artscapeレビュー

2012年04月15日号のレビュー/プレビュー

荒木経惟 写真集展 アラーキー

会期:2011/03/11~2012/07/22

IZU PHOTO MUSEUM[静岡県]

「3.11」に「写真集展」をぬけぬけとスタートさせるところが、いかにも荒木経惟らしい。タイトルが示すように、彼がこれまで刊行した写真集を中心とする著作450冊以上を一堂に会そうという破天荒な企画である。
僕は2006年に『荒木本!』(美術出版社)という本をまとめたことがある。荒木の全著作を解説つきで紹介したのだが、そのとき、1971年の「ゼロックス写真帖」シリーズから2005年に至る時期に出版された著作の数は357冊だった。それから6年余りで100冊ほど増えているわけで、これはやはり異常事態としかいいようがない。現時点において、またこれから先も、彼を超える生産量の写真家は絶対に現われてこないだろう。
実際に会場を見て、意外にすっきりと本が並んでいるのにむしろ驚いた。一番大きな壁に1冊ごとの小さな棚をつくって本を置き、その大部分は巨大なテーブルの上に並んでいて、手に取ってページをめくり、閲覧することができる。1980~90年代の名作がずらりと並んでいるのは壮観だし、最近はヨーロッパや台湾などで展覧会のカタログや翻訳本の出版が相次いでいるのもわかる。だが全体的には、本が整然と並んでいる印象が強いのだ。おそらく、杉本博司設計の美術館のスペースでは、荒木の事務所のように仕事と生活がごっちゃになったカオス的な雰囲気が感じられないのが、その大きな理由だろう。いっそのこと、美術館のスタッフが展示室をオフィスがわりに使ったりしていると、生活感が滲み出てきていいのではないかと思った。
著作のほかにも、「さっちんとマー坊」(1963)の巨大なポートフォリオの展示や「アラキネマ」全シリーズの上映、震災を全力投球で投げ返した新作の「‘11・3・11」シリーズの展示などもあり、盛りだくさんの内容だ。覚悟を決めて、朝から夕方まで部屋に詰めていれば、「荒木世界」にどっぷりと浸ることができるだろう。なお、関連企画として、6月10日(日)14:30~16:00に荒木と飯沢耕太郎との対談「『荒木本!』のマンダラ宇宙」が開催される。

2012/03/18(日)(飯沢耕太郎)

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せんだいスクール・オブ・デザイン 2011年度秋学期成果発表会|記念講演 (講師:原研哉)

会期:2012/03/20

せんだいメディアテーク1Fオープンスクエア[宮城県]

せんだいメディアテークにて、せんだいスクール・オブ・デザインの学外発表会が行なわれた。ゲストに招いた原研哉のレクチャーでは、日本デザインの特性や自作の紹介を語った後、デザインの力を通じて、被災した東北地方はむしろ大きな変革ができるチャンスになりうることを、慎重に言葉を選びながら問いかけていた。筆者が担当するメディア軸では、藤村龍至をゲストに迎え、震災とショッピングを特集した雑誌『S-meme』3号を制作した。今回も製本部の協力を得て、1号、2号に引き続き、特殊装幀の実験を試みている。表紙が地図を兼ねた大きなサイズになっており、これを畳んで、雑誌自体を包む。つまり、ショッピングというテーマにあわせて、ラッピングする表紙になっている。

2012/03/20(火)(五十嵐太郎)

宍戸清孝「Home」

会期:2012/03/20~2012/03/26

新宿ニコンサロン[東京都]

銀座ニコンサロン、新宿ニコンサロンを舞台に開催されてきた「Remembrance 3.11」の展示も最終回を迎えた。とてもよい企画だったのだが、前にも書いたように東北在住の写真家たちの写真展が少なかったのがやはり気になる。今回の宍戸清孝(仙台市在住)の展示を見て、あらためてその感を強くした。別に東京や他の地域から被災地に向かった写真家たちの仕事を軽視しているわけではない。誠実に、自分の視点で撮影に取り組んだ写真を、今回の企画でも数多く目にしてきた。だが、宍戸のような地元の写真家の仕事ぶりは、その厚みと生々しさにおいてやはり違いを感じないわけにはいかないのだ。
宍戸は仙台の事務所で被災し、4日後の3月15日に、アシスタントの菅井理恵(福島県出身)とともに初めて仙台湾岸の名取市閖上を撮影した。自衛隊員が遺体を毛布に丁寧に包んでいる様を見て、「胸がいっぱいになってしまい、カメラを持つ手が震えた」という。それからは、もう二度と被災地には行きたくないという気持ちと、「撮らなければ」という思いとの間で、ずっと長く葛藤が続いた。今回の「Home」展に展示された写真の一枚一枚に、その激しい心の揺らぎと、撮り続けていくなかで少しずつ芽生えてきた再生の兆しに託した希望とが刻みつけられている。まさに渾身の写真群であり、日系米軍兵士の戦後を追った「21世紀への帰還」など、長くドキュメンタリー写真の分野で活動してきた宍戸にとっても、この1年は覚悟を決めてひとつの壁を乗りこえていく大事な時期になったのではないだろうか。写真展にあわせて仙台市若林区の出版社から刊行された写真集『Home 美しい故郷よ』(プレスアート)も高精度の印刷、質の高いデザインの力作である。
なお、同時期に銀座ニコンサロンでは吉野正起「道路2011─岩手・宮城・福島─」(3月21日~27日)が開催された。震災後の「道路」を淡々と撮影したシリーズだが、福島県の農道を何気なく塞いでいる「立入禁止」の看板が、どうしても目に残ってしまう。

2012/03/21(水)(飯沢耕太郎)

国際交流基金巡回展「3.11ー東日本大震災の直後、建築家はどう対応したか」

会期:2012/03/06~2012/03/31

パリ日本文化会館[フランス・パリ]

レクチャーを行なうために、パリの日本文化会館でも開催された「3.11ー東日本大震災の直後、建築家はどう対応したか」展を訪れた。国際交流基金が企画した本展は、まったく同じものを2セット制作しており、それぞれが世界各地を巡回する予定である。日本文化会館では壁の面積に余裕があり、自立壁となるパネル用のイーゼルを使わず、1階のロビーと地下ホールのホワイエにまたがる展示になっていた。パリの来場者は、震災後に多くのプロジェクトが東北の各地で動き出していることに興味をもったようである。

2012/03/21(水)(五十嵐太郎)

アンヴァリッド(ホテル・デ・ザンヴァリッド)/軍事博物館

[フランス・パリ]

会場と近いので、久しぶりにアンヴァリッドに行く。ここは要塞都市のデザインで知られる技術者ヴォーバンの墓や彫像が置かれているが、フランス各地の要塞都市の模型群の展示は興味深い。美しい比例ではなく、合理主義と機能主義にもとづく幾何学的な造形は、マシーンとしての都市のようだ。軍事博物館は武器そのものが大量に展示されている。とくに近代以前の武器は、機能とシンボリズムが融合した「美術」にもなっており、ヘタな現代アートよりはるかに強度をもつ。多様な姿をもつオリジナルの数々は、『ベルセルク』の世界以上だ。しかし、近代になると、武器が機械に変貌していくこともよくわかる。

2012/03/21(水)(五十嵐太郎)

2012年04月15日号の
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