artscapeレビュー

2013年04月15日号のレビュー/プレビュー

岡村桂三郎 展

会期:2013/03/04~2013/03/16

コバヤシ画廊企画室[東京都]

地下に降りていくと、薄暗い画廊空間に巨大な屏風状の壁が突っ立っている。奥の壁面にドーンと1点、左右はやや斜め前を向いて各1点ずつ。つまり舞台装置のように正面性のあるインスタレーションになっているのだ。さらに屏風状のパネルは画廊の床と似たような木の板を使い、似たような色艶を出し、画廊空間にピッタリ収まるサイズでつくられている。コバヤシ画廊ではもう10年以上毎年個展を開いているので、勝手知ったる展示空間なのだ。これはコバヤシ画廊のためにつくられた、コバヤシ画廊でしか成立しないインスタレーションといっていい。でもそれじゃ売れないじゃん。

2013/03/14(木)(村田真)

鈴木理策「アトリエのセザンヌ」

会期:2013/02/09~2013/03/27

ギャラリー小柳[東京都]

以前、セザンヌが繰り返し描いた南仏のサント・ヴィクトワール山を撮った鈴木が、今度はそのふもとにあるセザンヌのアトリエとその周辺を撮影している。アトリエ近くの林には日の光と影が交錯し、サントヴィクトワール山は光を浴びた山容と陰になった山容をとらえている。アトリエ室内は光が弱く、しっとり落ち着いた色調だ。画家と写真家の違いは、こうした光のとらえ方にあるのかもしれない。

2013/03/14(木)(村田真)

武井裕之「はつ恋」

会期:2013/03/06~2013/03/23

神保町画廊[東京都]

「懐かしさ」は写真を見るときに大きな影響を及ぼす感情だが、それを導き出すためには細やかな配慮が必要となる。独学で写真撮影の技術を身につけた武井裕之は、今回「はつ恋」と題して発表されたシリーズを、2005年頃から撮影し始めた。彼はR型のライカと高感度のモノクロームフィルムというクラシックな組み合わせで、制服姿の美少女たちにカメラを向ける。NDフィルターを使用し、ややオーバーに露光することで印画紙の粒子を強調し、ソフトフォーカス気味にプリントする。そのことによって、被写体の現実感が希薄になり、まさに「はつ恋」の対象を遠くから憧れの眼差しで見つめているような、あえかな距離感=「懐かしさ」が生じてくるのだ。
武井の仕事はたしかに「美少女写真」の典型ではあるが、この種の写真につきまとう、あざとさやわざとらしさは、あまり感じられない。彼はこのシリーズを撮影するにあたって、モデルたちに「安心してもらう」ことを心がけてきたのだという。彼女たちの緊張感や不安感は、すぐに表情や身振りに表われてくる。それを少しずつ和らげ、解きほぐしていく手際のよさこそ、撮影やプリントのテクニック以上に大事になってくる。同じモデルを何度も撮影することもあるようだが、あまり慣れ親しんでしまうと、今度は新鮮さが薄れてくる。モデルたちとの微妙な駆け引き。だがそれを「撮りたい」という純粋な情熱で包み込んで、無為自然なものに見せてしまうのが、武井の写真術の真骨頂と言えそうだ。

2013/03/14(木)(飯沢耕太郎)

現代への扉 実験工房展──戦後芸術を切り拓く

会期:2013/01/12~2013/03/24

神奈川県立近代美術館鎌倉+鎌倉別館[神奈川県]

実験工房は、戦後まもない50年代に活動した先端的な総合芸術のグループ。顧問の瀧口修造をはじめ、山口勝弘、駒井哲郎、福島秀子、武満徹、湯浅譲二、秋山邦晴と名前を列挙するだけでもすごさがわかる。にもかかわらず、少し遅れて関西で活動した具体美術協会と比べて評価も知名度も低い。それはなぜなのか、この展覧会を見てよくわかった。実験工房は音楽の占める割合も大きかったので、具体のようにアンフォルメルやアクション・ペインティングといった視覚的にインパクトのある大作を残さなかったからだ。いっちゃ悪いが、具体は頭を使う前に体を動かすというイメージがあるのに対し、実験工房はもっと知的に洗練されていた印象がある。あくまで印象だが。それに具体のリーダー吉原は関西商人らしく商売上手、宣伝上手だったのに対し、実験工房の瀧口はとても控えめのインテリだったから、あまり社会に浸透しなかったのかもしれない。いずれにせよ、展覧会にしてしまうと実験工房は見るべきものが少なく、具体の圧勝だ。そういう具体も後の再制作が多いが。ところで、別館で上映されていた松本俊夫の自転車の映像は、なにか心をくすぐるものがあるなと思ったら、円谷英二が特撮を担当したという。なるほど、自転車や車輪がぎこちなく宙を舞う奇妙な浮遊感は、のちの怪獣映画やテレビのウルトラマンシリーズなどに見られる中途半端な浮遊感に通じるものだ。

2013/03/15(金)(村田真)

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澤田知子「Sign」

会期:2013/03/02~2013/03/31

MEM[東京都]

1月~2月に同じギャラリーで開催した「SKIN」に続いて、澤田知子がまた新作を発表した、女性のストッキングに狙いを絞った前作と同様、今回も得意技のセルフポートレートは封印している。新たな領域にチャレンジしていこうという意欲が伝わる楽しい展示だった。
澤田はアンディ・ウォーホル美術館の依頼によって、同美術館があるアメリカ・ピッツバーグにある70あまりの企業のなかからひとつの会社を選び、コラボレートして作品を制作するというプロジェクトに参加した。彼女が選んだのは、トマトケチャップとマスタードの世界的なメーカーであるハインツ(HEINZ)社である。ウォーホルの「キャンベルスープ」シリーズへのオマージュを込めて、「トマトケチャップ」と「イエローマスタード」の容器を撮影した写真を、壁に整然と並べている。よく見ると、「トマトケチャップ」と「イエローマスタード」という製品表記が、日本語、ハングル、アラビア文字などを含む世界各国の言語に置き換えてあるのがわかる。その数は56種類。ハインツ社のマーケティングで使用されていた、ラッキーナンバーを含む57という数字よりはひとつ少ない。実は欠けている言語は、本家本元の英語の表記だという。そのあたりの徹底したこだわりがいかにも澤田らしい。細部までしっかりと作り込んである労作だ。
この「ポップアート的」な発想は、さらに大きく展開していく可能性を感じる。セルフポートレートの呪縛から自由になったことで、澤田の写真に対する姿勢が微妙に変わりつつあるようだ。ハインツ社に限らず、企業の製品の「リメイク」というのは、なかなか面白い可能性を孕んでいるのではないだろうか。

2013/03/15(金)(飯沢耕太郎)

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