artscapeレビュー

2013年12月01日号のレビュー/プレビュー

palla/河原和彦 作品展「Natures─PALLALINKの10年」

会期:2013/10/22~2013/11/10

海岸通ギャラリー・CASO[大阪府]

pallaこと河原和彦と、彼を中心とするアーティスト・ユニットPALLLINKの、活動10年を記念した大規模展。河原の作品の特徴は、1枚の写真を幾重にも反転し重ねることにある。シンプルな反復作業から生まれるイメージは、驚くほど幻惑的で豊穣だ。当初は都市をモチーフにしていたが、その後、緑や海などの自然環境にまで範囲を拡張し、多様な作品を発表している。本展では、広大な3つの展示室を使用し、河原とPALLALINKの活動を網羅的に紹介していた。また、2点の新作のうち映像インスタレーション《運ぶ人/引き摺る男》(画像)は、ストーリーがある映画的な作品だった。この新機軸が今後どのように展開するのか楽しみだ。

2013/10/23(水)(小吹隆文)

あなたの肖像─工藤哲巳 回顧展

会期:2013/11/02~2014/01/19

国立国際美術館[大阪府]

1994年以来、約20年ぶりとなる工藤哲巳の大回顧展。前回も大規模だったが、今回は総点数約200点と一層のスケールアップを果たしている。その主因は、前回はフォローし切れなかった1950年代・60年代の作品が数多く出品されたことだ。また、20年の歳月が工藤の再評価を進め、国内外の美術館で彼のコレクションが形成されるようになったのも大きい。帰国作品のなかには、《インポ分布図とその飽和点における保護ドームの発生》(ウォーカー・アート・センター蔵)のように、半世紀ぶりに国内公開されたものもあった。このように充実した内容のおかげで、本展では、反芸術から滞欧時代を経て1980年代以降に至る彼の業績をほぼ概観できる。同時に、工藤流ニヒリズムとでも言うべき思想の変遷を窺えるのも見どころだ。他には、大著となった図録の充実ぶりも特筆しておきたい。

2013/11/01(金)(小吹隆文)

artscapeレビュー /relation/e_00023938.json s 10094038

ヤマハ株式会社 デザイン研究所50周年企画展「DESIGN RECIPE」

会期:2013/10/30~2013/11/04

AXISギャラリー[東京都]

この展示会を見て感じたのは、デザインにおける時間軸の長短、あるいは寿命の存在である。プロダクトによってデザインの消費のされかたには違いがある。それは北欧のデザインには長く愛されているものが多く、日本のデザインの寿命は一般に短いと言われるようなことである。とはいえ、この議論はプロダクトの性格や製造企業のポリシー、流通や消費のありかたを無視して総論を述べることにはあまり意味がないように思う。さしあたり楽器デザインの寿命は長く、変化は緩慢であり、それはことさらアコースティック楽器において顕著であるようだ。使用者や音楽の消費のされ方、社会や市場における位置づけが変化しても、その形はほとんど変わらない。それは弦楽器であれ、管楽器であれ、素材や形そのものが音を生み出すための構造であり、安易に変えることができないという特性ゆえでもある。装飾のためだけになにかを付け加えることは音に影響するばかりではなく、操作性をも損ないかねない。すなわち、究極的な機能主義デザインが求められる世界なのである。ただし、据え置き型の楽器であるピアノやオルガンには、比較的デザインの自由度があるという。
 音を生み出す仕組みと形とを分離できれば、デザインの自由度は高まる。それゆえ現代の楽器デザインの主要なフィールドは電子楽器にある。本展に出品されているプロダクトも、そのほとんどが電子楽器である。しかし、会場を一周すると、たとえ電子楽器であってもその大部分はアコースティック楽器のデザインをリファレンスとしていることがわかる。まったくこれまでにない形のものは、「テノリオン」ぐらいではないだろうか。そもそもこれはリファレンスとすべきオリジナルが存在しない新しい楽器である。電子楽器のデザインにおける制約は演奏のための機能性ばかりではなく、楽器が置かれる環境、楽器に対して奏者や聴衆が抱いているイメージ、舞台におけるパフォーマンスの見映えなど、さまざまなものがある。もちろん、価格も重要な制約条件であろう。そしていわゆる消費財との大きな違いは、楽器は演奏者にとって道具であり、使い込むことによって両者が一体となってゆく存在である点にあろう。それゆえ頻繁な買い換えは望めない。自動車や家電製品のように毎年のモデルチェンジが消費をうながすというビジネスモデルは成り立たない。実際、ヤマハでは10年間使われ続けることを前提にデザインしていると教えてもらった。
 このように制約が多く変化が緩慢な楽器の世界でありながらも、ヤマハは着実に新しいデザインを生み出している。ヤマハ(旧・日本楽器製造)がすでに50年前、1963年(昭和38年)にデザイン部門を設置していたということには驚いた。ヤマハの経営を多角化させていった川上源一社長の時代である。しかも、設置に先立ち美術学校の優秀学生を奨学生として採用し、「入社後二ヶ月半にわたりデザインの勉強のため欧米諸国を視察し、帰国してからは、東京支店の店舗を初め、製品のデザイン、ポスター、カタログ等にその才能をいかんなく発揮した」というのである★1。50年以上前に播かれた種が、現在もヤマハのデザインとして花を咲かせつづけている。プロダクトやデザイン自体の時間軸の長さばかりではなく、優れたデザインを生み出す企業文化が継続することの重要性についても強く意識させる企画であった。[新川徳彦]

