artscapeレビュー

2012年06月15日号のレビュー/プレビュー

中平卓馬『サーキュレーション──日付、場所、行為』

発行所:オシリス

発行日:2012年4月26日

中平卓馬は1971年9月24日~11月にパリ郊外のヴァンセンヌ植物園で開催されたパリ青年ビエンナーレ(正式名称はパリ・ビエンナーレだが、出品作家が20歳~35歳までという制限があるので「青年ビエンナーレ」と表記される)に参加した。出品作の「サーキュレーション──日付、場所、行為(Circulation: Date, Place, Events)」は、いかにも中平らしい過激なコンセプトに貫かれていた。毎日、パリ市内でアトランダムに撮影したスナップショットを、その日のうちに現像・プリントし、そのまま会場の壁に貼り付けていったのだ。雑誌やポスターの画像の複写を含む、都市の雑多な断片的なイメージを増殖させ、写真を作品として完結させていこうという営みに真っ向から異議を唱えるアナーキーな試みだったのだが、印画紙が指定されたスペースからはみ出して床にまで広がり、他の作品まで侵食し始めたことで、ビエンナーレ事務局からクレームがつく。結局、中平は会期終了日の2日前に、事務局の干渉に抗議して会場から全作品を撤去した。
今回オシリスから刊行された『サーキュレーション──日付、場所、行為』は、中平がパリで撮影した35ミリモノクローム・フィルム、約980カットと、現存する48枚のプリントから、パリ青年ビエンナーレの展示作品を再構成した写真集である。35ミリネガからのプリントは金村修が担当した。40年後の現在においては、ベストに近い編集、造本、レイアウトであり、当時の熱っぽい雰囲気がヴィヴィッドに伝わってくる。中平が1970年代の初頭に展開していた、写真を「行為」として捉え直そうという志向は、デジタル化が全面的に浸透した現在の状況において、もう一度問い返されるべきだと思う。『サーキュレーション──日付、場所、行為』は、「思考のための挑発的資料」としての意義と輝きを失ってはいない。

2012/05/03(木)(飯沢耕太郎)

フランク・O・ゲーリー《ウォルト・ディズニー・コンサートホール》ほか

[アメリカ ロサンゼルス]

UCLAでレクチャーを行なうため、ロサンゼルスを13年ぶりに訪れ、新しい建築を見学した。前回はまだ建設中だったフランク・ゲーリーのコンサートホールは完成し、その独特の造形から、ここでも都市のランドマークとなっている。ビルバオ、ヴィトラのミュージアムなど、各地の様式はどれも同じように見えるが、これは外構をランドスケープのように、上下に歩きまわれるのがおもしろい。またコンサートホールの近くには、要塞のような外観だが、内部は明るく開放的なラファエル・モネオによる大聖堂、オブジェ的な造形が目立つコープ・ヒンメルブラウの高校なども新しく登場している。磯崎新のMOCAの向かいには、ディラー+スコフィディオらによる現代美術館も建設中だった。このエリアが文化的な建築によって再開発が進行していることがうかがえる。

写真:上=ホセ・ラファエル・モネオ《聖母マリア・カテドラル(天使のマリア大聖堂)》、下=コープ・ヒンメルブラウ《ビジュアル&パフォーミング・アーツ、セントラル・ロサンジェルス第9高校》

2012/05/04(金)(五十嵐太郎)

モーフォシス《カリフォルニア州交通局(カルトラン)第7本部》ほか

[アメリカ ロサンゼルス カルバーシティ]

モーフォシスの交通局ビルは、環境を制御する二重皮膜とハイテク風の造形を特徴とし、大胆さと知性を兼ね備えたデザインである。カルバーシティでは、エリック・オーウェン・モスの建築群を見る。学生のときに雑誌で知って訪れたかったものだ。このエリアに彼の作品が多いのは知っていたが、同じ開発業者が彼に依頼していることもあり、本当に集中していることに改めて驚かされた。モスの街である。ディコンストラクティビズムからも影響を受けた擬似リノベーション的手法やポストモダン的な造形は、とても懐かしい。現在流行っているデザインも20年後、このように思われるのだろうか。

写真:上=モーフォシス《カリフォルニア州交通局第7本部》、下=エリック・オーウェン・モス

2012/05/04(金)(五十嵐太郎)

リチャード・マイヤー《ゲティ・センター美術館》

[アメリカ ロサンゼルス]

二度目のゲッティ・センターへ。やはりリチャード・マイヤーによる階段は空間の見せ場だし、安心感のあるモダンなスタイルは固定化されているとはいえ、群体でこれだけの規模をまとめあげ、なお美術館としても性能にあまり不具合がなさそうなのは、さすがだ。もっとも、展示が変化し続ける現代美術が含まれていないので、空間の仕様を決めやすいのかもしれないが。ディズニーランドがポストモダンのテーマパークなら、ゲッティ・センターはモダニズムのユートピア、あるいはアートのテーマパークだろう。同じゲッティの施設でも、ヴィラがローマを模範としているならば、センターは丘の上のアクロポリスでギリシアといえる。ちなみに、直島の安藤建築群は現代アートで、同じような展開をしているが、島に分散配置しているところが大きく違う。

2012/05/05(土)(五十嵐太郎)

HERB RITTS L.A.STYLE

会期:2012/04/03~2012/08/26

Getty Center west Pavilion[アメリカ ロサンゼルス]

アート風の作品で知られている写真家、ハーブ・リッツの企画展を開催していた。芸術を商業とこう混ぜると成功できるという模範例のようなスタイル。が、こうしてまとめてみると、モデルが尋常じゃない。有名人だらけだし、彼らの身体もすごい。素材にも恵まれていたということか。しかし、本当にゲッティの底力を感じるのは企画展示よりも、常設である。中世、近世、近代の西洋美術のコレクションもそろえ、各時代の家具や装飾などは、展示室ごと、同時代の様式でインテリアのデザインをつくっている。新規購入では、建築家シンケルによるオペラ「魔笛」の舞台美術の図案を収録した画集、ピラネージ、ファイニンガーなどを展示していた。しかも、これらがすべて無料で観覧できる。

2012/05/05(土)(五十嵐太郎)

2012年06月15日号の
artscapeレビュー