artscapeレビュー

2013年02月15日号のレビュー/プレビュー

生誕150年記念「クリムト──黄金の騎士をめぐる物語」

会期:2012/12/21~2013/02/11

愛知県美術館[愛知県]

愛知県美の至宝というべきクリムトの《人生は戦いなり(黄金の騎士)》を核に据えた企画展。生誕150年、総出品点数221点というから大規模な回顧展だが、大半はヨーゼフ・ホフマンやコロマン・モーザーらウィーン分離派の作品や資料で占められ、クリムト作品は全体の3分の1程度、しかも油彩画は8点だけで、初期の習作を除けば5点のみだった。というと不満げに聞こえるかもしれないが、いやいや、クリムトの油彩を5点も見られたのはたいへんな収穫というべきだろう。とりわけすんばらしいのは同じ愛知県にある豊田市美の《オイゲニア・プリマフェージの肖像》と、ワシントンの《赤子(揺りかご)》の2点。悪いけど金ばかり目立って顔の見えない《人生は戦いなり》よりずっといい。おまけに今回はモノクロとはいえ、焼失した《哲学》《医学》《法学》の3点の大作の実物大写真まであって、1時間足らずの駆け足で見た割に満足度は高かった。

2012/01/26(土)(村田真)

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アーツ・チャレンジ2013

会期:2013/01/22~2013/02/03

愛知芸術文化センター[愛知県]

「アーツ・チャレンジ」は愛知芸術文化センターで開かれるコンペで、ぼくも審査員のひとり。このコンペはセンター内のギャラリーのほか、通路や階段脇の余ったスペースに設置する作品を募集するもので、サイトスペシフィックなインスタレーションが期待される異色のもの。審査員は昨年秋に作品のプランで選考し、今回そのプランがどのように実現したかを見届けるわけだ。入選作品10本のうちいくつか挙げると、ひたすら穴を掘り続ける映像を流す戸井田雄のインスタレーションは、地下空間を展示場所に選んで成功したと思う。いまは亡き祖父への思いをテキスタイルに込めた柏井裕香子の私的な作品は、よくも悪くも素朴な味わいが強く出ていた。油絵具を固めて動物や人間像をつくる木村充伯の彫刻は、結果は別にして個人的にもっとも興味を惹いたプランだった。袋小路のような通路に壁紙を貼って絵を飾った鈴木紗也香の展示は、絵画空間と現実空間の出会いの場となったようだ。昭和40年代をこよなく愛す菅沼朋香のレトロな屋台は、吹き抜けに置いたせいか思いのほかこぢんまり感じられた。まあいろいろと変な作品が集まって楽しくなったと思う。

2012/01/26(土)(村田真)

宮川香山 眞葛ミュージアム

宮川香山 眞葛ミュージアム[神奈川県]

ジャポニスムの調査のため、明治期に横浜で活躍した陶芸家・宮川香山の美術館へ。横浜ポートサイド地区のビルの一画という、駅から行きにくいうえにわかりにくい場所にあるので、さんざん迷ったあげく到着。着いてみればわかりにくい場所ではないんだけど、表示が少ないので行き着けなかったのだ。さて、宮川香山といってもいまやほとんど知られてないが、京都出身で維新後に輸出用の陶磁器をつくるため横浜に移住した眞葛焼の陶工。初期のころは花瓶に鳥やカニがくっついたような、レリーフどころではない超立体的なハイパーリアリズム陶器で人気を博し、欧米の万博で賞を総ナメ。ところが10年もたたないうちに欧米人の好みの変化を目ざとく読み、作風を一転させてシンプルな磁器を制作。これがまた立体陶器に輪を掛けて海外で人気となった。したがって作品のほとんどは海外に流れてしまったので、ミュージアムをつくるために欧米各地で買い戻さなければならなかったという。ミュージアムといってもビルの一角を占める小さな施設だが、かつて横浜に窯があり、世界的な陶工が活動していたことを知るだけでも意義のある美術館だ。

2012/01/27(日)(村田真)

会田誠──天才でごめんなさい

会期:2012/11/17~2013/03/31

森美術館[東京都]

