artscapeレビュー

2012年05月15日号のレビュー/プレビュー

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト ドン・ジョヴァンニ

新国立劇場[東京都]

会期:2012/04/19,22,24,27,29
筆者が芸術監督を務める、あいちトリエンナーレ2013のオペラ『蝶々夫人』の演出をお願いしている田尾下哲(東京大学の建築出身)が、アサガロフ演出『ドン・ジョヴァンニ』の再演の演出を担当している。ここでは物語の舞台をヴェネチアに設定し、やはり建築的なセットを楽しめる(ヴェネチアだと、二幕の森や墓はなさそうだが、言うまでもなく、オペラの舞台とは、そうしたリアル描写が目的ではない)。粗筋だけをたどると、希代のプレイボーイが地獄に堕ちるというベタな勧善懲悪にも見えるが、モーツァルトの音楽とメインキャストたちの歌と演技によって、別の意味や奥行きが与えられるのが『ドン・ジョヴァンニ』の面白いところ。長い歴史があるだけに、パフォーミング・アーツとして完成されている。終演後、バックステージツアーに参加することができた。オーケストラ・ピットの解説を聞いたり、国内で最大級の四面舞台の上を歩くのはもちろん、いま見たばかりのステージ・セットを間近に見学できるのは、なんとも贅沢な体験である。熱心にさまざまなエピソードや苦労話を伝える舞台監督の斉藤美穂の解説も、とてもおもしろいものだった。

2012/04/22(日)(五十嵐太郎)

「8/」オープニングパーティー

会期:2012/04/23

渋谷ヒカリエ8階[東京都]

渋谷東口の東急文化会館跡にオープンするヒカリエの8階は、クリエイティブフロア8/(ハチと読むらしい)。小山登美夫ギャラリーやd47ミュージアムなどが入居し、アートやデザインに力を入れるのはいいんだけど、なにかこの匂い以前にも嗅いだことあるような。六本木のアクシスとか、渋谷西武のロフトとか。いずれも華々しくオープンしたものの先細りしていった気がする。まあ末永く発展されんことを祈るばかりだ。で、小山さんちでは第1弾として、ダミアン・ハーストの「ニュースポットプリンツ」を展示。色違いの円が整然と並んだ版画で、先ごろそのペインティングが世界8都市にあるガゴシアンギャラリー計11軒で同時開催され話題になったばかり。版画とはいえ高いだろうなあと思ったら、小さいものなら買えない値段ではなかった。買わないけどね。

2012/04/23(月)(村田真)

安部泰輔──ヒヨリモノ

会期:2012/04/27~2012/06/03

日和アートセンター[宮城県]

東北新幹線で仙台に出て、高速バスで石巻へ。駅前で自転車を借りて海岸沿いのガレキの山を見ていく。あたりまえだが、写真で見るのとは違って匂いも音もする。夕方、被災した市街地の空き店舗を改装した日和(ひより)アートセンターへ。ここは横浜市の黄金町との文化芸術交流の拠点としてこの3月にオープンしたばかりの施設で、アーティスト・イン・レジデンスを軸に展覧会やワークショップを開いている。この日は、古着をリサイクルした作品で知られる安部泰輔が滞在・制作した成果を発表する初日。ギャラリー内に数本の柱を立て、刺繍した古着を貼りつけている。安部は横浜で何度も会っているが、ここのスタッフも黄金町から移り住んだ人だった。被災地でアートになにができるかを問うより、アートを媒介に人が動くという潜在力に賭けた確信犯的なプロジェクト。

2012/04/26(木)(村田真)

井上家 Exhibition Vol.2

会期:2012/04/26~2012/06/26

さらさ花遊小路[京都府]

京都市内にあるカフェでの展示。はじめは展覧会タイトルだと思っていた「井上家」はアーティストのユニット名だった。会場では会えなかったのだが「井上家」は夫婦で作品制作を行なっているようだ。店内の壁にずらりと大きな絵画作品が並んでいた。モチーフはシマウマや、カメレオン、クジャクなどすべて動物。金を背景にした画面に散りばめたようなとりどりの色彩、動物の描写がどれも美しく、近づいてみると意外にもとても細やかに描いているのにも気づき驚いた。二人の作業の役割はどのように分かれているのだろう。作品も素敵だったが制作法も気になるアーティスト。


展示作品

2012/04/26(木)(酒井千穂)

近代日本洋画の開拓者──高橋由一

会期:2012/04/28~2012/06/24

東京藝術大学大学美術館[東京都]

朝一で石巻から上野の「高橋由一展」内覧会に直行。そういえば由一展て栃木とか香川では見てきたけど、東京では初めてかもしれない。この由一という名は本名ではなく維新後に名乗ったもので、ぼくはてっきり「油(絵)」から採った名だと思っていたが、チラシを見たら「画」のなかに「由一」が含まれていることが明示され、なるほどと思った。「油画」を縦書きにすると「由一」が2回も出てくるわけだ。展示は「油画以前」「人物画・歴史画」「名所風景画」「静物画」「東北風景画」の5章立て。この構成を見て国立新美術館の「セザンヌ展」を思い出した。どちらも人物、風景、静物を分け隔てなく描いてるし。ところで由一とセザンヌがほぼ同時代人だって知ってた? 出品作品は初期の博物画から代表作の《花魁》、3点そろえた《鮭》、晩年の《岩倉具視像》や《西周像》、劇画チックな歴史画、浮世絵の構図にヒントを得た風景画、愚直で不気味な《甲冑図》や《桜花図》など計132点で、ほかに原田直次郎による由一像や、由一の油絵の師チャールズ・ワーグマンの作品など関連資料も豊富に出ていて充実している(が、展示替えがあるらしく、ぼくの好きな《豆腐》が見られなかったのは残念)。ホイッスラーを彷彿させる《月下隅田川》や、火焔を描いた2点の「鵜飼図」などの夜景図も目を惹く。いかに浮世絵や狩野派を油絵に変えるか、いかに日本画や写真と差別化するか、いかに日本社会に西洋画を定着させるか、いかに油絵で食っていくかなど、さまざまな問題を抱えた由一像が浮かび上がってくる。

2012/04/27(金)(村田真)

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