artscapeレビュー

2011年12月15日号のレビュー/プレビュー

テリーさんまたね展

会期:2011/11/12

Chap2[神奈川県]

びわこビエンナーレの準備のため1年ほど横浜を離れることになった包帯アーティスト(っていうのか?)、テリーこと寺田忍の壮行会を兼ねた1日だけの展示会とパフォーマンス。寺田自身の作品(木彫りの熊の片足に包帯を巻いた作品がよかった)のほか、藤原京子、椎橋良太、片桐美佳、まつながえみら、BankARTスタジオで知り合ったアーティストを中心とする展示。夜は寺田による「ヨコトリ2011感想パフォーマンス」が開かれた。3脚の椅子の上にほうき、時計、電話機が置かれている。白い包帯ドレスをまとった寺田が登場し、まずほうきを手にゆっくり歩きながら床を掃き、「ていうか、レレレのおじさんじゃねえんだよ!」とか叫んでほうきの柄を折る……。ヨコトリを見た者ならだれでもわかる、ポスターにもなったミルチャ・カントルのパフォーマンス映像をパロッたもの。時計はもちろんクリスチャン・マークレーの24時間映像のモチーフ、電話はオノ・ヨーコのインスタレーションに使われた作品アイテムで、それぞれ最後に「おもしろいけど長すぎるんだよ!」とか「ぜんぜんかかってこないじゃん!」とか悪態ついて破壊するという罵倒パフォーマンスだ。一部で大ウケしていたので、みんな似たような感想というか不満を抱いていたんだろう。王様は裸だと。

2011/11/12(土)(村田真)

「建築、アートがつくりだす新しい環境─これからの“感じ”」展

会期:2011/10/29~2012/01/15

東京都現代美術館[東京都]

ヴィム・ヴェンダースによる立体映像、金獅子賞のバーレーン、銀獅子賞のスタジオ・ムンバイなど、ヴェネツィアビエンナーレ国際建築展2010で紹介された多くの作品を展示していた。同じ長谷川祐子が両方の企画に関わっているからだろう。しかし、造船所跡のアルセナーレの赤茶けた空間においてカッコ良かった作品たちが、東京都現代美術館のホワイトキューブに持ち込まれ、規模や仕様が変更されると、相当のインパクトを失うのは残念だった。一方、屋外の平田晃久による制作パヴィリオンは、1/1の建築であり、実際の空間を楽しめる。

2011/11/13(日)(五十嵐太郎)

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池内晶子×鵜飼美紀

会期:2011/11/03~2011/11/27

ギャラリー21yo-j[東京都]

ギャラリーの目の高さに数千本の青い糸が張られ、一部は床すれすれに垂れている。その床には茶色いラテックスが固まっている。池内と鵜飼のコラボレーションだが、作品は糸とラテックス、青と茶色、空と地、線と面、動と静、軽と重……と非常に対照的な両者。しかも糸に目を凝らせばラテックスが邪魔をし、ラテックスを見ようとすれば糸が目障りになる。絶妙な組み合わせというほかない。見る側としては仲よしのコラボレーションより、このように静かに火花を散らすバトルが見たい。もちろん作品同士の話であって、作者同士がケンカしちゃダメよ。

2011/11/13(日)(村田真)

ぬぐ絵画──日本のヌード 1880-1945

会期:2011/11/15~2012/01/15

東京国立近代美術館[東京都]

裸体画ばかりを集めた展示。しかもその大半が女性ヌードというからソソられるが、そこに明治から第2次大戦前までの「日本・近代」という限定がつくことで、また別の興味がわく(興味をそがれる人もいるだろう)。どんな興味かというと、西欧との裸体観の違いについてであり、ワイセツ論争をはじめとする社会との軋轢に関してであり、また、時代による裸体描写の変化についてである。同展は黒田清輝、萬鉄五郎、熊谷守一らの裸体画を軸に、こうした興味に応えてくれる。とくに黒田に関しては《裸体婦人像》《智・感・情》《野辺》といった「日本のヌード」を語るうえで欠かせない作品が出ていて、満足度は高い。しかし萬の《裸体美人》以降は再現性より表現性に傾いていき、最後に熊谷の暗くて曖昧なヌードでフェイドアウトしてしまうのは、まあ時代がそうだったから仕方がないが、なにかハシゴをはずされた感じがしないでもない。この3人以外でも、おそらく日本人女性では初のラグーサ玉による裸体画や、五姓田義松のシュールな銭湯画、甲斐庄楠音の豊満すぎる日本画ヌードなど見どころは少なくない。企画したのは蔵屋美香氏。男視線のヌード観ではなく、かといって女性研究者にありがちなフェミニズムに走ることもなく、また学術的ドツボに陥る危険も回避し、質的にも量的にもきわめてバランスのとれた展示になっていた。あえていえば、バランスがよすぎて「ぬぐ」というタイトルから予感される逸脱感がなかったことがものたりないというか。

2011/11/14(月)(村田真)

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写真新世紀 東京展 2011

会期:2011/10/29~2011/11/20

東京都写真美術館 地下1F展示室[東京都]

2年前までは審査をしていたにもかかわらず、なぜか会場を歩いていて遠い距離感を感じてしまった。審査のシステムは同じだし、応募者数が極端に減ったわけでもないのだが、なんとなく会場全体に「過ぎ去ってしまった」という雰囲気が漂っているのだ。スタートが1991年だからもう20年が過ぎてしまったわけで、名前も含めて何かを大きく変えなければならない時期にきていることは間違いない。「やめてしまえ」とまで言うつもりもないが、続けることにあまり意味がなくなっているのではないだろうか。
今回の優秀賞は5名。赤鹿麻耶(椹木野衣選)、奥山由之(HIROMIX選)、木藤公紀(清水穣選)、パトリック・ツァイ(大森克己選)、山田真梨子(佐内正史選)である。そのなかでは、巨大なポートフォリオ・ブック作品「風を食べる」を出品した赤鹿麻耶のスケール感が際立っていた。背景に水、炎、煙などをセットアップして撮影したポートレートが中心だが、写真に勢いがある。関西大学で中国文化を学び、現在はビジュアルアーツ大阪の夜間部にいるというキャリアもなかなかユニークだ。もう一回り大きくなっていきそうな可能性を感じたのは彼女だけだった。グランプリを受賞したのも当然だと思う。「赤鹿」という名前もどこか神話的だ。新人がデビューしてくるとき、名前はけっこう重要なファクターになる。
いつもなら佳作に面白いメンバーが揃うのだが、今回はやや小粒に感じた。佳作作品のポートフォリオで印象に残ったのは、山本渉「線を引く」(大森克己選)、菊池佳奈「百色むすめ」(椹木野衣選)、加納俊輔「WARP TUNNEL」(清水穣選)、滝沢広「月の岩」(同)といったところだろうか。

2011/11/16(水)(飯沢耕太郎)

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