artscapeレビュー

2013年10月01日号のレビュー/プレビュー

プレビュー:旧羽室家住宅アート・プロジェクト 森口ゆたか「子どもの情景─時を超えて─」

会期:2013/10/12~2013/10/20

原田しろあと館(旧羽室家住宅・原田城跡)[大阪府]

中世の貴重な城郭跡であり、昭和初期の建築遺産でもある、原田しろあと館(旧羽室家住宅・原田城跡)。応仁の乱を記す古い文献や織田信長の出城として戦国史に名を残す場所であり、明治末以来の郊外住宅地のシンボルでもある同館を舞台に、美術家の森口ゆたかがサイトスペシフィックな展覧会を行なう。近年の森口といえば、映像インスタレーション作品による個展や、NPO法人を設立して医療現場へのアートの導入を図るホスピタル・アートの活動で知られている。その根底にあるのは人と生命を慈しむ心であり、本展でも子どもたちの古写真や長年の記憶をとどめた調度類などを素材に、追憶のかなたから淡い心象風景が立ち上るような展示を行なう予定だ。過去と現在が幾重にも往還し、美しいエコーに満ち溢れた空間が出現することを期待する。

2013/09/20(金)(小吹隆文)

プレビュー:超京都2013「現代美術@平成の京町家」

会期:2013/10/04~2013/10/06

平成の京町家モデル住宅展示場KYOMO[京都府]

京都の伝統文化を色濃くたたえた場所で現代美術展を行なうことにより、双方の新たな可能性を模索してきた「超京都」。2010年の杉本家住宅(江戸時代以来の商家・町家)、2011年の名勝渉成園(東本願寺の飛地境内地・庭園)に続く3回目の今回は、平成の京町家を提案するモデル住宅展示場「KYOMO」を会場に選んだ。京町家の伝統的な外観と空間性を継承しつつ現代の技術・性能・デザイン・エコロジーを加味した平成の京町家は、「超京都」のコンセプトと見事に合致する。参加画廊は、hpgrp GALLERY TOKYO、イムラアートギャラリー、MATSUO MEGUMI+VOICE GALLERY pfs/w、ミヅマアートギャラリー、MORI YUGALLERY、小山登美夫ギャラリー、ヨシアキイノウエギャラリーの7つ。また、京都市立芸術大学が特別展示で参加していることにも注目したい。

写真=会場イメージ

2013/09/20(金)(小吹隆文)

プレビュー:日本の男服─メンズ・ファッションの源泉─

会期:2013/10/11~2014/01/07

神戸ファッション美術館[兵庫県]

ファッションの展では、どうしても女性が主役になりがちだ。しかし、それが男女共通の文化である以上、メンズ・ファッションにも語るべき歴史と文化がある。本展は、明治から戦後に至る日本の男服に真正面から挑んだ注目すべき展覧会だ。明治5(1872)年の太政官布告で制定された文官大礼服に始まり、制服、軍服、学生服、背広を通して一般化した日本人男性の洋装。戦後になるとアイビー・スタイルの「VAN」やヨーロピアン・モードを取り入れた「エドワーズ」が登場し、若者文化としての男性ファッションが花開く。その過程を実物で知ることができるのだから本展は貴重だ。普段は明るくて華やかな会場が黒々としてしまうかもしれないが、この稀有な機会を見逃したくない。

2013/09/20(金)(小吹隆文)

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プレビュー:中島麦「星々の悲しみ blue on blue」

会期:2013/10/04~2013/10/27

Gallery OUT of PLACE[奈良県]

風景を起点に、単純化した構図と鮮やかな色面による半抽象的絵画を発表してきた中島麦。彼はいま、新たなシリーズに挑戦している。それは、マーブル模様のように色彩がせめぎ合う作品と、画面全体をむらなく単一色で塗り込めた作品を併置したものであり、一種のインスタレーションとしても機能する。彼が目指すのは、両極端な世界を対峙させることで得られるミクロとマクロを往還するような感覚であろうか。筆者はまだ一度しかそのシリーズを見たことがないので、彼の新シリーズをたっぷり見られる今度の個展に大きな期待を寄せている。

2013/09/20(金)(小吹隆文)

ほうほう堂「ほうほう堂@おつかい」

会期:2013/09/21~2013/09/22

あいちトリエンナーレ2013会場ほか[愛知県]

ぼくはこの公演を上演の現場ではなくiPhoneの画面で見た。あいちトリエンナーレ2013の委嘱作品である本作は、長者町を中心に、栄の街をあちこちと移動しながら踊るという一風変わった公演で、肉眼でつぶさにパフォーマンスを逐一追うという鑑賞スタイルは不可能。その分、パブリックビューイング、踊る場で待ち構える、Ustream中継で見る、という3種類の鑑賞があらかじめ用意されていた。ダンスの作品発表は舞台公演の形式をとらなくてもよいのではとぼくはかねてから思っていたので、今回の上演には未来を先取りするところがあると期待していた。舞台公演というのは、時間のみならず場所も制限しており、この二重の制限は、ネットが浸透した時代にあまりにも不自由ではないか。肉体表現はライブでなければならないというもっともらしい考えも、本当に検討するべき課題を先送りするための言い訳になっていはいないか。新作をYouTubeで公表する作家がいてもいいのだ。そう、例えば、ほうほう堂はすでに3年ほど前から、戸外のあちこちに繰り出して踊り、それを映像に収めてYouTubeに投稿してきた先駆者だ。今回の上演は、そうした活動の集大成だという。ぼくは、上演予定の15時30分にはまだ家族と江ノ島で遊んだ帰り道で、街中にいた。そんなルーズさでも鑑賞体験が成立すると言うことに、まずは痛快さを感じた。さて、放送を見ると、和菓子屋のCMが始まっていた。会場から会場へと移動するあいだなどにも用いられたこのCM。「おつかい」がテーマであることともあいまって、栄周辺がどんな街で、どんな歴史・伝統を宿しているのか、現在の課題はなんなのかを、このCMは伝えてくれる。このCMという仕組みがとくにそう思わせるのだが、この上演は放送が前提になっていたのは驚きだ。ほうほう堂は、CMがフォローした場所を含め、県庁舎や長者町の倉庫、喫茶店、花屋、ビルの屋上などで踊った。彼女たちの踊りは、ミニマルな動きを反復したり、ユニゾンしたり、2人でずらしたり、シンプルで短いフレーズの連続する様が特徴。それは映像化したときに、ちょっとした武器になる。スローモーな動きとか、見る者に緊張を強いる動作だと、映像では伝わりにくい。しかも、まだネット中継の基盤が整っていない現状では、しばしば映像の中断が起こるので、一層、数秒でまとまったニュアンスが伝わる振付のほうがよいのだ。彼女たちの気負いのない、気取りのない、些細だけれど、フレンドリーなダンスは、観客と現場とを上手くつなぎ合わせ、結び合わせる糸の役割をはたしていた。ただ、その糸にもっと独特さを感じさせる「よれ」があってもよいのでは、とも思ってしまった。CMなどとくにそうなのだが、彼女たちの眼差しが特にどこにこだわり、どこに「あいち」の潜在的な力を見いだしたのか、そこにハッとさせられる点があってもよかったのではないか。とはいえ、個性のごり押しで作品が小さくなるよりはよいのかも知れない。ほうほう堂が進めたこの一歩から、どんなネクストが起こるのか? コンテンポラリー・ダンスの未来はこのあたりに鍵があるような気がしてならない。

『ほうほう堂@おつかい』あいちトリエンナーレ2013 ダイジェスト映像

2013/09/22(日)(木村覚)

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