artscapeレビュー

2013年05月15日号のレビュー/プレビュー

三好彩 個展「火」

会期:2013/03/09~2013/04/13

imura art gallery kyoto[京都府]

画面を走るように行き交う黒、白、グレー、赤、青などの色彩。怪物のような、動物のような、正体不明の生き物や内臓を想像させる不気味なモチーフ。厚く塗られた絵の具の重量感。奇怪なイメージとエネルギッシュな筆跡の迫力が凄い。はじめはちょっと気味が悪いなあと思いながら見ていたのだが、一点ずつを見ていくうちにその奇妙な夢のような作品世界の魅力にすっかり引き込まれてしまった。三好は、時折、自分の心や体に感じる違和感や恐怖感、不安感、そしてそれらの感覚にともなって見えることがあるイメージを絵画で表現しているのだという。それらのイメージは、はっきりせず曖昧な場合も多いのだが、記憶を頼りに色や形態を描いているのだそうで、画面にうかがえる筆致のスピードも作家のリアルな感覚と臨場感に溢れていた。とてもエキサイティングで印象的に残る。今後の活躍が楽しみだ。

2013/04/12(金)(酒井千穂)

栗田咲子「おもいだし-わらい」

会期:2013/03/20~2013/04/13

FUKUGAN GALLERY[大阪府]

郷愁を誘うノスタルジックな光景を描いた作品が並んでいた。こちらの記憶をくすぐるように刺激して、個人的な思い出のエピソードをも喚起する。作家の体験した時間と自分の過去が少しずつ重なっていくような、「昭和」の懐かしいくすんだ雰囲気が全体にのどかな印象で心地よく、展覧会タイトルのとおりに、私も会場でにやりと思い出し笑いをしてしまった。潮の匂いや古い家屋に染み付いた匂いなど、嗅覚の記憶をいちいち刺激するからいっそう濃い味わいに感じられる。画風も少し変わったように思った個展。次回も気になる。


展示風景


2013/04/12(金)(酒井千穂)

碓井ゆい 個展「shadow of a coin」

会期:2013/03/20~2013/04/13

studio J[大阪府]

廃材やお菓子の包み紙を使った作品、陶器作品など、これまでさまざまな手法で表現に取り組んできた碓井ゆい。2010年から3年ぶりとなる個展を同ギャラリーで開催していた。会場で真っ先に目に入ったのは1円玉と50円玉をモチーフにしたオーガンジーの円形の作品。空中に吊るされていたそれらは、家事をする女性の姿や「NO NUKES」という文字などが刺繍されていた。じつは使われている糸も色鮮やかなのだがそれは裏側に回って見ないと分り難い。スペースの奥には、1919年にフランスのゲラン社によって発売された「MITSOUKO(ミツコ)」という香水と、その名前の由来を示す解説、そして旧日本軍の従軍慰安婦につけられた日本の源氏名を小さな古いガラス瓶にラベリングした作品がずらりと並んでいた。ピラミッド形に並んだ小瓶は、一番上のひとつの瓶の名前が「ミチコ」、二段目が「マサコ」、「アイコ」。私自身は説明を聞くまで気づくことができなかったのだが、それは皇室を頂点とする当時のヒエラルキーや女性の名前のイメージとその文脈などを象徴するものだった。政治と歴史、社会的な事柄について、自らの実感と丁寧な取材をもとに表現された違和感、そのアプローチが素晴らしい個展だった。


展示風景


展示作品《空(から)の名前》

2013/04/12(金)(酒井千穂)

瀬戸内国際芸術祭2013 春(小豆島)

会期:2013/03/20~2013/04/21

小豆島[香川県]

