artscapeレビュー

2013年04月15日号のレビュー/プレビュー

ARICA 第24回公演「ネエアンタ」

会期:2013/12/28~2013/03/03

森下スタジオ Cスタジオ[東京都]

サミュエル・ベケットの作品をベースにしたARICAの演劇「ネエアンタ」を見る。死んだ女性の声が響くなか、語らない男が部屋を動きまわるだけの単純な構成。山崎広太が異様に遅延された日常的な動作を行ない、窓、冷蔵庫、ドアの3つの開口を4回往復しながら、やがて身体の仕草がズレていく。プロット上は、生きている男に女の霊がとり憑いたものだが、見ているうちに、ふと、男の方が死んでいるのではないかと思った。映画『アザーズ』において、互いに他者である生者と死者の立場が入れ替わるように。

2013/03/01(金)(五十嵐太郎)

大阪成蹊大学芸術学部(環境デザイン学科・美術学科)卒業制作展

会期:2013/02/027~2013/03/03

大阪成蹊大学南館[大阪府]

2012年度、長岡京(京都府)から現在の相川(大阪府)に移転した大阪成蹊大学芸術学部の移転後初めての卒業制作展。今年は学内での展示で、1期(前期)情報デザイン学科、2期(後期)環境デザイン学科・美術学科と展示会期が分かれていたのだが、私が見に行った2期には環境デザイン学科、美術学科ともに優秀な作品がいくつもあったので、一度で全卒業生の作品を見ることのできない展覧会になっていたのは残念だった。環境デザイン学科・プロダクト・クラフトデザインコースの渡辺宗生が発表していた《kokko》は、木製の棒、ゴム紐、ロープからなるシンプルなユニットで、自由にパーツを組み合わせてスツールやテーブルの脚などにするというキャンプ用のファニチャーキット。“kokko”という「焚き火」を意味するフィンランド語のネーミングは、その音の響きと、気の置けない人々と過ごす暖かなひとときをイメージした「時間」を想い、つけたという。道具として使うためには工夫と知恵が要るのだが、一人では組み立てが難しい場合が多いという点がまた面白い。一緒に過ごす人との協力もその狙いだった。美術学科では、大きく枝を伸ばす松をダイナミックな構図で描いた日本画コース・野口春海の《春は来る》、瀬戸口美紀の《少女の夢》、洋画コース・坂根麻里衣のインスタレーション《モデムちゃん》などが印象に残っている。人数は少ないが、その分、学生達の制作態度や努力、それぞれの感性が鮮やかに見える瑞々しい卒展だった。


《kokko》展示風景

2013/03/02(土)(酒井千穂)

松山賢「生きものカード(甲虫)」

会期:2013/01/018~2013/03/03

アンシールコンテンポラリー[東京都]

カブトムシやクワガタと美少女を組み合わせた絵画。オタクならずとも垂涎のモチーフだ。今回は鉛筆画や水彩画も出ているが、メインは案内状にも使われたS100号の大作《生きものカード(カミキリムシ)》。黄緑色の川(池?)を背景に、青色のカミキリムシとオレンジ色のジャケットを着た少女が正面を向き(カミキリムシは背面)、同じサイズ、同じポーズ(?)で仲よく手(?)をつないでいるところが描かれている。固い殻におおわれた甲虫と柔らかそうな少女の対比、青とオレンジという補色関係、ミクロとマクロの同サイズ化にもかかわらず、破綻なくまとまっている。さらに画面は、細かく分割彩色された明るい風景を基層に、なめらかなグラデーションで表された少女とカミキリムシ、そのカミキリムシの表面に盛り上げた細かいアラベスク模様、という次元の異なる3層から成り立っているのだ。これは学ぶところが多い。

2013/03/03(日)(村田真)

渡邊聖子「波と爪」

会期:2013/02/25~2013/03/03

みどり荘[東京都]

渡邊聖子がようやく本領を発揮し始めたようだ。今回の渋谷区青葉台のみどり荘(古いアパートを改装した気持ちのいいスペース)で開催された新作展では、写真のプリントや青焼きのコピーをガラス板で押さえたり、サービスサイズのプリントを束にして置いたりするインスタレーションが試みられていた。そのやり方自体は、以前とそれほど変わっていない。だが、特筆すべきは写真と併置されている「波と爪」(あるいはKiki and Lala are in love I watch their love)と題するテキストの方で、その表現力が格段に上がっているのだ。
渡邊は以前からテキストと写真とを組み合わせる作品を発表してきたのだが、とかく言葉が空転する印象があり、その意図がうまく伝わってこなかった。だが、「歌謡曲を下敷きにした」今回のテキストでは、言葉の絡み合いがいい意味で俗っぽくなり、読者にきちんと届いてきているように感じる。「波は傷の形をしている。あなたたちはそこで抱き合っていても何も見ることはできない。窓だけが仄あかるい。それ以外はすべて暗い。見えない。抱擁する」。スリリングなエロスの場面が、畳み込むようにスピードに乗せて綴られていくその内容は、もはや現代詩の領域(むろん映像は重要な役割を果たしているが)に踏み込んでいると言えそうだ。
本展はartdishから刊行された渡邊の作品集『石の娘』の出版記念展を兼ねている。秦雅則『鏡と心中』、村越としや『言葉を探す』、そして今回の『石の娘』と続いてきたartdishのラインアップは、言葉を中心にした写真集という、ユニークな志向性をさらに強めつつあるようだ。このシリーズも次の展開が楽しみだ。

2013/03/03(日)(飯沢耕太郎)

生き抜く 南三陸町 人々の一年

『生き抜く 南三陸町 人々の一年』を見る。生き残った命とていねいに寄り添い、3.11からの日々を描くドキュメンタリー。テレビ局にもこうした良心的な作品が、いや、多くのスタッフやカメラをまわせるからこそ可能な内容でもある。僕自身、あのときからの映像を見ながら、3月下旬、5月、8月……と訪れた南三陸の風景をフラッシュバックのように思いだす。確かに現場に存在していたあの匂いは伝わってこないが。

2013/03/03(日)(五十嵐太郎)

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