★1──『社史』(日本楽器製造株式会社、1977、128頁)。社内にデザイン部門が設置されたばかりではなく、楽器やモーターサイクルのデザインにおいてはGKデザインとの協業も行なわれている。

2013/11/01(金)(SYNK)

昭和モダン 絵画と文学 1926~1936

会期:2013/11/02~2013/12/29

兵庫県立美術館[兵庫県]

昭和最初の10年間に起こった文化のうち、絵画と文学に着目したのが本展だ。会場構成は、「プロレタリアの芸術」「新感覚・モダニズム」「文芸復興と日本的なもの」の3章からなり、第1章が圧倒的に面白い。絵画の岡本唐貴、柳瀬正夢ら、文学の小林多喜二、徳永直らの作品を通して、当時のプロレタリア運動の高揚がリアルに伝わるからだ。この熱狂ぶりを見ると、国家権力が非情な弾圧を加えた理由が理解できる。第2章では、絵画は古賀春江や川口軌外ら、文学は横光利一や川端康成らが見られる。彼らのアヴァンギャルドで洗練された表現は新興の美に溢れているが、熱量が第1章に及ばない。梅原龍三郎や安井曾太郎らが“日本的油絵”を模索した第3章に至っては、もはや老成というか、戦雲を前に安全地帯に退避したかのようだった。それにしても、わずか10年間にこれだけ凝縮した文化があったとは驚きだ。今後は昭和戦前期の見方を変えなければなるまい。

2013/11/02(土)(小吹隆文)

artscapeレビュー /relation/e_00023950.json s 10094039

注目作家紹介プログラム チャンネル4 薄白色の余韻 小林且典 展

会期:2013/11/02~2013/12/01

兵庫県立美術館 ギャラリー棟1階 アトリエ1[兵庫県]

蝋型鋳造による瓶や壺などの小彫刻と、それらを配置した静謐な写真作品で知られる小林且典。筆者が彼の作品と出合ったのは約7年前のこと。その後何度か個展に出かけたが、近年は不運にも機会を逸していた。それだけに、本展には大きな期待を抱いていたのだ。出品作品は、ブロンズ、木彫、写真、インスタレーションだった。特徴は、ブロンズより木彫が多いことと、水干顔料で白以外の彩色を施した作品があったことだ。これは、小林が2010年にフィンランドで滞在制作をした経験から生まれたものであろう。また、床に展示された木彫のインスタレーション、部屋の隅の水回り(会場は制作アトリエなので、ホワイトキューブではない)を利用したブロンズと木彫のインスタレーションも斬新だった。幸運にもレクチャーで本人と再会でき、イタリア留学時代の貴重な写真や、自作のレンズを見せてもらったのも収穫だった。

2013/11/02(土)(小吹隆文)

2013年12月01日号の
artscapeレビュー