artscapeレビュー

2013年04月01日号のレビュー/プレビュー

津上みゆき展 View─まなざしの軌跡、生まれくる風景─

会期:2013/02/02~2013/02/24

一宮市三岸節子記念美術館[愛知県]

風景を描いた日々のスケッチをもとに、時間、季節、記憶、感興など、さまざまな要素を織り交ぜたみずみずしい絵画作品を描き出す津上みゆき。彼女にとって初の美術館での個展となる本展では、2005年に大原美術館のレジデンス「ARKOプロジェクト」で制作した4点組の大作、東日本大震災の当日に偶然描いていた桜の木のスケッチから発展した6点組の作品、自身にとって特別な日に思いを馳せた13点組の作品などを中心に、それらのためのスケッチや水彩画、版画を加えた約60作品が展示された。連作中心とすることで、彼女の創作スタイルや発想の広がりがわかりやすく提示され、画家が1枚の絵のなかにどれだけの思いや要素を込めているのかも、観客にしっかり伝わったのではないか。見終わった後にさわやかな余韻が残る、優れた個展だった。

2013/02/24(日)(小吹隆文)

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河口龍夫 聴竹居で記憶のかけらをつなぐ

会期:2013/03/02~2013/03/03

聴竹居[京都府]

建築家の藤井厚二が京都・大山崎に建てた自宅兼実験住宅で、エコ建築の先駆として評価されている聴竹居。ここでは過去に何度かコンサート、見学会、展覧会などが催されているが、3月初旬に行なわれた「河口龍夫 展」もそのひとつである。河口は聴竹居を訪れた際に「空気と時間の静寂が美しいほこりのように積もっている」と感じたそうだ。結果、彼が採用したのは、種子、貝殻、匂いなどをモチーフとした小品を、邸内にさりげなく配置する展示プラン。自身の表現を声高に主張するのではなく、周囲の環境に寄り添わせる慎み深いやり方だった。だからといって、感動までもが控えめだったわけではない。視覚、嗅覚、触覚(一部の作品は触れることができた)、聴覚(周囲の音)、味覚(茶話会の参加者に限る)の五感をフル活用する芸術体験は贅沢の一言。この場でしか味わえない感動が確かにあった。

2013/02/24(日)(小吹隆文)

井桁裕子 展─陶の人物像─

会期:2013/03/01~2013/03/16

乙画廊[大阪府]

井桁裕子は主に東京で活動している人形作家だが、今回は陶芸作品をメインに個展を開催した。恥ずかしながら筆者は彼女の存在を知らなかったのだが、作品の独自性と技術の高さには目を見張るものがあった。作品の多くは少女もしくは両性具有的な人物が貝殻や岩のような塊と一体化した姿をしている。自分の殻に閉じこもった精神が外界に顔をのぞかせた一瞬を切り取ったかのようだ。顔や手の細密さ、たおやかさと、塊部分のごつごつした表現の対比が印象的で、流れ落ちる釉薬の表情も効果を上げている。きっと関西のアートファンにも支持されるであろう。そのためにも、今後も関西での発表を継続してほしい。

2013/03/04(月)(小吹隆文)

黒駒勝蔵対清水次郎長 時代を動かしたアウトローたち

会期:2013/02/09~2013/03/18

山梨県立博物館[山梨県]

博徒、すなわち賭博を生業とする無法者ないしは無宿者についての展覧会。かつての甲斐国、現在の山梨県一帯を縄張りにしていた黒駒勝蔵を中心とした甲州博徒の歴史を文献から明らかにした。
展示から理解できたのは、江戸末期から明治初期にかけては、行政とは異なる博徒を中心とした権力構造が存在しており、それが現在ではタブー視されているのとは対照的に、庶民の暮らしに密着して機能していたこと。そして、黒駒勝蔵は富士山を挟んで清水の次郎長と対立していたが、その抗争の舞台となったのが、物流の経路だった富士川流域だったことである。博徒というアウトローを糸口として、現在とは異なる社会のありかたを想像させた意義は大きい。
しかしながら、展示物の大半が古文書だったため、展覧会としてのエンターテイメント性については、いささか物足りない印象は否めなかった。大半の現代人にとって古文は解読不可能であるから、解説文で説明を補っていたが、その要約のピントが少々甘い。映像や立体で展示にアクセントをつけようとしていたが、いずれも完成度が著しく低いため、完全に裏目に出ていた。
博徒の展覧会なのだから、少なくとも賭場を再現したり、博徒を主人公にした映画を上映したり、古文書から離れて視覚文化を活用するよう発想を転換する必要があったのではないか。常設展では、展示の構成や方法にかなりの工夫が見られただけに、惜しまれる。博物館の展示にアーティストが関わることも考えてよいだろう。

2013/03/04(月)(福住廉)

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美の競演──京都画壇と神坂雪佳

会期:2013/03/06~2013/03/18

大阪高島屋グランドホール[大阪府]

竹内栖鳳(1864-1942)や上村松園(1875-1949)など、明治から昭和にかけて京都画壇で活躍した代表的な画家たちと、ほぼ同時代に同じく京都で活動した神坂雪佳(1866-1942)の名作を紹介する展覧会。雪佳は京都にありながら江戸時代の琳派の継承者として、また近代デザインの先駆者として知られる人物。琳派の華麗な装飾性を踏まえながらも、近代的な感覚を加えた絵画や工芸品を多く手かげた。同展は京都画壇の作品を多く所蔵する京都市美術館と、琳派コレクションで有名な細見美術館(京都)のコラボにより初めて実現したという。雪佳の作品はもちろん、京都画壇の出品作家や作品も充実しており、見ていて楽しい。またそれぞれの作品の色彩や技法、画題やデザイン性などが比較できて興味深い。[金相美]

2013/03/06(水)(SYNK)

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