artscapeレビュー

2012年07月01日号のレビュー/プレビュー

金井和歌子 展「もう何もわからない」

会期:2012/06/09~2012/06/14

ギャラリー島田deux[兵庫県]

おとぎ話にでも登場しそうな可愛いキャラクターたちが繰り広げるシュールな世界を、陶オブジェで表現。金井はオブジェと器を並行して制作しており、オブジェの個展は2年ごとに行なっている。可愛さのなかにどこか残酷さを秘めた造形には独自の美学が感じられ、特に女性からの支持が高そうである。また本展では、巨大な作品タイトルを作品の隣に貼り、言葉と造形の結び付きを強めたり(しかも、PCからのプリントをもとに手書きするという凝りよう)、作品の設計図やスケッチを展示するという新しい試みも見られた。彼女の制作のベースには絶望の感情があるらしいが、私にはその絶望が何かまではわからなかった。しかし、作品が魅力的なのは確かなので、今後も個展を見続けたいと思う。

2012/06/09(土)(小吹隆文)

やまもとひさよ写真展「大川さん」

会期:2012/06/11~2012/06/16

Port Gallery T[大阪府]

出品作品はすべてサービス判の紙焼き。安価なフォトフレームに収められた作品は、一部が破かれる、焼かれる、折り曲げて全体が見えないなど、ノーマルなものは1枚もない。ここでタイトルの「大川さん」が気になり始める。作家と大川さんは恋愛関係だったのか? いや、そもそも大川さんは実在するのだろうか? と。現実とフィクションの狭間を戯れるには、写真が最も適したメディアであろう。しかも、折り曲げたり焼いたりするのはデータでは不可能だ。本展は、紙焼き写真でしか実現しえない表現領域がまだまだあることを知らしめてくれた。

2012/06/11(月)(小吹隆文)

川端紘一 展

会期:2012/06/12~2012/06/23

ギャラリー16[京都府]

京都・舞鶴の浜辺で採集した海砂を何度もふるいにかけて細かい粒子にし、展示室内に美しい円錐形の小山を出現させた。砂は約3トンも用いているという。山の稜線は非常に美しいが、中に土台や芯を設けると決してこのような形にはならないそうだ。時間の経過とともに稜線の一部が崩れていたが、その崩落の跡すらも美しかった。また、成形には送風機を用いるが、その副産物としてふもと部分に風紋が発生する。この風紋が山の稜線に負けず劣らずの美しさであった。作品は個展の終了とともにもとの砂に戻る。そのはかなさも本作の魅力であろう。

2012/06/12(火)(小吹隆文)

河明求(ハ・ミョング)展

会期:2012/06/12~2012/06/17

ギャラリーマロニエ[京都府]

作家は、京都市立芸術大学大学院に留学中の韓国人である。本作は来日後に始めた新シリーズで、作品の表面がビロードのように毛羽立った質感を持っているのが特徴だ。この独特の質感はワイヤーブラシで表面を叩くことで得られるが、粘土の乾燥具合に大きく左右されるらしく、タイミングの見極めが難しいと言っていた。また、全体の形は最初に球体をつくり、途中で一部を歪ませるのだが、焼成後にひびや割れが入りやすいのが悩みらしい。このように技術的な問題を孕んだ新作ではあるが、確固たるオリジナリティがあるのは間違いない。今後の展開がとても楽しみだ。

2012/06/12(火)(小吹隆文)

五反田団『宮本武蔵』

会期:2012/06/08~2012/06/17

三鷹市芸術文化センター 星のホール[東京都]

「剣豪演劇」と自称する五反田団の新作は時代劇。しかし、派手な殺陣が披露されるわけではなく、主人公が宮本武蔵であるにもかかわらず、五反田団らしいいつもの日常的情景が描かれた。山の湯治場、3部屋だけの宿に集う男たち女たち。作・演出の前田司郎演じる宮本は、その宿のなかで、自分が誉れ高い存在であることを隠そうとしない。この「誉れ高い存在」という自意識が芝居を牽引する。威張ったり、照れたり、すがったり、自意識はあれやこれやの芝居を宮本に演じさせる。だが周囲の者たちは、宮本がそう思い込んでいるように彼を尊敬するわけではない。宮本の勘違いが導く滑稽さ、情けなさ。そこにフォーカスするのが前田らしい。そもそもメディアが発達していない時代のこと。目の前の人が伝説の人物かを客観的に確かめることは難しい。宮本は孤独な剣士であるばかりか、孤独な演技者となって、この世に浮遊し続ける。「この宮本、中学生みたいだな」などと思わされる、前田お得意のコミカルな人間像は、そのまま喜劇として楽しんでも十分味わいがあるのだけれど、人間というものが生来有している自意識の姿そのものをそこに見るような気がして、人間というものが情けなくまた愛しく思えてくる。そういえば2006年の『さようなら僕の小さな名声』も「名声」をめぐる作品だった。自らの名声を誉れ高き人間にふさわしく他人に譲るという話で、前田自身が本人役で出演していた。本作は、人間の自意識の姿を描くこうした作品の系譜に属すものといえるかもしれない。

2012/06/13(水)(木村覚)

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