瀬戸内国際芸術祭2013春が期開中の小豆島へ足を運んだ。姫路港から福田港まではフェリーで1時間40分。この日は早朝に地震があり、出発の時間がずいぶん遅れてしまったのだが、福田港に到着後、インフォメーションコーナーで夜でも展示を見ることができるものもあると聞き、三都半島や坂手港エリアなどを巡った。途中、滞在制作中のアーティスト、小山真 さんを訪ねて元・小学校の教室の制作の現場を見せてもらう。「土産」と記されたカゴつき自転車に、扉と引き出しをつけた大きなケース、バックミラーやカメラを装着したサイドカー。蟹や漁網のデコレーションもユニークなこの乗り物で、香川県内の各地を巡り、そのときどきで出会った素材で「土産」を制作していくという。作品は旅の記録映像とともに「夏期」開催時に発表される。黒板に制作と旅のスケジュールがびっしりと細かく書かれていたのも印象的で公開が楽しみなプロジェクトだった。ヤノベケンジの《THE STAR ANGER》が設置されている坂手港灯台跡地を訪れたのは、日も暮れて暗くなったころ。巨大なミラーボールに乗った赤い目のドラゴンの迫力とキラキラと周囲に光が散らばるその眺めは壮観で、夜に見ることができてラッキーだと思った作品。隣接する坂手港待合所には、島に伝わる逸話をモチーフにした全長35メートルの巨大壁画《小豆島縁起絵巻》もあったが、この物語の詳細はわらなかったので少し残念。ほかには、中山地区の谷間に設置されている台湾のアーティスト、ワン・ウェンチー(王文志)の竹を組んだ巨大なドーム《小豆島の光》も見に行った。LED照明で、赤、紫、青、黄色と色が変化していくそのライトアップの様子がなにより強烈。暗闇で周囲の森を照らし出すそのイルミネーションの光景は異様で私自身は気持ち悪かったが、美しいと思う人もいるだろうか。どちらにしろ昼間なら内部に入って鑑賞できるので昼と夜の両方見たい作品だった。


《讃州土産巡礼》制作中の小山真さん


坂手港灯台跡地に設置されたヤノベケンジ《ザ・スター・アンガー》


《ザ・スター・アンガー》の近く。倉庫の壁画作品


ワン・ウェンチー(王文志)《小豆島の光》

2013/04/13(土)(酒井千穂)

瀬戸内国際芸術祭2013 春(小豆島)

会期:2013/03/20~2013/04/21

小豆島[香川県]

せっかくなのでと、干潮時に砂の道が現われて島がつながるという人気観光スポットの「エンジェルロード」を早朝見に行き、それから「迷路のまち」として知られている土庄本町へ向かった。ここは小さな路地がたくさんあるのだが、中世、海賊の侵入や南北朝時代の戦乱に備えて形成されたと伝えられているそうで、入り組んだ道を散策するだけでも楽しい。元タバコ店の2階建ての木造家屋をまるごと迷路に仕立てた《迷路のまち~変幻自在の路地空間~》は「目」というアーティストチームによる作品。昔懐かしい「タバコ屋さん」の小窓の部分から靴を脱いで中へ入るのだが、2階の小部屋、居間、台所など、各部屋やそこへ通じる場所に「あれ?!」と驚くような仕掛けが隠れていた。元々ここに住んでいた人の家具や家電などもそのまま使われていたのだろうか? 染み付いた生活の匂いがする雑然とした家の中を歩き回っていると、他所のお宅に勝手に上がりこんでしまったような気分にもなってスリリングだ。多彩なからくりも愉快。迷路のまちにふさわしいユニークな作品だった。また、三つの空家をギャラリースペースに、土庄本町でアート活動を行なっている「MeiPAM」による企画展プログラムも近くで開催されていた。中山地区の谷間へワン・ウェンチーの《小豆島の光》も再び見に行く。周囲の棚田の風景にも馴染んで、夜に見たのとはまったく異なる印象の佇まいにまた吃驚。昼間はドーム内部も鑑賞できるこの作品、訪れていた多くの人が敷き詰められた竹の床の上でくつろいでいたのだが、実際に中は涼しく、竹の編み目から射し込む光も気持ちのいい空間であった。ほかに、杉桶が並ぶ発酵蔵をガラス越しに見学できるマルキン 油の 油蔵、ビートたけしとヤノベケンジのコラボレーションで、頭部に斧が刺さった全長8メートルの怪物が井戸から現われる《ANGER from the Bottom》なども見てまわる。私自身はこうして作品鑑賞を満喫したのだが、気になったのは、最後に出会った地元の人たちの反応。その人たちは「興味がないわけではないが、なにかよくわからないイベントが突然始まった感があり、なにかよくわからないままに遠巻きに傍観している状態だ」と話してくれた。それはやはり残念。切実な課題はほかにもあるだろうが、今年の夏期や秋期の開催、またその後の開催にあたって少しずつ改善されていくことを願う。


ワン・ウェンチー(王文志)《小豆島の光》


《迷路のまち~変幻自在の路地空間~》入口

2013/04/13(土)(酒井千穂)

2013年05月15日号の
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