artscapeレビュー

2012年04月01日号のレビュー/プレビュー

新鋭各賞受賞作家展「New Contemporaries」

会期:2012/03/03~2012/03/25

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]

京都市立芸術大学出身の若手画家のなかから、著名な公募展で受賞経験のある10作家をピックアップした企画展。彼ら彼女らの表現を通して、次代の絵画の在り方を問うている。本展のベースにあるのは、1990年代以降に流行した具象的傾向の絵画に対する失望である。では、次代の絵画とはどんなものなのか。本展では“イメージと表現素材が相互に、それらの在り方を問い直すようなかたちで、新しい表現を生み出している”ことをひとつの突破口と見なしていた。でも、それは絵画が普遍的に行なってきたことじゃないのか。自分なりに納得できる解答が得られるまで、この案件は宿題とさせてもらおう。

2012/03/03(土)(小吹隆文)

宮本佳明 展「福島第一原発神社~荒ぶる神を鎮める~」

会期:2012/03/05~2012/03/24

橘画廊[大阪府]

1996年のヴェネチア・ビエンナーレ建築展で阪神淡路大震災の瓦礫を用いたインスタレーションを発表し、金獅子賞を受賞(磯崎新らと共同受賞)した宮本佳明が、福島第一原発をテーマに過激な提案を行なった。その内容とは、原発建屋に巨大な和風屋根を載せ、神社として祀るというものだ。事故現場を廃炉解体して消し去るのではなく、むしろ危険を明示しアイコン化することで、安全な保管と記憶の継承に努めるのである。技術や予算面のリアリティはともかく、原子力を荒ぶる神と捉えて祀る心情は日本人の宗教観に合致している。この提案をどう受け止めるかは人それぞれだが、極めて難しいテーマに真正面から挑む宮本の姿勢は評価されるべきだと思う。

2012/03/05(月)(小吹隆文)

I'm so sleepy──どうにも眠くなる展覧会

会期:2012/03/02~2012/03/18

世田谷文化生活情報センター「生活工房」[東京都]

冬眠していた動物たちが目覚めるこの季節、3月第3週金曜日は世界睡眠医学協会が定めた「世界睡眠デー」なのだそうだ。今年から日本でも睡眠健康推進機構が春(3月18日)と秋(9月3日)にそれぞれ「睡眠の日」を設けた。良い睡眠は健康な生活に欠かすことができない。「睡眠の日」前後には、睡眠に関する正しい知識の普及と啓発を行なってゆくという。「I'm so sleepy──どうにも眠くなる展覧会」はそんな「眠り」をテーマにした展覧会である。3階ギャラリーのテーマは、動物たちの眠り。どんな生き物にも睡眠は欠かせないが、眠るということは無防備になることでもある。敵に襲われないようにするために、あるいは活動時間の違いによって、動物たちの眠りのかたちはさまざまである。たけむらまゆこのイラスト、さくまひろこの文章によるパネルは、絵本のようで楽しい。4階ワークショップルームのテーマは人の眠り。1日=24時間の天体の進行と、人、動物(ムササビ)、植物(カタバミ)の体内変化のリズムを立体的に表わした大きなモデル[図1]に圧倒される。周囲の解説シートでは、一般的な日本人が帰宅し、食事、入浴、睡眠、そして覚醒までに至る体内における変化と睡眠との関係がさらに詳細に解説される。そして夢。人はなぜ夢を見るのか。夢はどのような記憶から構成されているのか、夢の仕組みを解説する。展示の最後は、世界各地で用いられた眠りのための道具。干し草のベッド、木の枕、蚊帳、ハンモックなどをじっさいに体験できる。チラシには「もしも寝ちゃっても起こしません(閉館までは……)」とあったが、本当に寝てしまう人たちがたくさんいたそうだ。週末には、眠りをテーマにしたメニューを揃えたカフェも出張。「眠り」というカタチのないものをさまざまな側面から視覚化した展覧会。生活工房の企画も、会場構成を手掛けたセセン設計所の仕事もとてもすばらしい。[新川徳彦]


1──会場風景(体内変化のリズムを表わした模型)

2012/03/06(火)(SYNK)

松本健宏「正直な人 honesty」

会期:2012/03/06~2012/03/11

ぱるあーと[京都府]

柿渋や墨を用いたロウ染めの作品と、素朴な風合いの人形を出品。ロウ染めは柿渋を厚く塗り重ねることで絵具のような光沢の色面をつくり出しているのが特徴。模様ではなく絵を描いており、主題は彼のアトリエがある京都府綾部市の限界集落や山陰地方の流し雛など、日本の原風景である。また、人形は石塑粘土や藁と土で動物や神、神獣などを表現しており、ひなびた民芸品的な味わいがある。どちらも日本の土着的な美意識を濃密に宿しており、自身の深奥に潜む古層がよみがえるような感覚を味わった。

2012/03/06(火)(小吹隆文)

藤信知子 展「花への挑戦状」

会期:2012/03/06~2012/03/11

ギャラリー恵風[京都府]

ろくろで成形した胴体に、人形や仮面などから型を取ったパーツを大量に貼り付けた過剰装飾の陶器を出品。作品はすべて花器で、花にちなんだタイトルが付けられている。花器であるにもかかわらず、花の引き立て役を拒否しているかのような主張の強さが印象的だ。過剰装飾の陶器はさほど珍しくないが、彼女の場合、型を用いて均質なモチーフを反復的に用いる点が独特だ。今後本人と話す機会があれば、モチーフの意図や造形との関係について詳しく聞いてみたい。

2012/03/06(火)(小吹隆文)

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