artscapeレビュー

2013年03月15日号のレビュー/プレビュー

トリエンナーレスクール2012年度「マダム・バタフライの家」

会期:2013/02/02

愛知芸術文化センター12F / アートスペースA[愛知県]

演出家、田尾下哲のレクチャー「マダム・バタフライの家」(愛知芸術文化センター)の聞き手をつとめた。彼は東京大学の建築学科を卒業し、映画『キャシャーン』の監督助手やミュージカルなどを手がけ、あいちトリエンナーレ2013では『蝶々夫人』の演出を担当する。卒論では、古今東西の『蝶々夫人』のセットに関する膨大な史料を収集したが、レクチャーでは、その写真や図版を用いて、さまざまな事例を紹介した。オリエンタリズム的に西洋で表象される日本家屋や記号としての鳥居が、垂直方向に引き伸ばされるのは、そもそもオペラの舞台が高さをもつからだろう。今回、『蝶々夫人』において、田尾下は楽譜やオーケストラを視覚化し、空間が動くオペラをめざすという。

2013/02/02(土)(五十嵐太郎)

DOMANI・明日展2013

会期:2013/01/12~2013/02/03

国立新美術館[東京都]

文化庁芸術家在外研修の「成果」を発表する12人の展覧会。といっても派遣された年も国もバラバラだし、ジャンルも絵画・彫刻から、写真、工芸、アニメまで散らばってるので、なんの統一感もない。しかも出品作品は海外で制作されたものとは限らないので、「研修の成果」といいつつ実際には文化庁が選んだ作家たちの個展の集合体と見たほうがいい。これじゃ同時期に別の部屋でやってる「アーティスト・ファイル」と変わんないじゃん。そう、見る側にとっては枠組みなどどうでもいいのだ。絵画は日本画の神彌佐子、リアリズムの橋爪彩と小尾修、細密画の池田学の4人。日本画が抽象で、あとは具象というねじれがおかしい。同じリアリズム絵画でも昔ながらの技法による小尾に対して、美術史や映像イメージを採り入れた橋爪には新しさを感じる。池田の細密なペン画は有無をいわせず圧倒的で、最後にもってきたのは正解だった。あとは、古着の糸を解いて上から吊るした平野薫と、おびただしい数の古靴を赤い糸で結んだ塩田千春のふたりに注目。どちらも糸つながりで、なぜ女性作家は糸を使うのか興味をそそるところ。それはともかく、塩田のインスタレーションはこんなブース内ではなく、大きな会場で個展で見るに限るなあ。

2013/02/02(土)(村田真)

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倉敷芸術科学大学有志合同卒業制作展2013「十字路」

会期:2013/02/02~2013/02/11

BankARTスタジオNYK[神奈川県]

写真ふたりに、日本画と映像がひとりずつ計4人の卒展。メンバーが少ないし、ジャンルも偏ってるけど、有志だからしかたないか。でも逆に、倉敷からは遠い首都圏で見せられるんだからもっと有志が増えてもいいのに、とも思う。まあ首都圏といっても横浜の海岸の倉庫だけどね。作品は、開いた本のかたちの反立体スクリーンにプロジェクターの映像を当てる中島絵里香の《本の上の映画館》が示唆的。iPadも含めて、本というアナログ形式とデジタル情報のせめぎ合いにはまだまだ考える余地があると思う。

2013/02/02(土)(村田真)

実験工房 展──戦後芸術を切り拓く

会期:2013/01/12~2013/03/24

神奈川県立近代美術館 鎌倉[神奈川県]

文字どおり、戦後の一時代を切り拓いた実験工房の活動は、これまで断片的には取り上げられてきたが、その全貌はなかなか見えてこなかった。活動期間が1951~57年という比較的短い期間(その前後にメンバー個々のコラボレーションはあるが)だったこと、造形美術、音楽、舞台芸術等の多分野にまたがる運動体だったことがその理由だろう。今回、神奈川県立近代美術館 鎌倉を皮切りに、いわき市立美術館、富山県立近代美術館、北九州市立美術館分館、世田谷美術館を巡回する本展は、その意味でとても有意義な企画と言える。
実験工房は瀧口修造を精神的な指導者(実験工房という命名も彼による)として、「造形部門」には北代省三、駒井哲郎、山口勝弘、福島秀子、大辻清司を擁し、「音楽部門」には園田高弘、武満徹、湯浅譲二、福島和夫、鈴木博義、秋山邦晴、佐藤慶次郎が加わっていた。ほかに舞台照明家の今井直次とエンジニアの山崎英夫もメンバーであり、幅広いジャンルの作品に対応できる体制が整っていたことがわかる。実際に、1951年11月の「ピカソ祭」で上演されたバレエ「生きる悦び」からスタートする彼らの活動は、まさにインター・メディア的な実験精神の開花であった。むろん現在と比較すれば、技術的にも資金的にも限界があるなかで、精一杯背伸びをした危うさを感じないわけにはいかない。だが、逆にういういしい出会いの歓びがどの作品からも伝わってくる。このようなジャンルを超えた共同作業が、いまは逆に生まれにくくなっているように思えてならない。
写真という表現領域について言えば、生粋の写真家である大辻清司と、のちに写真家として多彩な仕事をするようになる北代省三がメンバーに加わっていたのは、幸運であったと言うべきだろう。『アサヒグラフ』誌に1953~54年にかけて連載された「APN」と題するコラムでは、北代、山口、駒井らがオブジェを制作し、大辻が撮影した写真がタイトルカットに使用された。大辻や北代は、実験工房がかかわった舞台や展覧会の記録写真も撮影している。これらの写真群は、それぞれのアーティストたちの活動を側面から支えながら、時代の空気感をいきいきと定着する記録資料としても重要な意味を持つものと言える。

2013/02/05(火)(飯沢耕太郎)

佐々木健「ジーズ/フーリッシュ/シングス」

会期:2013/01/26~2013/02/23

青山|目黒[東京都]

黄緑色のテニスボールを描いた絵が5点。テニスは西洋で始まったスポーツだが、ボールはブリヂストン製。つまり、西洋発祥の文化を日本人がわがものにして遊ぶという意味では油絵(洋画というべきか)に似ている。しかも画面中央にボールを1個だけ描いてるので日の丸を想起させずにはおかない。ほかに、日本近代美術の流れをチャート化した図を模写したり、周囲に草花模様を刺繍したテーブルクロスを実物大に描いたり、数式や鉄道の路線図を拡大描写したりしている。テーブルクロスや数式・路線図は自分の家族がつくったものに基づいているそうだ。基本的に身近にある「美術のようなもの」を「そのまんま」油絵に移し替えることで「美術」にしている。でもそれがやっぱり「美術のようなもの」にとどまってるかもしれないところがおもしろい。

2013/02/05(火)(村田真)

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