artscapeレビュー

2012年11月01日号のレビュー/プレビュー

世界の織機と織物──織って!みて!織りのカラクリ大発見

会期:2012/09/13~2012/11/27

国立民族学博物館[大阪府]

本展は完成された織物、つまり織物の形(デザイン)やその用途を紹介する展示ではない。織物を織るという「織りの技術・機械」を紹介するもので、それが興味をそそられるポイントだ。身体の一部を用いる、手機や足機、腰機から、織機と聞くと真っ先に思い浮かぶ、枠機まで、さまざまな生活の知恵が紹介されていた。会場にはいくつかの体験場が設置されてあり、展示企画者は「体験型展示を通じて、産業革命以降に人類が手仕事を放棄し続けて今日に至っているという危機的状況について警鐘を鳴らし、手仕事への回帰というメッセージを社会に向けて発信することも計画している」と、企画意図を語る。織物の製作過程に興味があるならオススメ、完成品(デザイン)に興味があるならほかの展覧会をお勧めしたい。[金相美]

2012/10/19(金)(SYNK)

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これも印刷?!──ふしぎな特殊印刷の世界

会期:2012/09/04~2012/11/11

印刷博物館P&Pギャラリー[東京都]

PCとプリンタの普及で、印刷はとても手近な存在になった。iPadなどのタブレットPC、楽天のkobo、そして先頃アマゾンKindleの発売も発表されて、活字文化の世界は大きく変わろうとしているように見える。しかし活字だけが印刷ではない。まだまだプロフェッショナルな領域は存在する。それが「特殊印刷」の世界である。この展示では、私たちがふだん意識している印刷とはまた異なる印刷技術を紹介するもの。会場には《キラキラピカピカ》《ひかる》《とびだす》《デコボコ・つるつる・ふさふさ・ざらざら》といった、視覚だけではなく触感なども表わす言葉が記されたパネルが下がる。キラキラの代表は箔押し印刷。接着剤をコートした金属の薄い箔を熱で対象物に圧着することで、紙の上にも金属のような質感を印刷することができる。デコボコの代表は紙自体に凹凸をつくるエンボス加工であるが、発泡インキやUVインキを用いることで、さらに細かくはっきりとした凹凸が可能になる。発泡インキはただ盛り上がるばかりではなく、フェルトのような質感も実現できるし、点字を印刷することも可能だ。金属をエッチング処理したような質感を実現するリオトーンインキは、化粧品のパッケージなどに高級感を演出する。温度によって色が変わる印刷、香る印刷、光る印刷、まるで木のパネルのように見える木目印刷など、多種多様な技術が実物とともに解説されている。印刷のプロフェッショナルにはさほど珍しいものではないかも知れないが、まさしく「これも印刷?!」と声を上げてしまうものもある。素人にとっては驚き、そしてデザイナーにとっては新たな表現の可能性を見せてくれる展覧会である。[新川徳彦]

2012/10/19(金)(SYNK)

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室伏鴻『Krypt──始めもなく終わりもなく』

会期:2012/10/20

鎌倉生涯学習センターホール[神奈川県]

舞踏家・室伏鴻の希有な所作に〈言葉を漏らす〉というものがある。踊りの最中、不意に喋る。踊りがたいていの場合踊り手の陶酔とともに生じるとすれば、その酔いを自ら醒ますかのように言葉が踊り手の肉体から漏れる。本作では、60分ほどの上演が40分を超えたあたりだったか、94才の認知症だった母が昨晩亡くなったと言葉が漏れ出した。火葬した骨の話に及ぶと、全身を銀色に染めた男の肉体にも同じ骨が、いつか白い灰と化す骨が存在していることへ、思いは吸い寄せられた。非人間的というよりも非有機的に見える銀の肉体は実際のところ生ある存在であり、そしていつか死する存在である。そして、そう思ったときはたと気づいたのは、室伏は死の側から生へ向けて踊ってきた踊り手だった、ということだった。大抵、踊り手は陶酔し忘我へ至ることで死へと接近するものである。とすれば、それとは反対に、室伏はずっと死者として舞台に立っていたのではないか。おかしな、矛盾した表現だが、室伏は生の衣を纏った死者である。そう考えると道理が行く。そうであるならば、core of bellsの瀬木俊を中心とした若い音楽家たちの演奏が室伏の踊りにフィットしていると感じさせたのは、彼らの振る舞いが、盆に親と帰省した孫が亡き祖父とおかしな交信をしているようなものだったからかもしれない。「おかしな」と書いたが、若い音楽家たちは室伏の踊りを認めながら、踊りに従属することなく、ギャップを抱えながらうまく遊んでいたということだ。死者があらかじめ「出(ex-)てしまった存在」であるとして、その死者・室伏の存在が硬直化するのを回避し、死者が死者のまま活性化しうるとすれば、そうした「おかしな交信」を実行してしまう他者の存在が必要なのかもしれない。

2012/10/20(土)(木村覚)

プレビュー:開館記念展I 横尾忠則 展 反反復復反復

会期:2012/11/03~2013/02/17

横尾忠則現代美術館[兵庫県]

美術家の横尾忠則が兵庫県に寄贈・寄託した3,000点以上もの作品と膨大な資料を収蔵する「横尾忠則現代美術館」が、11月3日にいよいよ開館する。場所は原田の森ギャラリー(旧兵庫県立近代美術館)の西館で、村野藤吾設計のモダン建築が美術館として復活するのも嬉しいニュースだ。二つの展示室に加え横尾の資料を保存・調査するアーカイブルームを備えた同館だけに、活動の中心が横尾の個展となるのは当然である。しかし、将来的には他の企画展も行なって、兵庫県の現代美術の拠点になってほしい。開館記念展は「反復」をテーマにしたもの。横尾作品に見られる同一モチーフの反復や模写を通して、美術界のオリジナル神話を問う内容となる。

2012/10/20(土)(小吹隆文)

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プレビュー:アブストラと12人の芸術家

会期:2012/11/11~2012/12/16

大同倉庫[京都府]

“現代の美術における抽象とは何か”を問う自主企画展。1950年代のアメリカで抽象表現主義が隆盛して以来、今日までその延長線上で抽象が語られてきた。しかし、昨年の震災以来価値観の根幹が揺らいでいる現在の日本において、抽象を改めて問い直す必要があるのではないか。本展にはそんな問いかけが込められている。出品作家は、荒川医、金氏徹平、菅かおる、国谷隆志、小泉明郎、立花博司、田中和人、田中秀和、中屋敷智生、南川史門、三宅砂織、八木良太の12名。既成の展示空間を使うのではなく、倉庫を改装したスペースを自分たちでつくり上げているのも興味深い。

2012/10/20(土)(小吹隆文)

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