artscapeレビュー

2012年08月01日号のレビュー/プレビュー

リアル・ジャパネスク 世界の中の日本現代美術

会期:2012/07/10~2012/09/30

国立国際美術館[大阪府]

泉太郎、大野智史、貴志真生也、佐藤克久、五月女哲平、竹川宣彰、竹﨑和征、南川史門、和田真由子という、1970~80年代生まれの若手作家9名をピックアップして、日本の現代美術の一断面を提示している。プレスリリースによると、彼らを選んだ背景には、欧米美術の行き詰まりに伴う価値観の多様化、1960年代生まれの美術家の仕事の超克、美術情報の氾濫という課題認識があり、それに対して、欧米追従や日本趣味への回帰、ショーアップした展示という安易な方向性を取らずに独自路線を歩む作家を選んだとのこと。つまり、1990年代末から2000年代にかけての美術動向に対するアンチテーゼを多分に含む企画展なのだ。正直、本展に対する私の態度はまだ決まっていない。ただし、泉、貴志、和田以外の作家は初見だったので、新鮮な気持ちで臨めたのは確かである。また、国立国際美術館で近年に行なわれた日本の現代美術展はすべて担当学芸員が異なるので、彼らの顔を思い浮かべながら企画趣旨の差異を楽しんだ。とにかく本展にはもう一度出かけて、自分なりに気持ちの整理をつけねばなるまい。

2012/07/09(月)(小吹隆文)

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黒田征太郎の73回目の夏の自由画展

会期:2012/07/09~2012/07/21

番画廊[大阪府]

イラストレーターの黒田は、1990年代のニューヨーク在住の頃からアトリエの机をクラフト紙で養生し、絵を描いたりメモを記していた。本展ではそれらクラフト紙の上に新たにペインティングを加えた作品「自由画」10点を展示した。作品の印象は、「みずみずしい」の一言。奔放なイマジネーションが縦横無尽に展開されており、彼が今年で73歳ということが信じられない。正直言って最近は黒田の存在を忘れがちだったが、このオッサンまだまだ侮れんなと、思いを新たにした。

2012/07/09(月)(小吹隆文)

コドモノクニ展

会期:2012/06/30~2012/09/02

多摩美術大学美術館[東京都]

『コドモノクニ』は1922(大正11)年1月に創刊し、1944(昭和19)年3月の終刊までの23年間に287冊を刊行した月刊の絵雑誌である。同時代の子ども向け絵雑誌としては『子供の友』(1913年創刊)『キンダーブック』(1927年創刊)があるが、それらの中でも、『コドモノクニ』は、大判厚手紙、オフセット5色刷、オールカラーという、他の絵雑誌とは一線を画する体裁であった。『コドモノクニ』を舞台に活躍した童画家たちには、岡本帰一、武井武雄、本田庄太郎、初山滋、村山知義、東山新吉(魁夷)らがいる。これまでにこうした画家やその作品を取り上げた展覧会は幾度も開催されているが、今回の展覧会は主に『コドモノクニ』の編集者・鷹見久太郎(1875-1945)の仕事に焦点を当てる。
 鷹見久太郎は国木田独歩が創設した独歩社を引き継ぎ、1907(明治40)年に東京社を創業する。東京社では、独歩社から引き継いだ『婦人画報』とともに『少女画報』『皇族画報』などの出版を手掛けた。その鷹見の編集方針は極めて理想主義的なものであったようである。「氏は曰う……編輯の理想と販賣の現実とは曾て握手をしたことがない。理想を没した多賣主義の編集方針なら販賣に好都合だらうが、天下の婦人はそれがために堕落し、好奇と挑發にのみ打興するであらう、さらば操觚者の無責任を如何にすると」★1。「販売の現実」という点でいうと、残念ながら鷹見にはその才能はなかったようだ。1924(大正13)年にマネジメントを仕切っていた島田義三が没した後、東京社は経営難に陥り、1931(昭和6)年に事業を武侠社の柳沼沢介に譲渡する。東京社を離れた鷹見は1933(昭和8)年に子供之天地社を設立し、絵雑誌『コドモノテンチ』を創刊したが長くは続かず、1934年には休刊している。鷹見が離れたあとも『コドモノクニ』は同様の体裁で刊行を継続できたことを見れば、彼の思想が受け入れられなかった訳ではなく、鷹見を支える優れたマネージャーがいれば、彼の仕事もさらに広がりを見せたであろうと残念に思う。
 しかし、鷹見が播いた種は確実に育った。工業デザイナー秋岡芳夫(1920-1997)は、小学校を卒業したあとまでも『コドモノクニ』を愛読していたという。「とくに、初山滋はぼくの人生を左右した。後にぼくは、初山滋のような人間になりたくて、その門をたたき、三十代から四十代の半ばまでは、童画や子どもの本の挿絵を描くことになった」★2。エディトリアル・デザイナー堀内誠一(1932-1987)もまた、幼年時代に『コドモノクニ』に親しんだと述べている★3。彼らが直接的に影響を受けたのは作家や童画家の作品からである。しかしそれらの作品が成立した背景には、フルカラーの絵雑誌という媒体を用意し、画家たちに自由な表現の場を与え、他誌と比べて破格の稿料を支払った編集者・鷹見久太郎の仕事があってこそのものであったということは覚えておかなければならないだろう。[新川徳彦]

