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2012年12月15日号のレビュー/プレビュー

志賀理江子「螺旋海岸」

会期:2012/11/07~2013/01/14

せんだいメディアテーク 6階 ギャラリー4200[宮城県]

志賀理江子の「螺旋海岸」展を見る。いや「見る」というより、会場をずっとぐるぐるとさまよう「運動」だった。始まりもなく、終わりもなく。ぐるぐると。そして写真とまなざしをめぐる問いかけを反芻する。モノとして林立する大小の写真は、さまざまなまなざしが交錯する彼岸のランドスケープのようでもあり、彼女の頭のなかに入ったような不思議な記憶の体験だった。チューブがもたらす波紋としてのせんだいメディアテークの空間と、大きな渦を巻く写真の群れが響きあう。これまでに見たメディアテークの展覧会で、もっともダイナミックに建築と格闘し、素晴らしい成果をもたらしている。壁は一切ない。ゆえに、そのまま外光も射し込む。日没後は光の具合が違う。

2012/11/08(木)(五十嵐太郎)

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東山魁夷 展

会期:2012/09/22~2012/11/11

宮城県美術館[宮城県]

宮城県美術館の東山魁夷展は、やはり人気で人が多い。こうして全体を通してみると、自然を自然に描くわけではなく、デザイン的な構図や構成が効いている。いわゆる彼の典型的な風景画が確立する以前の初期の実験的作品、また北欧の自然が気に入り描いた東山ワールド的な北欧の風景などが興味深い。ちなみに、宮城県美では被災した石巻文化センターが所蔵する地元出身の彫刻家高橋英吉展、せんだいメディアテークでは「東北学院大学 文化財レスキュー展 in 仙台」も開催していた。文化の場にも震災は確実に影響を与えている。

2012/11/08(木)(五十嵐太郎)

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TUAD mixing! 2012「記憶の声 Voices of Memory」/原高史×Responsive Enviroment(西澤高男)

会期:2012/10/22~2012/11/08

東北芸術工科大学 本館7階ギャラリー/本館前広場[山形県]

山形の東北芸術工科大学にて、和田菜穂子がキュレーションした「記憶の声」展/原高史×RE(西澤高男)を見る。椅子の上で点滅する光と声、ハンモックに揺られながらささやく声を聴くインスタレーション、音声データと連動する壁のQRコード、インタビューを吹き込んだカセットテープ、来場者がメッセージを書く「言の葉」、人々の記憶からインスピレーションを得た絵画など、複数のメディアを用いて、3.11の出来事を含む、学生や教員のさまざまな声と記憶を体験するもの。そして最終日ということで、映画監督であり学長の根岸吉太郎と「記憶と風景」をめぐってトークを行なう。記録と記憶の違い。視覚ではなく、匂いや音を通じた記憶、あるいは場所にタグ付けされた記憶。記憶のアーカイブと接続することで、拡張される記憶などが話題になった。

2012/11/08(木)(五十嵐太郎)

トリエンナーレスクール「原っぱと鉄の浮遊する粒子」

会期:2012/11/09

名古屋市美術館 2階 講堂[愛知県]

名古屋市美術館にて、トリエンナーレスクール「原っぱと鉄の浮遊する粒子」を行なう。個展を開催中の彫刻家、青木野枝と建築家の青木淳のトークの進行役をつとめる。あるがままに美術館を受けとめ、それに合わせて作品を制作・設置する青木野枝と、周囲の環境を読み込み建築の主張を消していく青木淳。やはり、世界に対する態度において共通点が感じられた。それゆえ、気が合うのだろう。二人が共同した吉祥寺のAOAO荘のエピソードも興味深い。美術家と建築家のトークは意外に多くはないが、これは両者の接点を感じさせる未来志向の貴重なものだった。ごく自然にさりげなく当たり前に二人が語っていたことで、その邂逅の希有さが感じられないほど。

2012/11/09(金)(五十嵐太郎)

長者町アート☆プラネタリウム

会期:2012/11/10~2012/11/25

Chapter2+長者町7・8・9丁目[神奈川県]

横浜の長者町といえば伊勢佐木町に隣接するちょっと猥雑な夜の街。その長者町の商店の人たちの協力を得て、8人のアーティストが路上や店頭に作品を展示している。北川純はパチンコ屋の隣の駐車場に高さ5メートルくらいあったろうか、巨大な深紅のバラの造花を吊った。よく見ると花心にポッチリ丸いものがあり、ちょっとエロい。安全面でも風紀面でもヤバそうだが、よくやらせてくれたもんだ。千代紙を使って作品をつくるチヨガミストの上畠益雄は、商店の柱や軒にあたかも貫通してるかのように千代紙製の立体を設置。これはよくできてる。これを無許可でやったらちょっとシャレたストリートアートになる。あとは何十軒ものお店に「ちょうぷくちゃん」のキャラクターを貼っていった竹本真紀や、駐車場に巨大な金属彫刻を置いた杉山孝貴などが健闘したが、全体として作品数の少なさ、密度の薄さは否めない。いちばん目立ちそうなタムラタクミのミラーボールが残念ながら、設置予定場所の神社の許可が下りず未実現というのも大きかった(数日後に実現)。こういう試みはもっともっと増えてほしいと思う。

2012/11/10(土)(村田真)

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