artscapeレビュー

2012年05月01日号のレビュー/プレビュー

八木修平「アクタラノバ」

会期:2012/03/31~2012/05/05

児玉画廊[京都府]

マスキングテープを貼ってはドローイングすることを何度も繰り返し、動的な線が何重にも寸断しながら重なる目まぐるしい画面の絵画をつくり出す八木修平の絵画。彼のテーマは陶酔感をビジュアライズすることだが、そのきらびやかで幻惑的な色面は、螺鈿細工のようでもある。新作は、ストロークの勢いがより増しており、不透明色の採用、ペインティングナイフで上層を削ぎ落とすなど、幾つかの新しい試みも見られた。若くしてすでに自分のスタイルを持つ八木修平だが、これら新機軸の発展次第では今後がらりと作風を変える可能性も否定できない。

2012/04/03(火)(小吹隆文)

津上みゆき展

会期:2012/04/03~2012/04/29

ギャラリーなかむら[京都府]

関西では久々の個展となった今回、彼女は現在制作中の新シリーズの一部を持ち込んだ。それは祖母が亡くなった日に出かけていた場所のスケッチを起点とするもので、毎月自分にとっての記念日に里山へ出かけ、そこで描いたスケッチをもとに作品を制作するのである。新シリーズは全13作品を予定しているが、本展ではすでに完成している6点を展覧。ほかにも大作絵画2点と大量の小品が持ち込まれた。実在する場所を描きながらも、情景と自身の感興が融合した境地を描き出す津上の絵画。その瑞々しい感性の表出を見て、久々に清々しい気持ちになった。

2012/04/03(火)(小吹隆文)

田嶋悦子 個展 Flowers

会期:2012/03/31~2012/04/21

イムラアートギャラリー京都[京都府]

植物のような有機的フォルムの陶と、モールド・キャストによる半透明のガラスを組み合わせたオブジェで知られる田嶋悦子。本展でも植物を連想させる作品が出品されたが、オブジェを単体で見せるのではなく、花の群生を模したインスタレーションとして展示していたのが斬新だった。黄色い花のようなオブジェが床と壁面に集合して並ぶ様は、まるで春の花畑のよう。今年の春は気温がなかなか上がらず桜の開花が遅れたが、本作を見た人の心には一足早く春が訪れたに違いない。

2012/04/03(火)(小吹隆文)

What's 電子書籍?──新しい読書の時間がやってきた

会期:2012/03/31~2012/05/27

印刷博物館P&Pギャラリー[東京都]

米国ではアマゾンがKindleを発売して可能性が拡がり、アップルのiPadによりその利用が一気に拡大した電子書籍であるが、日本ではようやく既存の出版社が重い腰を上げようとしている。事態がなかなか進展しない背景には著作権保護や流通形態の変革を巡る議論があるが、印刷会社にとっても大きな問題であろう。この展覧会は、読むという行為に焦点を当ててて、印刷媒体と電子書籍のそれぞれの特性と相異を来場者に体験してもらおうという試みである。
 展示は、電子書籍の過去、現在、未来に分かれている。電子書籍はけっして新しい存在ではなく、PCの普及とともに、モニタ上でテキストを読むという行為は一般化してゆく。「過去」のコーナーには、Macintosh Plusや、PC上でテキストを読むためのソフトウェア「T-Time」、各社の電子手帳、携帯電話、草創期の電子ブックなどが展示され、機器の小型化、軽量化の歴史を追う。「現在」のコーナーでは、書籍、新聞、雑誌、写真集、辞書、図鑑、コミック等々について、印刷媒体と電子媒体で同じコンテンツが並べられており、実際にタブレットやスマートフォンを操作して、現時点での両者の違いを徹底的に比較できる。そして「未来」では、電子ペーパーなどの新しい技術や、読書体験の共有などのコミュニケーションにおける革新の可能性が示唆される。
 印刷媒体と電子書籍の比較という視点は、凸版印刷が運営する印刷博物館P&Pギャラリーの企画ならではのものであると思う。展示を見て改めて印象に残ったのは、小説や辞書、写真集、雑誌など、コンテンツの性格により、同じ印刷媒体といえども構造が異なり、電子媒体との親和性も異なっているという点である。私見では、もっとも早く電子化が進んだコンテンツは辞書。専用端末が先行し、オンライン版がそれに続いているので昨今の電子書籍の展開とはやや文脈が異なるが、検索性という点で電子媒体との親和性が高い。また今回の展示にはなかったが、検索の利便性もあって電子化が進んでいるもうひとつの分野は、マニュアルである。分厚い紙のマニュアルがなくなり、ソフトウエアのパッケージは劇的にコンパクトになった。逆に、電子書籍への移行がよく見えないのがファッション誌などの雑誌である。展示されていたコンテンツはいずれも誌面をそのまま変換したもので、タブレットでは読めるが、スマートフォンの小さな画面で見ることは困難である(そもそも対応していないものもある)。情報伝達という側面では、今後ウェブ記事のようなスタイルに変わるのかもしれないが、そうなると写真やイラスト、縦組み・横組みのテキストを自在に駆使した神業のようなレイアウトは、失われていくことになろう。
 すでに辞書の世界ではブリタニカ百科事典が書籍版の廃止を表明している。経済的には、印刷媒体と電子書籍を両立させていくことは困難なのだ。紙の書籍がすべて消えてしまうことはないと思うが、木版、活版同様、私たちは印刷そのものが「伝統工芸化」する様を目撃しているのかもしれない。[新川徳彦]

2012/04/04(水)(SYNK)

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松本マニコ個展 あたまの中の庭

会期:2012/04/04~2012/04/15

iTohen[大阪府]

複数のぬいぐるみ、人形、造花などを合体させて、可愛さとグロテスクさが同居する造形をつくり出している。アクリルボックス内に閉じた世界をつくり出すジオラマ型の作品もあった。マイク・ケリーや工藤哲巳を持ち出すまでもなく、この手の造形は決して目新しいものではない。しかし、この人の場合は下手に背伸びせず伸び伸びと制作に励んでいるところが気持ちいい。その素直さと、丁寧な仕上げに好感を持った。

2012/04/05(木)(小吹隆文)

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