artscapeレビュー

2013年10月01日号のレビュー/プレビュー

第8回 金の卵 オールスターデザインショーケース「産学協同/地域連携──現場で育て未来のチカラ」

会期:2013/08/29~2013/09/08

AXISギャラリー[東京都]

2011年、第6回のテーマは「日常/非常 ハイブリッド型デザインのすすめ」。2012年は「スマートライフ──エネルギー再考」。前2回が社会的な課題の発見と解決をテーマとしていたのに対して、今年は「産学協同/地域連携」。社会との関わりが限定的なうえ、なにが課題となるのかは企業・製品によって異なるために、出品作には互いの連関がない。思考のプロセスも比較しづらく、これでは特定の企業が主催する学生向けデザインコンペのほうが面白いのではないだろうか。昨年と比べて良かった点は、来場者が気に入った作品に貼る丸いシールに、あらかじめ作品番号が記されていたこと。昨年の方式では同じ作品に一人が何枚もシールを貼る可能性があった。とはいえ、フェイスブックの「いいね!」と同様、作品の良さよりもお友達の多さを競っている印象は否めない。[新川徳彦]

2013/09/06(金)(SYNK)

PARTY そこにいない。展

会期:2013/09/04~2013/09/28

ギンザ・グラフィック・ギャラリー[東京都]

遠い場所で起きている出来事を離れた場所で見る、聞くという行為は、ラジオやテレビという媒体でも可能であるが、その感動、驚き、悲しみの感情を、互いに離れた場所にいる視聴者同士が同時に共有することは難しい。しかし携帯電話のメール、twitterやLINEなどのサービスの登場によって、その出来事の場にいなくても、人々はそれを視聴し、互いの感想をほぼタイムラグなく共有することができるようになってきた。もはや私たちはなにかが起きているその場にいなくても、そこにいるのと同様の体験が可能である。伊藤直樹、清水幹太、中村洋基、川村真司らによって2011年に設立されたクリエイティブラボ「PARTY」は、こうした新しい技術がもたらす新しい体験を活かした仕事を多数手がけているユニットであり、何れのメンバーも数々のデザイン賞・広告賞を受賞している。「PARTY そこにいない。」展は、彼らの仕事を紹介する展覧会である。
 会場を入ってすぐ裏側の壁には、PARTYのオフィスの写真が貼られている。その前には展望台にあるような望遠鏡。覗くと、現在のPARTYのオフィスの様子が見える。オフィスに置かれたカメラと望遠鏡が連動しており、望遠鏡の向きを変えるとカメラの視界も移動するしくみである。無印良品の旅行用品「MUJI to GO」のキャンペーンを紹介するコーナーでは、キャンペーンのロケ地ホワイト・サンズで吹いている風のデータによって送風機を動かし、リアルタイムでホワイト・サンズの風を再現する。もっとも面白かったのは過去のCM作品や、NHK「テクネ 映像の教室」の映像作品を紹介するコーナー。彼らの過去の仕事はウェブサイトで見ることができるのだが、展覧会場ではそれを一風変わった方法で見せている。プロジェクターの前のリモコンの数字を押すと見たい映像を再生できるしくみ。と書くと、極めて普通の話なのだが、プロジェクターに写っているのはどこかの誰かの部屋のテレビ。展覧会場のリモコン・ボタンを押すと、その部屋の誰かのiPhoneにメールが届き、その誰かが部屋のテレビのリモコンを押して画面に写る番組を変えてくれるのだ! つまり、私がリモコンによってコントロールしているのはテレビではなく、どこかの部屋にいる誰かということになる。そして展覧会場にいる私は、どこかの部屋に設置されたテレビを写すカメラの映像を、ネットを通じて目の前のプロジェクターで見るという、デジタルなのかアナログなのかよくわからない体験をするのである。
 彼らが使用しているコンピュータやソフトウェアなどの新しいテクノロジーの変化の速度は速い。すぐに陳腐化してしまうのではないだろうか。否、伊藤直樹はメッセージを伝えるものはテクノロジーや仕組みではなく、人の心を動かすものは表現であるということを強調する★1。じっさい、伊藤の過去の仕事を見ると、「仕組み」はつねに更新されているが、身体を使うこと、皮膚で感じること、人と人とがコミュニケーションを計ること、感動を共有することといった、表現の基本は変わらない。彼らにとって、テクノロジーは「表現」に新しい体験を与える媒体、インターフェースという位置づけにあると考えられようか。[新川徳彦]

