artscapeレビュー

2013年06月01日号のレビュー/プレビュー

パリ 大阪──街と芸術をめぐる物語

会期:2013/05/01~2013/05/13

大丸ミュージアム〈梅田〉[大阪府]

今月は奇しくも、都市「大阪」をテーマに取り上げた展覧会が並んだ。ひとつめの本展は、世紀末以降のパリと1920年代以降の大阪というふたつの「街」を切り口に、60点余りの作品を展観したもの。パリが「古き良き時代(ベルエポック)」と「狂乱の時代(レ・ザネ・フォル)」、そして大阪が「大大阪(だいおおさか)」と呼ばれ繁栄した時期の作品が集められた。世紀末パリの街頭を飾ったロートレックやミュシャ、ボナールらのポスターの数々から、エコール・ド・パリ、シュルレアリストの作家たちの作品群まで。片やモダン都市・大阪のイメージを喚起する浅井忠や池田遙邨の画から、パリの街角を描いた佐伯祐三、関西を拠点に活躍した吉原治良らの油彩画まで幅広い。興味深いのは、同出展作の多くを大阪市の「中之島ミュージアムアイランド構想」により建設が予定される、大阪新美術館の収蔵品が占めていること。そして、デザイン史を学ぶ人にとっては、同時開催されたミニ展覧会「発見!大大阪展」(大阪大学教授・橋爪節也氏のコレクション)の資料、例えば大丸呉服店(現、大丸百貨店)の『衣裳』(明治41年5月~8月号)ほか、情報メディアの出展が参考になる。[竹内有子]

2013/05/08(水)(SYNK)

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「魔性の女」挿絵(イラストレーション)展

会期:2013/04/04~2013/06/30

弥生美術館[東京都]

少女読者向けに描かれた「カワイイ」女性像を取り上げることが多い弥生美術館の展覧会であるが、今回の展覧会のテーマはその対極とも言える「魔性の女」である。明治末から昭和初期にかけて、日本文学にさまざまな魔性の女たちが現われる。夏目漱石『虞美人草』(明治40)の藤尾、谷崎潤一郎『痴人の愛』(大正13)のナオミ、江戸川乱歩『黒蜥蜴』(昭和9)の緑川夫人などはその代表的な例であろう。そしてそれらの物語には同時代の画家たちによってすばらしい挿絵が添えられた。本展では小村雪岱、高畠華宵、蕗谷虹児などの画家のほか、橘小夢、竹中英太郎、水島爾保布、月岡夕美など、歴史に埋もれてきたイラストレーターたちの作品約400点が紹介されている。
 いったい「魔性の女」とは何者なのか。学生たちに聞いてみると、美人であることを前提として、自らの欲望に忠実で、そのために男性を支配するが、それが必ずしも意識的に行なわれるとは限らず、単純に「悪女」とは言い切れない女性像がイメージされる。人物としては、壇蜜、沢尻エリカ、杉本彩、芹那、吉高由里子、峰不二子などの名が挙がった。本展で紹介されている小説に現われ、挿画に描かれた女性像も多様で、妖艶な魅力によって男性を滅ぼす者もいれば、自らが恋に滅ぶ者もいる。「カワイイ」とされる女性像がおもに無邪気で受け身な少女として描かれるのに対して、意志を持った大人の女性として描かれているところが「魔性の女」たちの一般的な特徴といえようか。その意志の強さが、ときに男性を翻弄して破滅へと追いやる女性として、またときには逆に自らを破滅させる人物として描かれてきたのであろう。他方でそうした女性たちが描かれ、人々に受け入れられたのが、日露戦争終結から満州事変勃発までの短い期間であったことは、挿絵の歴史を見るうえで意識しておきたい。[新川徳彦]


左=橘小夢/画「水魔」
右=水島爾保布/画「人魚の嘆き」
ともに提供=弥生美術館

2013/05/09(木)(SYNK)

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特集展示 ピカソの版画と陶芸

会期:2013/04/06~2013/07/15

国立国際美術館[大阪府]

