artscapeレビュー

2012年11月15日号のレビュー/プレビュー

ザハ・ハディド《国立21世紀美術館(MAXXI)》

[イタリア・ローマ]

ザハ・ハディド設計の《国立21世紀美術館》を訪れた。うねるチューブが続くような展示室は、ホキ美術館的だが、スケールが全然違う。ザハの建築は、スロープや階段など、ダイナミックな上下移動の空間が多いが、全体の展示室がさらにデカイために、それを無駄なものだと感じさせない。小さい建物であれば、非難が集中しただろう。面白い建築だ。これまでに見たザハ物件は◎が3つ、×が2つで、当たり外れの振幅が大きいのも興味深い。
国立21世紀美術館では、ちょうど「ル・コルビュジエとイタリア」展を開催中だった。彼が若い頃、旅行で訪れ学んだこと(当時、ジョン・ラスキンの影響を受け、彼が装飾まで精緻に描いた建築画の美しいこと!)。1930年代にファシスト党に接近し、仕事を得ようとしたこと。そして戦後のオリヴェッティの工場とヴェネチアの病院計画までを網羅的に紹介している。が、いずれも実現していない。ほかに1階奥で小さなスカルパ展と、2階で建築模型の展覧会も開催していた。20世紀の建築家の模型をずらりと並べている(日本人は伊東豊雄さんのみ)。やはりイタリアの建築家のものが多いが、理念的だが独特の実在感があって、カッコいい。逆に、こういう感じは日本の建築模型にはあまりない。
この付近では、レンゾ・ピアノによる音楽ホール、ピエル・ネルヴィのスポーツ施設、ルイジ・モレッティによる長いオリンピック村の建築、そして新しい橋も訪れた。大学院の頃、このエリアを一度訪れていたが、文化系の施設が増えている。

写真:左上・左中=ザハ・ハディド《国立21世紀美術館(MAXXI)》、左下=レンゾ・ピアノ《音楽ホール》、右上=ピエール・ ルイジ・ネルヴィ《スポーツパレス》、右中=エンリコ=デッビオ+ルイジ=モレッティ《Foro Italico》、右下=Buro Happold《Ponte della Musica》

2012/10/23(木)(五十嵐太郎)

吉田五十八《ローマ日本文化会館》

[イタリア・ローマ]

吉田五十八が設計したローマの《日本文化会館》に向かう。日本建築を引きのばしたような空間である。イタリアの水準にあわせるためか、特に垂直方向に高くなっているが、巨大な違い棚や障子はアートのインスタレーションのようだ。今回、「東日本大震災の直後、建築家はどう対応したか」展は同じものを2セット制作しており、そのひとつが一階の日本的空間に設置された。筆者はレクチャーを行なったが、イタリアでは地震が起きるので、より強い関心を持ったようである。2009年に地震が起きたラクイラ大学の建築の先生たちが駆けつけたのだが、ちょうど地震予知をめぐる裁判で、科学者への有罪判決が出た直後だった。ラクイラでは、仮設住宅の建設が遅れ、三段階ではなく、二段階の復興になるという。また日本と違い、公共建築の方が地震で危ないなど、いろいろ事情が違うようだ。

2012/10/23(木)(五十嵐太郎)

日本の70年代 1968-1982

会期:2012/09/15~2012/11/11

埼玉県立近代美術館[埼玉県]