★1──伊藤直樹『「伝わる」のルール──体験でコミュニケーションをデザインする』(インプレスジャパン、2009)、188頁。

2013/09/06(金)(SYNK)

山部泰司 展・溢れる風景画

会期:2013/09/03~2013/09/12

LADS GALLERY[大阪府]

主にベンガラ色で描かれた山部泰司の新作絵画。そこには深い森と、森を侵食する洪水や滝などが描かれていた。どこか黙示録的世界を思わせる情景だが、よく見ると森や樹木の大きさが部分ごとにまちまちで、遠近法も1点ではなく複数が脈絡なく展開している。つまり作品中に複数の情景がパッチワークされ、ひとつの大きな情景へと収斂しているのだ。ディテールを目で追うと矛盾の連続で、その都度脳内でイメージを修正しなければならない。でも、決して不快ではない。むしろ目の快楽が勝っているのだ。なんと不思議な絵画作品だろう。近年の山部は、古典絵画に描かれた樹木や森を引用した作品を発表し続けてきた。それがまさかこのような形で結実するとは。本展は、近年の山部の仕事を総括する重要な機会であった。当方にとっても、この間彼の作品を見続けてきたことが報われた気がして感慨深かった。

2013/09/06(金)(小吹隆文)

Konohana's Eye ♯2 加賀城健 展「ヴァリアブル・コスモス|Variable Cosmos」

会期:2013/09/06~2013/10/20

the three konohana[大阪府]

染色工芸の世界では失敗とされるボケやブレなどを積極的に取り込んだ作品を発表し、現代美術としての染色に新たな価値を付加してきた加賀城健。近年の個展では絵画を意識したタブロー形式の作品が多かったが、本展では、インスタレーション、壁画、屏風、反物をそのまま用いた長大な作品など、バリエーション豊かな表現が見られた。筆者自身、こうした枠にはまらない作品が加賀城との出会いだったので、今回の展開は望むところ。作品の伸びやかさから察するに、作家自身もタブロー形式に少々気詰まりを感じていたのではなかろうか。本展を機に、加賀城が新たな段階に入ったのだとしたら嬉しい。

2013/09/07(土)(小吹隆文)

ヴィクトリア時代の室内装飾──女性たちのユートピア展

会期:2013/08/25~2013/11/19

LIXILギャラリー[大阪府]

英国・ヴィクトリア時代(1837-1901)といえば、真っ先に過剰なまでの装飾が思い浮かぶ。もちろん過剰かどうかは個人の好みの問題だが、ヴィクトリア時代の人たち、とくに女性たちの関心が室内装飾に向けられていたことに間違いはない。その背景には産業革命による中産階級の台頭と、工業化や都市化、交通手段の発達により進んだ「職住分離」があるという。つまり、これまでとは異なる「家」の概念が現われ、経済的に余裕のある中産階級の女性たちが理想の家庭(家)をつくるため、室内装飾に情熱を注いだ時代であったということだ。展覧会ではそうしたヴィクトリア時代の室内装飾が垣間見られる、写真パネル、雑誌や絵本の資料、再現コーナーなどが設けられており、当時の雰囲気を伝えている。[金相美]


展示風景


暖炉まわりの再現空間


ドールズハウス「アイビー・ロッジ」(1886)


当時の雑誌や絵本


ヴィクトリアン・タイル

2013/09/09(月)(SYNK)

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2013年10月01日号の
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