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2013年11月01日号のレビュー/プレビュー

東洋学の歩いた道「マルコ・ポーロとシルクロード世界遺産の旅──西洋生まれの東洋学」

会期:2013/08/07~2013/12/26

東洋文庫ミュージアム[東京都]

東洋文庫での展覧会タイトルは「マルコ・ポーロとシルクロード世界遺産の旅──西洋生まれの東洋学」。『東方見聞録』に記されたマルコ・ポーロの足跡をたどりつつ、東洋文庫が擁する貴重書コレクションを通じて西洋から見た東洋を俯瞰する試みである。東洋文庫は大正13(1924)年に三菱第3代社長岩崎久彌が設立した。設立の基盤となったのは、ロンドンタイムズ北京特派員で中華民国総統顧問を務めたG・E・モリソンが蒐集した中国に関するヨーロッパの文献約2万4000点である。その他のコレクションを加え、現在では日本・アジア・アフリカに関する学術資料約100万点を所蔵する。もともと「東洋」とは、西洋人にとって自分たちの以外の領域を指し示すものとして現われた概念であり、アジアを旅した商人や探検家、宣教師などによって知識が記録され、探求心が醸成されてきた。マルコ・ポーロ(1254-1324頃)はその先駆者であり、『東方見聞録』は大航海時代の探検家たちも愛読したベストセラーであった。展示前半は、書籍としての『東方見聞録』にフォーカスする。東洋文庫はさまざまな国で刊行された『東方見聞録』77種類のコレクションを擁しており、これらが一堂に展示されている。もっとも古いものは、1485年にアントワープで刊行された活版印刷版。コロンブスも同じ版を持っており、これを繰り返し繰り返し読んでいたという。後半の展示は、東洋文庫のコレクションによって、マルコ・ポーロが訪れた主要な都市を紹介する。たとえばフランス人商人ジャン・シャルダンによる『シャルダン東方旅行記』(1735)に描かれたペルシャの風景や、イタリアの修道士プラノ・カルピニ『モンゴル人の歴史』(1706)によるモンゴル帝国の調査報告書である。そのほかヨーロッパでつくられたアジアの地図など、西洋人が「発見」した東洋の姿には興味が尽きない。こうした東洋文庫のコレクション形成には、学習院から帝国大学に移った白鳥庫吉らが尽力した。その白鳥は昭和14(1939)年に東洋文庫の第4代理事長に就任。また、永青文庫を設立した細川護立は第7代の理事長であり、ここにも学習院の人脈を見ることができるのである。[新川徳彦]

2013/10/25(金)(SYNK)

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プレビュー:室伏鴻プロデュース「〈外〉の千夜一夜」

会期:2013/11/19~2013/11/24

横浜赤レンガ倉庫1号館[神奈川県]

今月のおすすめは、舞踏家・室伏鴻がプロデュースするイベント「〈外〉の千夜一夜」です。「瞬間の学校」という名のワークショップなどで最近はその存在は知られているものの、海外での目覚ましい公演活動に比して、国内での室伏本人の踊りを見たり、彼の思想を知ったりするチャンスはけっして多くありませんでした。今回のイベントは、そんな室伏欠乏状況にあって貴重な機会です。新作ソロ『リトルネロ──外の人、他のもの』をはじめ、大谷能生や芥正彦といった彼と親交の篤い表現者との共演など、伝説の存在になりがちな室伏鴻の現在の姿を目撃できる計6種類の上演が揃っています。それだけではありません。イベント期間中には、宇野邦一、石井達朗、鈴木創士&丹生谷貴志、桜井圭介&三田格などによるトークが数多く用意されています。ぼくも大谷さんと「映像化されたダンスから新しいダンスを開発する方法」というタイトルでトークします。録音された音を活かすことで20世紀以降の音楽は飛躍的に発展していったわけですが、ダンスにおいても「映像化された身体」によってそうした劇的な変化が起きようとしています。その激動を積極的に考える方途について大谷さんと模索します。「舞踏」に限らず、ダンスや社会の未来について考える濃密な1週間です。

2013/10/31(木)(木村覚)

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