同館の寄託作品のなかからピカソの版画と陶芸作品を厳選し紹介する展覧会。20世紀美術を代表する巨匠パブロ・ピカソ(Pablo Picasso, 1881-1973)は作風がめまぐるしく変化した画家として有名だが、同時に版画や陶芸作品も数多く残している。同展で紹介されているように、初期版画の仕事のなかで、とくに顕著なのは物語性に富む連作。古代ギリシア・ローマの世界や神話的テーマを多く扱っていた。ピカソの陶芸の仕事は1947年夏にはじまったようだが、以来、3,300点を超える作品を制作したという。どの作品も中国の青磁のような完璧さや完成という概念にとらわれることなく、自由で鮮やかである。エネルギッシュな天才が素材(=土)の味を楽しんでいたような気がした。[金相美]

2013/05/10(金)(SYNK)

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日本タイポグラフィ年鑑 2013 作品展

会期:2013/04/19~2013/05/16

竹尾見本帖本店[東京都]

日本タイポグラフィ年鑑の2013年の入賞作品展。本年のグランプリは中野豪雄氏が手がけた『建築雑誌』のエディトリアルである。日本建築学会が刊行する『建築雑誌』は明治20年から続く「日本最古の建築メディア」で、2年ごとに編集委員と誌面のアートディレクターが入れ替わることになっているという。東日本大震災後の2012年から始まった今期の『建築雑誌』は災害と建築との関係を大きな主題としている。そうしたテーマに対し、中野氏は各号の特集に関連するさまざまなデータを用いたダイアグラムを制作し、それを表紙に提示する。たとえば2012年1月号では、1970年から40年間の東北地方の人口データと地形図とを組み合わせて示し、震災に到るまでの土地と人との関係を描く。2012年2月号では、太平洋の地図上に東日本大震災によって生じた津波の高さ、時間的推移、その影響範囲という三つのデータが重ねられ、時間と空間の両面からその影響を読むことができるようになっている。すなわち、表紙で問題の所在を示し、本文でその解決を議論するという構造になっているのである。この手法は、中野氏がデザインを手がけた「世界を変えるデザイン展」(東京ミッドタウン・デザインハブ、2010年5月15日~6月13日)に共通する。「世界を変えるデザイン展」は、途上国における多様な問題をデザインによって解決しようというプロジェクトであった。会場入口に掲げられたダイアグラムには、八つの課題別に地域・人口・所得・問題の程度の四つのデータがひとつの座標軸に示されたダイアグラムが提示されていた。すなわち、これから会場で見るプロダクトが対峙する課題、対象となる地域の世界における位置づけ、日本との比較などを可視化するものであった。
 ダイアグラム・デザインの多くが情報を削ることでわかりやすさを実現しようとしているのに対して、中野氏は逆のアプローチをとる。ひとつの座標に重なり合った複数の情報のレイヤーは、多様な視点、組み合わせでデータを読むことを可能にする。読者は見るのではなく「読む」という能動的な理解を求められることで、その奥に広がる情報や議論への参加をうながされるのだ。[新川徳彦]


左=『建築雑誌』2012年1月号(日本建築学会)
右=同、2月号

2013/05/10(金)(SYNK)

富士篤実「LOST LAST BOY」

会期:2013/05/11~2013/05/19

gallery 10:06[大阪府]

写真専門のギャラリーで画家が個展を行なうとあって、頭のなかに疑問符を浮かべながら本展に出かけた。いざギャラリーに到着すると、そこには普段とは一変した展示室が。4つの壁面は巨大な壁画で埋め尽くされ、その一角には約10点のタブローの小品と、壁画のコンセプトや登場人物の詳細を記したメモ書きが展示されていた。壁画をはじめとする作品は、少年の夢を綴ったファンタジーのような趣で、これまでの彼の作品よりメルヘン性が強い。富士は以前からこのような展示を構想していたが、なかなか会場が見つからず、仕事を通じて知り合ったギャラリーのメンバーから同意を得て実現の運びとなった。夢をかなえたアーティストと、快く場所を提供したギャラリーに拍手を送りたい。

2013/05/11(土)(小吹隆文)

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