彫刻の森美術館を散策すると、1960年代生まれの建築家がいろいろなプロジェクトに参加している。一昨年に完成した手塚建築研究所による《ネットの森》、デッキや橋などによる動線計画のほか、クライン・ダイサム・アーキテクツによる目玉焼きのオブジェ(ベンチ)、みかんぐみのタルディッツによる企画展示の空間構成などである。

2011/09/01(木)(五十嵐太郎)

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辰野登恵子 展「抽象──明日への問いかけ」

会期:2011/08/23~2011/10/16

資生堂ギャラリー[東京都]

出品作品は20点もあるけれど、油彩は4点だけで、あとは版画(リトグラフ)。そういえば辰野が70年代にデビューしたときは、ストライプやグリッドによるミニマルなシルクスクリーン作品だったっけ。なんで版画なのかよくわからなかったけど、80年ごろから抽象表現主義的なタブローに移行してからは、「これが絵画なんだ」と妙に納得したもんだ。だからなんでまた版画に力を入れるのか理解に苦しむ。だいたい彼女の抽象的なイメージをモノクロ版画で刷ったところで、タブローを何十倍も薄めたくらいにしか感じられないし。まあタブローの引き立て役というのならわかるけど、まさかね。

2011/09/02(金)(村田真)

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