すでに80年代から「50年代展」「60年代展」が開かれていたのに、なぜかこれまで70年代の美術を振り返る展覧会が開かれてこなかった。たぶんそれは70年代の美術が閉塞的でまとまりに欠け、はっきりいえば「つまらない」「とるにたりない」と思われていたからではないか。だからどこの美術館も二の足を踏んだに違いない(ただし1973年とか75年とかに焦点を当てた企画展はあった)。だとすれば、埼玉近美の英断は千金に値する。まさにタマキン。しかし展示を見ると、万博せんい館から、アングラ演劇のポスター、映画、グラフィックデザイン、建築、レコードジャケット、若者雑誌までサブカルチャー系が多く、ケバくてにぎやか。あれ?70年代ってこんなに華やかだっけ、と首を傾げてしまう。そう、美術作品が少ないのだ。いや少なくはないが、圧倒的に目立たないのだ。70年代の美術といえば「もの派」であり、ミニマリズムやコンセプチュアリズムだから、裸電球がぶら下がっていたり(吉田克朗)、紙に「この七つの文字」と書かれていたり(高松次郎)、点や線が引いてあるだけだったり(李禹煥)、実に色気がなく禁欲的なのだ。そうか思い出したぞ、この美術とサブカルチャーの温度差こそ70年代だったのだ。そして、この落差を埋めようとしたのが谷川晃一の提唱した「アール・ポップ」であり、また、この温度差ゆえに『ぴあ』で美術はつねにマイナーなジャンルに甘んじなければならなかったのだ。はあ、ちょっとスッキリした。

2012/10/23(火)(村田真)

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《ヴィラ・ジュリア国立博物館》《ローマ国立近代美術館》

[イタリア・ローマ]

出発前の朝、日本文化会館に隣接する《ヴィラ・ジュリア》を訪れた。エトルリアの考古学展示も面白いが、なによりも空間のダイナミクスをもつ古典主義の建築が素晴らしい。現代建築ばかり見ていると、視野狭窄になるので、すぐれた古典の存在は大事だ。続いて、《国立近代美術館》へ。これは堅苦しい古典主義である。ただ馬鹿でかいことによって、結果的に現代美術の展示にも耐えうる空間をもつ。ここでは、アルベルト・ブッリの絵画を見ることができた。地震で破壊され、集団移住により廃棄されたイタリアの町ジベリーナにて、街区ごとコンクリートで固め、巨大なランドアートをつくった作家である。彼の抽象的かつ素材感が強い絵画は、空からみた作品化されたジベリーナとよく似ていた。

写真:上から、《ヴィラ・ジュリア国立博物館》、《ローマ国立近代美術館》、アルベルト・ブッリの絵画

2012/10/24(金)(五十嵐太郎)

六甲ミーツ・アート──芸術散歩2012

会期:2012/09/15~2012/11/25

六甲ガーデンテラス、自然体感展望台 六甲枝垂れ、六甲山カンツリーハウス、六甲高山植物園、六甲オルゴールミュージアム[兵庫県]

「六甲ミーツ・アート──芸術散歩」は現代アートをピクニック気分で鑑賞、というとおり、森の中や六甲山上の各施設屋内外に展示作品が点在していて、歩いて楽しむ展覧会だ。まず鉄道の最寄り駅に着いたら六甲ケーブル駅まで移動し、ケーブルカーで六甲山上まで上るのだが、その後はバス移動するほうが良い距離の会場もあるのでちょっと体力も時間も必要だ。しかし遠足気分で天気の良い日に訪れたなら、作品鑑賞だけでなく、山からの展望、美しい紅葉、鳥の鳴き声など、いろいろと楽しめて最高だ。会場は8カ所。受付でもらえる公式周遊マップには、各展示場所の鑑賞済みの作品にスタンプを押してチェックする欄もついているのでスタンプラリーのように巡ることができて便利。43作品の欄があったが、実際に展示を見ることができたのは41作品だった。個人的には特に、紅葉も素晴らしい六甲高山植物園の展示が気に入った。さすがに六甲山は市街とは違って寒いのだが、まだ会期はあるので興味のある方にはぜひ薦めたい。


左=公募大賞グランプリ作品 今村遼佑《森と街灯》
右=久門剛史《jazzと虫》
ともに、六甲高山植物園


左=中川洋輔+藤原直矢《霧がつくる輪郭》(六甲オルゴールミュージアム)
右=開発好明《物干川》(六甲山カンツリーハウス[中央入口より])

2012/10/26(金)(酒井千穂)

2012年11月15日号の
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