2018年04月15日号
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artscapeレビュー

2013年10月01日号のレビュー/プレビュー

おみやげと鉄道

会期:2013/08/06~2013/11/24

旧新橋停車場「鉄道歴史展示室」[東京都]

2001年に大英博物館で「現代日本のおみやげ(Souvenirs in Contemporary Japan)」(2001年6月14日~2002年1月13日)という小展示が開催された。「おみやげと鉄道」展は、この展覧会を見て関心を持った企画者(鈴木勇一郎・立教大学立教学院史資料センター学術調査員)が進めてきた研究の成果だそうだ。大英博物館での展覧会リーフレットによれば、西洋での日本人観光客のイメージは、パッケージツアーの利用と、多くの高額なお土産品の購入にあるという。こうした日本人観光客の行動は、海外旅行が一般的になる以前から、あるいはいまでも国内旅行において見られる現象である。家族や親戚、近所の人々、あるいは会社の上司や同僚にちょっとしたお土産を渡すことは、日常的に行なわれている。それではいったいどのような商品がお土産品として選ばれてきたのか。本展では、それを鉄道網の発展と関連させて見せる。
 旅行者向けの地方の名物やお土産物の種類は時代とともに変遷してきた。旧街道の名物が鉄道の開通によって衰退した例や、鉄道の開通によって発展した名物が、鉄道ルートの変化によって衰退した例もある。保存性の点からかつて食品類は現地で消費されるものであったが、輸送スピードの革新はそれをお土産品へと変えていった。駅弁など鉄道駅構内での営業許可によって登場した新たな名物やお土産品もある。お菓子がお土産品として一般化するのは、日清・日露戦争前後。菓子税の廃止と台湾領有による製糖業の振興がその背景にあるという。展覧会ではこうした制度的な変化の影響のほか、お伊勢参りや博覧会が名物やお土産に与えた影響を探っている。
 交通網の発達は、すなわち流通網の発展をもたらす。地方の名物は物理的にはどこにいても入手可能になり、またその原材料もどこからでも調達可能になっている。本展でも指摘されているように、商品と地域との結びつきは希薄化している。現在ではお土産品の素性をたどっていくと、必ずしもその地域でつくられていなかったり、その地域の素材が用いられていない例はたくさんある。大手メーカーが手がけるご当地商品はその代表的な例であろう。それでも観光客はお土産を買うし、その際にはなんらかの地域色を求める。社会やシステムの変化の速度に比べて、お土産を求める日本人の心性はさほど変化していないように思われる。そこにお土産品の供給者はどのように応えているのか。商品開発という点でもパッケージデザインの点でも注目されている分野であり、さらに掘り下げてみたいテーマである。[新川徳彦]

2013/08/16(金)(SYNK)

若手芸術家・キュレーター支援企画 1floor 2013 黄色地に銀のクマ∪(あるいは)スーパーホームパーティー

会期:2013/08/24~2013/09/16

神戸アートビレッジセンター[兵庫県]

神戸アートビレッジセンターの「KAVCギャラリー」と「1room」を舞台に、若手アーティストが展覧会やイベントを行なう「1floor」。展覧会実施までの各段階でアーティストが積極的に関与し、その過程をウェブで公開しているのが特徴だ。今回選ばれたのは、共に1980年代後半生まれの谷本真理と野原万里絵の2名。谷本は陶芸、木材、ビニール紐、食物などを駆使したインスタレーション、野原は平面作品によるインスタレーションを発表したが、会場は両者の境界がわからないほど一体的な空間に仕上がっており、まずそのことに驚かされた。次に、両名とも自分の意思ではコントロールできない偶然性の介入や、ある種のルールを設けることで表現の可能性を広げる点に特徴があり、プロセスを重視する姿勢や素材・手段に対する柔軟性が際立っていた。毎回興味をそそられる「1floor」だが、今年の出来栄えは頭ひとつ抜きん出ていたように思う。

2013/08/24(土)(小吹隆文)

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幸村真佐男 展 | LIFE LOG─行雲流水─

会期:2013/08/02~2013/08/31

N-MARK B1[愛知県]

日本におけるコンピュータ・アートの先駆者ともいえる幸村真佐男の個展。今年で70歳を迎える幸村の作品に、ただただ圧倒された。
展示されたのは、代表作である《非語辞典》と、文字どおりのライフワークである《LIFE LOG》。コンピュータによって文字をランダムに組み合わせる《非語辞典》は、ありうる文字の配列を計算可能な限りすべて網羅する、とてつもない作品だ。印刷された紙はすべて製本され、事典のように分厚い本として見せられる。本展で発見された《行雲流水》は、四字熟語のうち「雲」と「水」だけを固定したうえで、残りの2つにありとあらゆる漢字を当てはめていくもの。規則的に変換していく漢字の様態に美しさを感じないわけではないが、それより何より、あまりにも膨大な漢字の質量に辟易せざるをえない。
その圧倒的な質量は《LIFE LOG》でも十全に発揮されている。幸村自身が日常的に撮影してきたスナップ写真、およそ300万枚をつなぎ合わせ、それらを高速で見せていく。そのスピード感は凄まじく、とても被写体を正しく認識することなどかなわない。しかもすべてを見ようとした場合、27時間も必要とされるという。
幸村の作品に顕著なのは、強力な身体性である。それが従来のコンピュータ・アートやコンセプチュアル・アートに見られない特質であることは間違いないが、だからといって身体パフォーマンスや手わざの痕跡を直接的に感知できるわけでもない。正確に言えば、目に映る文字や写真といったメディアの背後に、幸村自身の並々ならぬ衝動や欲望をまざまざと感じ取ることができるのだ。こうした表現のありようは、ひそやかで思慮深い、今日の若いアーティストには望めない特質だが、だからこそひときわ輝いている。

2013/08/24(土)(福住廉)

石塚源太 つやのふるまい

会期:2013/08/27~2013/09/08

アートスペース虹[京都府]

複雑な曲面を持つオブジェ3点と、カッターナイフの刃で雪の結晶らしき模様をあしらった平面作品が2点。いずれも漆芸作品である。今回注目すべきは前者で、複数の円環が連続するフォルムが漆で覆われ、表面の艶(つや)がこれでもかとばかりに強調されていた。石塚は磨き込まれた表面の艶が漆芸の魅力の最たるものと考えており、艶が最も引き立つ形としてこれらの作品をつくり上げた。凸面はともかく凹面の研磨は困難であり、専用の道具を自作してこの難題を克服したそうだ。何ものにも似ず実用品でもないこれらの物体は、もっぱら美のためだけに存在している。その潔さもまた美しいと言うべきであろう。

2013/08/27(火)(小吹隆文)

アートピクニック vol.3 マイホーム ユアホーム

会期:2013/08/31~2013/10/06

芦屋市立美術博物館[兵庫県]

わが家、住宅、家族、国、故郷など、さまざまな意味を内包する単語「ホーム」をテーマに、8組の作家を紹介した本展。さまざまな職業に扮したコスプレ家族写真で知られる浅田政志、取り壊される建物の記憶を建築部材によるウクレレで継承する伊達伸明など、どの作品もユニークかつ親しみやすいものであった。現代美術作家と美術教育を受けていない作家を同列に展示しているのも本展の特徴で、小幡正雄の段ボール絵画や高知県の沢田マンションの記録が美術家の作品と共演していた。そこには美術か否かよりもいまのわれわれにとって切実なことを優先する姿勢が感じられる。学究的な企画だけでなく、このような等身大の現代美術展も大切にしたい。

2013/08/31(土)(小吹隆文)

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2013年10月01日号の
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