artscapeレビュー

2012年12月01日号のレビュー/プレビュー

浅野真一 個展 夢

会期:2012/11/03~2012/11/17

CUBIC GALLERY[大阪府]

浅野真一は、一貫して具象絵画による光の表現を追求する作家だ。本展では、3点組の大作油彩画をメインに、鉛筆画の小品なども出品された。メインの大作は連続する室内の情景を描いており、差し込む光の角度や調子が1点ずつ微妙に異なる。また、バルテュスの《夢》という作品の構図を引用しているのも特徴である。彼はこれまでも、精緻な表現と静けさ漂う画風で質の高い作品を発表してきた。新作で連作、引用という新たな要素が加わったことにより、今後はさらに深みのある表現世界が展開されるに違いない。

2012/11/08(木)(小吹隆文)

バーナード・リーチ展

会期:2012/10/31~2012/11/11

京都高島屋7階グランドホール[京都府]

英国の陶芸家バーナード・リーチ(1887-1979)の生誕125年を記念して開催された回顧展。日本の美術館や個人収集家が所蔵する代表作約120点が出品された。東と西の陶器の融合を試みたとされるリーチらしく、絵付けから黒釉、緑釉、白磁に至るまでありとあらゆる技法へのあくなき関心が出品作から伝わってくる。しかし、出来上がった陶器は技法や形状の点で東と西の伝統を踏まえつつも、どことなく同時代的な雰囲気を帯びているのだ。
 《楽焼葡萄文蓋付壺》(1913)の渦巻状のブドウの葉を大胆にあしらった赤絵は、20世紀初頭の英国のブルームズベリー・グループの絵画や工芸を彷彿させる。《楽焼走兎図大皿》(1919)では、伝統的なスリップウェアの技法が用いられ、ウサギは中国の龍文のごとくデフォルメされているが、同時にアール・ヌーヴォーの感覚も携える。このようにみると、リーチの陶器が濱田庄司らの日本の陶芸家の心をとらえたのは、それが雑器の美の再発見を呼び起こしただけでなく、むしろそこからモダンな表現を生み出そうとするリーチの心意気に触れたからではないかと思えてくる。戦後の作《緑釉櫛描水注》(1954)のオブジェのような表現は、彼の意図が伝統の再発見とその融合のみに留まらなかったことを強く感じさせる。
 会場の最後には、1934年に東京・日本橋の高島屋で展示された、リーチの考案した書斎が復元されており、白木の柱と塗り壁の部屋に戸棚と文机を作り付け、カーペット敷きの床に洋風の挽物家具を配した書斎はまさに東西のインテリアの融合というにふさわしい。この書斎は1934年の発表当時、どのような反響があったのだろうか。本展の多彩な作品をみているとこのような疑問が次々と浮かんでくるが、展覧会にはあまり解説らしきものはなかった。多数の来場者はリーチの人気の高さを物語っており、そのような作家の大回顧展であれば、もう少し教育普及的な側面が欲しかった。[橋本啓子]

2012/11/10(土)(SYNK)

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日本の映画ポスター芸術

会期:2012/10/31~2010/12/24

京都国立近代美術館[京都府]

1930~1980年代に日本でつくられた映画ポスター約80点を採り上げ、映画ポスターの歴史を振り返る展覧会。筆者のようなアート系の人間が「おもしろい」と感じるのは、1960年代以降の日本アート・シアター・ギルド(ATG)のポスターや、粟津潔、横尾忠則などのグラフィック・デザイナーを起用したポスターだ。しかし、映画ポスターというジャンルが芸術よりもデザインの範疇に属するものであることを考えれば、映画の宣伝効果というその機能を考慮せねばならないだろう。そういう意味では、対象が映画であれ演劇であれ、同様の作風を貫くグラフィック・デザイナーのポスターよりも、看板絵のような野口久光のポスターのほうが、映画ポスターの目的にはかなっていたかもしれない。加えて、現代からみればキッチュな表現にとれる岩田専太郎のイラストレーションが溝口健二の映画ポスターに起用されたのは奇異に思えるが、それは、いまでは前衛の先駆とされる溝口映画も当時は大衆の娯楽であったということなのだろう。いずれにせよ、ポスター研究には芸術性の視点だけでなく、それに付随するさまざまな視点からの考察が必須となる。今回、映画ポスターを通史的に展示したのは貴重な機会であったが、今後はなにをもって「映画ポスター芸術」ということが言えるのかを学問的に検証するような企画を期待したい。[橋本啓子]


上村一夫《シェルブールの雨傘》1973年、東京国立近代美術館フィルムセンター蔵

2012/11/10(土)(SYNK)

奈良・町家の芸術祭 HANARART2012

会期:2012/10/27~2012/11/11

五條新町、御所市名柄、郡山城下町、田原本寺内町、八木札の辻、三輪[奈良県]

奈良県内の古い町並みを残す地域で行なわれる現代美術イベント。2回目の今年は、作家ではなくキュレーターを公募した(HANARARTこあ)。選出された11組のキュレーターが6地域・15会場で展覧会を統括することにより、作品の質や展示の一体感が向上、また、キュレーターが自ら積極的に広報や発信を行なうという効果も表われた。他の地域型アート・イベントとの差別化を図る意味でも、この方式は有効であろう。同時に、自主参加を希望する作家のためのカテゴリー(HANARARTもあ)も設置されており、気配りが感じられた。ただし、作品の質にはばらつきがあった。この手の地域型イベントで重要なのは地元住民に認められることだが、この点でも、幾つかの地域では主催者が想定した以上の盛り上がりが見られたという。細かい課題を挙げればきりがないものの、2回目のHANARARTは目標を達成したと言えるのではないか。

2012/11/10(土)(小吹隆文)

アブストラと12人の芸術家

会期:2012/11/11~2012/12/16

大同倉庫[京都府]

美術家の田中和人が発案し、荒川医、小泉明郎、金氏徹平、三宅砂織、八木良太ら12名の作家(田中を含む)が参加した同展。そのテーマを要約すると、「現代における抽象表現とは」。1950年代に隆盛したアメリカの抽象表現主義の延長戦で語られてきた抽象表現を、今一度問い直してみようという意欲的な試みである。広大な倉庫を利用した会場には各作家の作品が十分なスペースを取って展示されており、街中の画廊では得られない美術体験をすることができた。近年、京都ではオープンスタジオをはじめとする作家主導の動きが顕著だが、本展のその流れのひとつであろう。彼らのバイタリティ溢れる行動には敬意を表したい。一方、肝心の「現代における抽象」は作品に託されたのみで、言語化・文書化はされていなかった。それが会期中に明確になるのか否かは定かでないが、一観客としては是非ステートメントを打ち出してほしいというのが本音である。

2012/11/11(日)(小吹隆文)

2012年12月01日号の
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