artscapeレビュー

2012年02月01日号のレビュー/プレビュー

プレビュー:作家ドラフト2012 潘逸舟「海の形」展/小沢裕子「ある小話」展

会期:2012/02/04~2012/02/26

京都芸術センター[京都府]

さまざまな分野で活躍する専門家を審査員に招き、若手美術家の発掘・支援を目的に行なう公募プログラム。今回は劇作家・小説家でチェルフィッチュ主宰の岡田利規を審査員に迎え、115件の応募のなかから選ばれた潘逸舟と小沢裕子の作品を展示する。2人の作品はともに「私」というかたちを再発見する試みだが、岡田いわく、「コンセプトが明瞭で説得力があるもの」と、「それがユーモアかどうかさえ果てしなく微妙な、その分魅了されずにはいられないセンス」の並置になるという。対照的な両者の競演から何が生み出されるかに注目が集まる。

2012/01/20(金)(小吹隆文)

京都・京町家ステイ・アートプロジェクト vol.1

会期:2012/01/21~2012/01/27

和泉屋町町家、筋屋町町家、石不動之町町家、美濃屋町町家[京都府]

京都の四条河原町に程近い4軒の町家を舞台に、畠中光享(絵画)、福本潮子(染色)、大西宏志(映像)、近藤高弘(陶芸)によるアートプロジェクトが実施された。単に町家に作品を並べる展覧会なら新味はないが、このプロジェクトでは4作家がそれぞれ1軒の町家を担当し、もてなしの空間をつくり上げたのが斬新だった。たとえば、福本潮子は家具や寝具などインテリアの一部としても作品を用いていたし、畠中は自作品と自身が蒐集したアンティークを持ち込んで細部まで心遣いが行き届いた空間を演出していた。会場の町家も元々のよさを保ったままリノベーションされており、伝統と現代を兼ね備えた高級和モダン住宅の趣。室内でくつろいでいると本当に贅沢な気持ちになり、上質な生活とは何かを体感することができた。なお、当プロジェクトは展示終了後も継続しており、現在は「アート町家ステイ'12」と題して1日1組の滞在を受け付けている(3/4まで)。もちろん4作家の展示状態のまま、である。

2012/01/22(日)(小吹隆文)

種子のデザイン──旅するかたち

会期:2011/12/01~2012/02/25

INAXギャラリー[東京都]

羽根や綿毛を利用して風に乗って運ばれる種子。水に流されて旅をしつつ、目的地では錨を降ろして根を張る種子。食べられたり、貯えられたり、ひっついたり、他の生物の習性を利用して移動する種子。自らは動くことができない植物が子孫を広範囲に確実に残していくためのさまざまな工夫は、最適な形となって現われる。本来ならば博物館で開催されるような内容であるが、機能と形との関係に着目することで優れた「デザイン」の実例を見せてくれる展覧会である。人間のつくりだすデザインと、自然のつくりだすデザインとの違いは、自然のデザインはとても合理的であるものの、目的の達成という点ではけっして歩留まりが良いわけではないという点があげられようか。適切な場を得ることができず発芽できないもの。外皮ばかりではなく種子まで動物に食べられ消化されてしまうもの、等々。多くの植物において、発芽し、根を張り、成長し、再び子孫を残すことができる種子の比率はとても少ない。もちろん、その歩留まりの悪さも全体的なシステムのなかに織り込まれているからこそ、長い歳月を生き延びてきたのである。人間のつくるデザインは自然からさまざまなメタファーを取り入れてきたが、はたしてこのようなシステムをも取り入れることは可能であろうか。[新川徳彦]

2012/01/24(火)(SYNK)

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佐々木睦 展 TOKYO LAYERS

会期:2012/01/20~2012/01/29

海岸通ギャラリー・CASO[大阪府]

吸い込まれるように上下動する無数の光の粒子。高層ビルの夜景をモチーフにした作品がDMに用いられており、その美しさに惹かれて画廊へと足を伸ばした。作家が在廊していたので質問したところ、それらは高層ビルのシースルーエレベーターに乗って移動しながら撮影したものであった。撮影には数十秒の露出時間を要するそうだが、その途中で何度かレンズを手でふさぎ、光を遮断しているという。人工美の極致のような情景をシャープなセンスで作り上げており、プリントの質感やパネル貼りの仕上げなど、細部にも抜かりがない。首都圏を拠点に活動している作家なので今後再会の機会があるのか定かではないが、もしチャンスがあれば見逃さないようにしたい。

2012/01/28(土)(小吹隆文)

プレビュー:京都市美術館コレクション展 第2期 模様をめぐって

会期:2012/01/27~2012/03/25

京都市美術館[京都府]

京都市美術館のコレクションを特定のテーマのもとに紹介する展覧会。今回のテーマは近現代の工芸における模様の展開を辿るものだ。言うまでもなく模様は、美術と工芸・デザインの差異を象徴するものにほかならず、それゆえ20世紀初頭の建築家アドルフ・ロースを筆頭とする装飾否定論の普及とともに、近代デザインから真っ先に排除された要素でもある。しかし、近年の工芸・デザインでは模様の復権の動きが明らかであり、その波はアートの世界にも及んでいる。西洋由来のアートの概念が日本に渡来した時期以降の工芸まで遡って、工芸における模様の位置づけの変遷を振り返る本展は、その意味で21世紀の視点から模様の意味をあらためて問い直す格好の機会になるだろう。伊藤翠壷、富本憲吉等、多数の巨匠作家の工芸作品を通じて、主題の意匠化、配置の仕方、技法等の観点から模様の歴史が描き出される。[橋本啓子]

図版キャプション=森野嘉光《染付草文色絵花瓶』(部分)1930年頃

2012/01/31(火)(SYNK)

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