ネット上で「ポルノ被害と性暴力を考える会」が森美術館に抗議したと話題になっているので、念のためもういちど見に行った。問題になったのは、手足を切断され、犬の首輪をつけられた全裸の少女を描いた「犬」シリーズなどで、抗議団体によればこれらは「残虐な児童ポルノであるだけでなく、きわめて下劣な性差別であるとともに障がい者差別」でもあるとしている。たしかに「手足を切断され」と書いてるだけでも残虐とは思うが、これはあくまでフィクション=絵空事であって現実ではない(写真でも動画でもない)から、被害者はいない。実在のモデルもいないのだから「少女=児童」と決めつけるわけにもいかない。それでもなお「児童ポルノ」というのだろうか(抗議文でも「日本の児童ポルノ禁止法においては現在、実写ではない児童ポルノは違法とされていません」と認めている)。しかし違法でないとはいえ、これを「性暴力」「性差別」として不快に感じる人がいたことは事実だ。これがギャラリーのような限られた人しか訪れない場所に展示されるならまだしも、より公共性の高い美術館で公開するのだから「取り扱い」に注意する必要はあるだろう。森美術館はこうした抗議をあらかじめ見越したうえで、ネット上でもチケット売場の手前でも「性的表現など刺激の強い作品が含まれているため、事前にご了承いただきます」と告知しているし、また件の作品群に関してはいわゆる「18禁部屋」に隔離するなど幾重にも予防線を張っている。それでも抗議が来るのは、展望台と同一チケットで入れるため、アートにはなんの興味もない善男善女が大量に流れてくる森美術館ならではの宿命かもしれない。ちなみに、ぼくが「犬」シリーズを最初に見たのは「戦争画リターンズ」シリーズと同時期だったせいか、この絵のことを日本軍が中国人や朝鮮人に対しておこなった性暴力を含む蛮行の比喩だと思い込んでいたので、なんの抵抗もなく(というのも逆に変だが)受け止めたのを覚えている。個人的な意見を述べれば、この「犬」シリーズをはじめ、会田の作品はすべて人間の暗部や現代社会のねじれをきわめて的確に、諧謔的に、そして露悪的なまでに暴き出している点で高く評価しているが、同時に「性暴力」「性差別」ではないかという指摘にも(見方が狭いとは思うけど)耳を傾けなければならないと思っている。つまり芸術であり、同時にワイセツでもありうるということだ。問題は、森美術館ではどちらが優先されるか、されなければならないかということではないだろうか。ところで、この抗議団体に対して抗議内容とは別に違和感を感じるところがある。それは彼らが森美術館だけでなく、同展を紹介したNHKの「日曜美術館」や、会田誠を特集した『美術手帖』誌、同展チケットと赤ワイン付き宿泊プランを提供しているハイアットホテル、はては森美術館が加盟もしていない美術館連絡協議会や文化庁にまで抗議先を広げようとしていることだ。このなりふりかまわぬやり口は、たとえば日教組をつぶすためその貸し会場にまで圧力をかける右翼団体と変わらないではないか。たとえ抗議内容に共感しても、こんなやり方をしていているようでは同調する人は少ないだろう。

2012/01/31(木)(村田真)

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中村哲也「フォルムズ」

会期:2013/01/18~2013/02/11

A/Dギャラリー[東京都]

中村はここ十数年、見た目がチョー速そうな(だけでじつはなんの力学的根拠もない)デザインの車体モデルと、そのスピードを誇示すべく車体に塗布する火焔パターンをつくっている。いってしまえば「ハッタリ」だが、それを徹底的に追求すればこんなにカッコいいアートになるという見本だ。壁に1メートル超の車体モデルが11台(+4メートルほどのモデルが1台)、床に5メートルほどの骨組だけのモデル(というより穴だらけの車体といったほうが正確)がドーンと1台。ほかに数十点のドローイングが展示されている。いずれもいまや死語に近い「流線型」の極致で、メタリックな火焔パターンが塗装されているのだが、驚くのはこれらがすべて「手づくり」ということだ。これぞ究極の職人芸! これぞクールジャパン!

2012/01/31(木)(村田真)

2013年02月15日号の
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