★1──『読売新聞』1926(大正15)年6月10日。
★2──秋岡芳夫(工業デザイナー)「思い出の一冊」(『朝日新聞』1989年6月28日)。
★3──堀内誠一『父の時代・私の時代──わがエディトリアルデザイン史』(マガジンハウス、2007)、20頁。

2012/07/09(月)(SYNK)

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東明 展「groundwork」

会期:2012/07/10~2012/07/22

アートスペース虹[京都府]

ビニールシートや布地などでつくられたパラシュート型オブジェと、ブルーシートを何層も折り畳んで、どこをカットしてもハニカム構造が出現するシート状の作品、空気を孕むと半球状に膨らむ一辺約1.2メートル四方の作品を出品。パラシュート型の作品は空中に投げると空気を孕んで円錐形や動物の姿になり、着地後もしばらくは形態を留め続ける。玩具のような面白さがあり、大人げなく何度も投げて遊んでしまった。素材や構造への関心が深く、プロダクト的な側面も持つのがこれらの作品の特徴だ。それだけに今後の展開次第ではアートの枠を超えた広がりをつくり出せるかもしれない。

2012/07/10(火)(小吹隆文)

KATAGAMI Style

会期:2012/07/07~2012/08/19

京都国立近代美術館[京都府]

会期:2012/07/07~2012/08/19
会場:京都国立近代美術館
地域:京都府
サイト:http://katagami.exhn.jp/
「KATAGAMI=型紙」とは、小紋や型友禅などの型染めに用いる、模様を切り抜いた紙のことである。古くから使われていたが、とくに型染めが盛んだった江戸時代に優れた技術とデザインが生み出された。こうした型紙は高いデザイン性を誇りながらも、単なる道具、つまり消耗品として認識されてきたため、収集・保存されることはなかった。そして染色業者が廃業する折に、まとめて海外に売られるなどして流出したという。流出時期はおもにデザインの改革期であった19世紀半ばで、当時、新たな造形表現を求めていた、欧米のデザイナーや芸術家に大きな影響を与えた。本展は、この型紙がデザイン改革運動期の欧米で、つまりアーツ・アンド・クラフツ運動やアール・ヌーヴォー運動などにおいてどのような役割をはたし、それがいかに現代に受け継がれているかに焦点を当てている。出品作が充実しているうえ、「型紙(日本・歴史)」「アーツ・アンド・クラフツ(英米・英語圏)」「アール・ヌーヴォー(仏語圏)」「ユーゲント・シュティール(独語圏)」「現代」の五つのセクションに構成されており、親切でわかりやすい展示となっている。従来のジャポニスムに関わる展覧会が地域や作家、デザイン運動そのものに限定されたものが多かったのに比べ、本展は型紙というテーマを掲げ、より総合的なアプローチを試みている。三重県立美術館(2012年8月28日~10月14日)に巡回。[金相美]

2012/07/10(火)(SYNK)

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2012年08月01日号の
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