artscapeレビュー

2012年11月15日号のレビュー/プレビュー

劇団、本谷有希子 第16回公演『遭難、』

会期:2012/10/02~2012/10/23

東京芸術劇場シアターイースト[東京都]

劇団、本谷有希子の『遭難、』を観劇する。戯曲としては数年前にテキストで読んでいたが、上演が進むにつれ、かつて文字で読んだ記憶が生身の声でよみがえる不思議な体験だった。いじめ問題が騒がれる現在、少し違う視点の物語が再演された。観客席と舞台を仕切る学校の窓が上昇したり下降したり、わりとリアルな舞台などの美術も興味深い。

2012/10/08(月)(五十嵐太郎)

中国──王朝の至宝

会期:2012/10/10~2012/12/24

東京国立博物館[東京都]

「日中国交正常化40周年」を記念するこの展覧会が、中国で反日運動が盛り上がるこの時期に開かれるというのはどうなのよ。今日の内覧会にはアグネス・チャンも来ていたが、記者から「中国の反日活動をどう思います?」とイジワルな質問をされていた。展覧会は、中国美術に関してほとんど知識も興味もない私にとってもかなりおもしろいものだった。なにがおもしろいかって、蜀とか楚とか秦とか唐とか宋とか王朝が代わるごとに美術の様式もゴロッと変わること。もちろんつながりのある時代もあるけど、西洋美術史みたいに継承・発展していかないで、前の時代の様式がまるでなかったかのようにまったく別の様式を打ち立て、またそれをチャラにして……というシジフォスの神話みたいなことを何千年も繰り返してきた。このムダなエネルギーの消費こそ大河中国の足を引っぱってきた要因なんだなと、あらためて気づいたのでした。やはり中国は奥が深い。

2012/10/09(火)(村田真)

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篠山紀信「写真力」

会期:2012/10/03~2012/12/24

東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]

篠山紀信の写真展に「写真力」という言葉はぴったりしている。まさに彼こそ1960年代から半世紀にわたって、写真の荒ぶるパワーを十全に統御しつつ、打ち出し続けてきた写真家だからだ。
篠山の「写真力」は、主に固有名詞化された被写体に対して発揮される。しかも、その彼あるいは彼女の名前や顔やキャラクターが社会全体に広く行き渡り、輝きを発していればいるほど、その存在を全身で受け止め、投げ返す力業は神がかったものになる。今回の東京オペラシティアートギャラリーでの展示は「GOD」「STAR」「SPECTACLE」「BODY」「ACCIDENTS」の5つのパートに分かれており、東日本大震災の被災者たちを撮影した「ACCIDENTS」以外の部屋は、著名なキャラクターのオンパレードだ。その絢爛豪華ぶりは、美空ひばり、三島由紀夫、バルテュス、武満徹、ジョン・レノン、夏目雅子、大原麗子、勝新太郎、きんさん・ぎんさん、渥美清の巨大な「遺影」がずらりと並んだ「GOD」の部屋を見るだけでもよくわかる。
篠山はそれらのスターたちを、視覚的な記号として社会に流通させていく術に長けている。彼は大衆があらかじめ抱いているイコンとしての像におおむね沿う形で、だがそれらを少しだけずらしたり、増幅させたりして写真化していく。時代の気分をすくい取りつつ、その半歩先のテイストを的確に打ち出していく勘所のよさを、篠山は1960年代のデビュー時から現在までずっと保ち続けてきた。それだけでも特筆すべきものと言えるだろう。
だが、その記号化のプロセスは、主に雑誌や写真集などの印刷媒体で威力を発揮するものであり、美術館のような会場での展示には馴染まないのではないか。観客はジョン・レノンや山口百恵や宮沢りえやミッキーマウスが「そこにいる(いた)」ことを確認すれば、それだけで満足してしまう。ゆえにギャラリーや美術館のスペースで味わうべき視覚的体験としては、やや物足りないものになる。気づいたら、広い会場をあっという間に巡り終えてしまっていた。

2012/10/11(木)(飯沢耕太郎)

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リヒテンシュタイン──華麗なる侯爵家の秘宝

会期:2012/10/03~2012/12/23

国立新美術館[東京都]

展示室に入ると円柱とアーチがしつらえてあり、ちょっと宮廷の気分。もう少し進むと、壁も天井もバロック調に装飾された大部屋に出る。おお、これは安っぽいながらもいい感じ。きっとこんな部屋で王侯貴族どもは芸術を楽しんでいたに違いない。壁には絵画のほか装飾ゴテゴテの鏡やタペストリーが掛けられ、床にはテーブル、キャビネット、彫刻が置かれ、なんと天井にも楕円形の絵が4点はめられているではないすか。展覧会で天井に絵を飾るというのはあまり聞いたことがない。ディスプレイばかりに気をとられているが、作品もすばらしいのが来ている。クエンティン・マセイス《徴税吏たち》やクリストファーノ・アッローリ《ホロフェルネスの首を持つユディト》は、数ある同主題の絵のなかでも優品だと思うし、ブリューゲルの数点の作品はコピーとはいえ貴重なもの。しかしなんといっても圧巻なのはルーベンス。幅4メートルを超す《占いの結果を問うデキウス・ムス》をはじめ大作が4点も。額縁も絢爛豪華で、ゴテゴテの装飾が60センチくらい突き出してる額もある。これどうやって運んだんだろう。でも大作もいいが、ルーベンスの技巧を味わうには小品や下絵がいちばん。なぜなら弟子の手が入ってないし、本人の筆の勢いが直に感じられるからだ。とくにチラシやポスターにもなった《クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像》のような家族の肖像は、プライベートなものだけにひしひしと伝わってくるものがある。いやー満足。

2012/10/12(金)(村田真)

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日本の70年代 1968-1982

会期:2012/09/15~2012/11/11

埼玉県立近代美術館[埼玉県]

埼玉県立近代美術館の「日本の70年代 1968-1982」展を見る。大阪万博や寺山修司の熱気から、ビックリハウスやこの美術館の誕生まで、横断的に文化を展示したものだ。それゆえ、黒川紀章の向かいが、サディスティック・ミカ・バンド!という部屋もある。なお、美術館の公園に移築された《中銀カプセルタワー》のユニットも同時代の産物だ。

2012/10/12(金)(五十嵐太郎)

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2012年11月15日号の
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