artscapeレビュー

2012年10月01日号のレビュー/プレビュー

プレビュー:よみがえりのレシピ

会期:2012/10/20

ユーロスペース[東京都]

おいしいものを食べたい。できるだけ安全で、健康によい食べものを。人間にとって当たり前の欲求を、改めて見直す機運が昨今高まっている。この映画は、山形県内で細々と栽培されている「在来作物」についてのドキュメンタリー。「在来作物」とは、「ある地域で世代を超えて栽培者によって種苗の保存が続けられ、特定の用途に供されてきた作物」のこと。品種改良を繰り返して均質化された農作物が効率的に生産される現代社会では長らく忘れられていたが、大量生産・大量消費・大量廃棄という社会の仕組みが反省されるなか、地域資源のひとつとして注目が集まりつつある。本作は、山形在来作物研究会の会長で山形大学准教授の江頭宏昌と、山形イタリアンこと「アル・ケッツァーノ」のオーナーシェフ奥田政行の2人を中心に、さまざまな農家の人びとの実践例を紹介するもの。急峻な山の斜面の森林を伐採し、焼畑の後、栽培されるカブの美しさに圧倒されるが、それが奥田の手によって調理されると、ひときわ美味しく見えるからたまらない。いくぶん「在来作物」のポジティヴな面を強調しすぎるきらいがあるにはせよ、それでも観覧者の食欲を刺激しつつ、「在来作物」というオルタナティヴについて考えさせる、きわめて良質のドキュメンタリー映画である。

2012/09/20(木)(福住廉)

プレビュー:NAMURA ART MEETING ’04-’34 VOL.4 臨界の創造論

会期:2012/10/20~2012/10/21

名村造船所跡地[大阪府]

21世紀初頭の30年間の芸術の変遷を追うことをテーマに、2004年から始まった30年間計画のプロジェクト。4回目の今回は、昨年以来の日本の未曽有の状況を受けて初心に立ち返り、さまざまな人々と語り合う場を提供する。プログラムは、宇治野宗輝、梅田哲也、雨宮庸介、クワクボリョウタ、ヤノベケンジ、DOMMUNE/Rubber(()Cementによるインスタレーション&ライブ・パフォーマンスと、宇川直弘、服部滋樹、水田拓郎、今野裕一、タニノクロウ、DJ SNIFF、山川冬樹、佐々木中らによる真夜中ミーティング&ダイアログ。濃密な一夜になることは間違いない。

2012/09/20(木)(小吹隆文)

砂連尾理/劇団ティクバ+循環プロジェクト『劇団ティクバ+循環プロジェクト』

会期:2012/09/22~2012/09/23

元・立誠小学校講堂[京都府]

障がいのあるアーティストとそうでないアーティストとが共同制作するドイツの劇団ティクバと日本で同様の活動を志向している循環プロジェクトとが共同で制作した本作。特徴的だったのは、基本的な方法をポスト・モダンダンスから借用し応用しているように見えたこと。たとえば、一時間強の公演のなかで12のパートに分かれた(配布された「砂連尾理 演出のノート」に基づく)最初のパートは「歩く」タスクだった。会場は老朽化した小学校の講堂。観客は中央の床面を四方から取り囲む。6人の男女が横に並び、1人ずつ椅子から立つと前へ歩き、舞台の端まで来ると後ろ歩きで戻る。ただ「歩く」だけ。この振付とは言い難いシンプルな指示は、各人の身体の個性を引き出すのにとても効果的だ。からだが引きつることも、滑らかに歩みが進むことも、車いすを回す腕の力強さも、微細なものだが本作の重要な展示要素となっていた。途中でビー玉がころころと床を斜めに横切った。6人の身体性がビー玉の身体性と等価に置かれ、それによってより一層、各人の身体の物理的な性格(性能)へ見る者の注目が集まる。次のパート「自己紹介──対話の始まり」では、「私は砂連尾理です」と砂連尾が言葉を発すると同じ言葉を隣のメンバーが次々発してゆく。発声も各身体の性能がよく表われるものだ。ダウン症の身体から、その性能を証す個性とともに言葉が出る。性能の露出は、普段ならば差別や批判のもとになるもの。それをこんなにはっきりと展示してよいのかと見ていて少し戸惑う。観客は戸惑いながら、通常の鑑賞で用いる評価の基準を捨て別の尺度を模索する。理想ではなく現実に価値を見出すよううながされる。観客はそうして自由になる。とはいえ、彼らはみな舞台表現者である。公演の成立を揺るがすような、不慣れな身体はそこにはない。みなためらいなく自己を展示している。各人の身体の個性を肯定しながら、本作は作品としての強さを保持し進んでいった。健常者の女性ダンサーが車いすのタイヤを足でそおっとなでるシーンなどほのかにエロティックな場面や、あるいは攻撃的に衝突する場面など、健常者と障がい者の対話(コンタクト)の幅を拡張する試みが豊富に盛り込まれていた。

KYOTO EXPERIMENT 2012 - Osamu Jareo / Thikwa + Junkan Project

2012/09/22(土)(木村覚)

「Chim↑Pom」展

会期:2012/09/22~2012/10/14

パルコミュージアム[東京都]

「ゴミ」をテーマにすることで、渋谷のデパートに置かれた美術館での展示という条件を生かそうとしたChim↑Pom。(恐らく)パルコの商品が陳列された空間をマクドナルド(?)のイメージカラー(黄色とケチャップ色)でめちゃくちゃに塗りたくった最初のブースや、着替え室を潜るとパルコ(PARCO)の看板から奪取した「C」と「P」がクイーンの代表曲に合わせてカラフルに点滅する次のブースは、いたずら心が炸裂していてわくわくさせられた。最後のブースは「ゴミ」をテーマとする作品が並ぶ。インドネシアや東アジアや日本のゴミ事情をリポートするような作品群は、現状確認に留まっていて、なんだかおとなしい。黄色いネズミの剥製が生誕した地、渋谷での展示なのだから、ネズミたちに登場してもらいたかったのは正直なところだ。いや、というよりも、あのネズミたちのように、渋谷の表層が引き剥がされて隠れていた生命力がむき出しになるといった痛快な事態を期待してしまった。服をゴミにしたあとで、さらにそのゴミにタグを付けて販売するといったダイナミックな反転が見たかったのかもしれない。

2012/09/24(月)(木村覚)

KYOTO EXPERIMENT 2012 公式プログラム ビリー・カウィー「Tango de Soledad/The Revery/In the Flesh」

会期:2012/09/22~2012/10/28

京都芸術センター[京都府]

イギリスを拠点に国際的に活動するビリー・カウィーによるビデオ・インスタレーション。自ら振付・作詞・作曲・演奏を手掛けたダンス作品を、3D映像で上映している。3つの作品は、映像に対して、水平、見下ろす、見上げる視点で見るよう構成されており、それらはどれもダンサーの細かな表情や息遣いまで感じられるリアルなものだった。ダンサーが手を差し伸べてきた時は、3Dと知っているにもかかわらず、つい手が伸びそうになったほどだ。バーチャルではあるが、舞台公演ではありえないほど間近でパフォーマンスが見られるのは、確かに魅力的である。テクノロジーにより身体感覚を増幅させるその手法に、大きな可能性を感じた。なお、ビリー・カウィーは3Dと生身のダンサーが共演するプログラムを模索中で、京都滞在中に日本人ダンサーと3D映像を制作、帰国後にイギリスで撮影した他のセクションを加えて編集し、来年再び京都に戻って数人の生身のダンサーとのコラボレーション作品を発表する予定である。

2012/09/25(火)(小吹隆文)

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