artscapeレビュー

2011年12月15日号のレビュー/プレビュー

ゴヤ──光と影

会期:2011/10/22~2012/01/29

国立西洋美術館[東京都]

地下2階の企画展示室に入ると、さらに下のギャラリーへと導かれる。「光と影」の画家ゴヤにふさわしい趣向だ。この奈落の底で晩年の自画像と初期のタペストリー原画を見てから再び地下2階に戻るのだが、その後は版画と素描がずらりと並び、油彩は数えるほどしかない。もちろん《着衣のマハ》や、ゴヤ特有の浮遊する人物を描いた《魔女たちの飛翔》、筆のタッチも生々しい《ガスパール・メルチョール・デ・ホベリャーノスの肖像》をはじめとする肖像画群も見られたが、出品作品123点のうち油彩が約5分の1の25点というのは少なすぎないか。とくに後半はほとんど版画と素描に占められていてウンザリする。もちろん版画も素描も重要だけど、それらは暗い照明の下で歩きながら見るより、家で画集を見ればいいのだ。大々的に40年ぶりの「ゴヤ展」を謳うなら、もっと油彩画を借りてきてほしかったなあ。だいたい「プラド美術館所蔵」と銘打ちながら西洋美術館の版画が45点も出てるのだから、ありがたみが薄い。長崎県美術館と東京富士美術館からの各3点を加えれば50点以上が国内の所蔵品だ。40年前に同じ西洋美術館で見たときは、まだ企画展示室はおろか新館もできておらず、ル・コルビュジエ設計の本館しかなかった。それでも着脱2点のマハをはじめ油彩39点が来ていた。ハコは飛躍的に拡充したのに、肝心の作品が保険金高騰もあって来れないのではどうしようもない。今回の大震災と原発事故でますます海外から作品の貸し出しが難しくなるだろうなあ。

2011/11/04(金)(村田真)

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彫刻の時間──継承と展開

会期:2011/10/07~2011/11/06

東京藝術大学大学美術館[東京都]

芸大のコレクションを中心とした彫刻の企画展。三つの展示室を、飛鳥から江戸時代までのおもに木彫、明治から昭和前期までの近代彫刻、そして芸大教官たちによる現代作品に分けている。いちばん古いのが7世紀後半の木造と銅造による仏像で、そのうち《菩薩立像》は重要文化財。芸大らしいのが、足下以外は芯だけしか残ってない《興福寺十大弟子像心木》で、これは鑑賞のためではなく保存修復の教育用のコレクションだろうが、その不在感・欠落感が現代の抽象彫刻を思わせる。「近代」の入口には平櫛田中による岡倉天心像《五浦釣人》が立っているが、なんと背中向き。なるほど背中には抽象的な波模様が彫られていて、それ自体が鑑賞に値する彫刻と見ることができる。日本の近代彫刻というと地味という先入観があるが、じつはこのセクションがいちばんおもしろい。「木のナマズ」というより「ナマズの木」と呼びたい高村光太郎の《鯰》、鹿の骨で小さな骸骨を彫った旭玉山の《人体骨格》、工芸(人形)と彫刻のあいだを行ったり来たりしているように見える平櫛田中の一連の木彫など、興味深い作例が多いが、圧巻は橋本平八。様式化された人体の表面に花柄模様を彫った《花園に遊ぶ天女》、石の塊を木で彫った《石に就いて》(ひとまわり小さい原石つき)など、古代エジプトから現代のコンセプチュアルアートまで古今東西の彫刻史すべてを包含するような驚くべき仕事であった。ところが現代になると、素材もテーマも技法も多様化し、彫刻をめぐる問題も拡散してしまったかのようでつまらなくなる。近代彫刻の問題を、サブタイトルにあるように「継承」「展開」しているのは、原真一と森淳一くらいではないか。

2011/11/04(金)(村田真)

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311 失われた街 展

会期:2011/11/02~2011/12/24

TOTOギャラリー・間[東京都]

ギャラリー間の「失われた街」展。かつての被災地である神戸の大学に勤める槻橋修から震災直後に提唱された、3.11以前の街の様子を表わした白模型群が並ぶ。ほとんどのエリアを踏破したので、自ら体験した被災後の風景と比べながら見る。会場は大勢の学生でにぎわっていたが、逆に現地を訪れていないとどう見えるのだろうか。模型は区切られるので、複雑な地形の起伏は思ったほどには伝わらない。やはり、「街」を表現しているスケール感だった。白模型は地元とのワークショップの際、重要なツールになるだろう。

2011/11/05(土)(五十嵐太郎)

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POST 3.11 これからデザインにできること展

会期:2011/10/26~2011/11/06

AXISギャラリー[東京都]

建築、プロダクト、教育など、タイトル通りの内容だが、あいにく会場におけるトークの最中で、半分くらいの展示はちゃんと見ることができなかった。そのせいもあるかもしれないが、多くの事例からなぜこれらを選んだのかというキュレーションの意図が読みにくい。もっとも、阪神淡路大震災の後、建築やアートがどのような対応をしたかについての、詳細かつ長期的なクロニクルのデータ展示は興味深いものだった。東日本大震災についても、こうした観測が必要だろう。

2011/11/05(土)(五十嵐太郎)

磯崎新「過程│PROCESS」展

会期:2011/09/09~2011/11/12

MISA SHIN GALLERY[東京都]

幸い、会期が延長されたおかげで、磯崎新「過程」展を見ることができた。1960年代に発表した孵化過程のインスタレーション、ドローイングとテキストの展示である。針金ぐるぐる、石膏ぶっかけの再制作は、昨年の「海市2.0」など、最近各地で続いたが、ドローイングとセットになった宣言文、改めてカッコいい。

2011/11/05(土)(五十嵐太郎)

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