artscapeレビュー

2013年12月15日号のレビュー/プレビュー

オープン・スペース2013

会期:2013/05/25~2014/03/02

NTTインターコミュニケーション・センター(ICC)[東京都]

ICCのオープンスペース2013展へ。ペ・ランのムービング・オブジェクトと和田永のオープン・リール・アンサブルは、振動や落下など、ともにシンプルな物理的運動だけで、こんなに美しい作品ができることに驚かされた。前谷康太郎も、アナログでユニークな効果をもたらす。ティル・ノヴァクは、遊園地の幾何学をハイパーにした作品で、建築系におすすめ。心象自然研究所の展示はかわいいし、他の作品も総じてよかった。

2011/11/17(日)(五十嵐太郎)

アーツ前橋開館記念展 カゼイロハナ 未来への対話

会期:2013/10/26~2014/01/26

アーツ前橋[群馬県]

開館記念展「カゼイロノハナ」は、地元の作家とその歴史を紹介しつつ、現代の工芸や書道も組み込み、前橋とゆかりのある文学者、音楽家、科学者らの仕事をアートに接続しながら、地域の豊かな資源を掘り起こす。綿密なリサーチをもとにした横断的なキュレーションである。カタログの前橋美術史年表も力作だ。
地域アートプロジェクトは、銭湯での伊藤存と幸田千依、ビルの一階を使う西尾美也、角地のアースケイプなど、まちなかの空きスペースを活用し、アーツ前橋の活動と連携している。またアーツ桑町や、八木隆行によるya-ginsのギャラリーなど、自主的に発生したアートスペースも出現していた。アーツ前橋の向いも、百貨店をリノベーションした前橋元気プラザ、アーケードに面しては、石田敏明さんによる学生向け居住施設が着工するなど、中心部でいろいろな動きがある。20年前に開館した前橋文学館では、萩原朔太郎推しで常設展を構成しているが、今度は、アートが前橋に新しい風を起そうとしている。
写真:上=西尾美也、下=ya-gins

2011/11/28(木)(五十嵐太郎)

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水谷太郎「new journal」

会期:2013/11/01~2013/11/23

Gallery916 small[東京都]

操上和美の「PORTRAIT」展を開催中のGallery916に付設する小スペースで、水谷太郎の作品を見ることができた。水谷は1975年、東京都出身。東京工芸大学卒業後、主にファッションや広告の分野で活動している。今回が初個展だそうだが、写真家としての能力の高さを感じとることができたのが収穫だった。
展示されているのは、どれも最近撮り下ろしたという3つのシリーズである。「White Out」は、アメリカ・カリフォルニア州を中心に撮影された路上の看板の写真(18点)。タイトルが示すように、それらの看板は白く(あるいはグレーに)塗りつぶされている。何かメッセージが描かれる前の「空白」は、被写体として心そそられるだけでなく、「意味」を消失した現代の社会状況を暗喩的に指し示しているようにも見えなくはない。「New Wilderness」は2枚ずつ対になった風景写真のシリーズ(10点)。撮影されているのは沼、森、火山地帯の岩などだが、水面への映り込みと水中の水草とを多重露光のように捉えたり、写真を逆さに展示したりといった微妙な操作を加えている。ここでも、現代社会における自然観の変容のあり方が、彼の心を捉えているということだろう。それに加えて1点だけ、本業のファッション写真として撮影された、UNDERCOVERのTシャツ(TIME OF RAGEというメッセージが発光LEDで描かれている)を身につけた若者の写真が展示してあった。
関心の幅の広さと、映像化のセンスのよさは、この世代の写真家たちのなかではかなり高度なレベルまで達している。次はテーマの絞り込みと深化が大きな課題になってくるはずだ。

2013/11/01(金)(飯沢耕太郎)

若江漢字「鏡界─転覆と反転」

会期:2013/09/28~2013/11/02

ユミコチバアソシエイツ[東京都]

若江漢字といえば、70年代におもに写真を用いて知覚と認識をめぐるコンセプチュアルな作品をつくっていたが、ドイツ滞在を機に80年代にはヨゼフ・ボイスに傾倒、90年代には横須賀にカスヤの森現代美術館を開設するなど、多彩な活動を展開してきた。でもその間ずっと作品を制作していたとは知らなかった。ティントレット《スザンナの水浴》や、プッサン《アルカディアの牧人たち》といったいわくありげな絵を引用したり、鏡を使った一見トリッキーな写真をとおして「見ること」の迷宮を楽しんでいる。こうしたデュシャン的コンセプチュアルアートに澁澤龍彦的マニエリスムを加えたペダンチックな70年代的テイストは、けっこう嫌いではない。

2013/11/01(金)(村田真)

横谷奈歩「鏡師、青、鳥」

会期:2013/09/28~2013/11/02

ハギワラプロジェクツ[東京都]

ギャラリーを紗のカーテンで分割し、さまざまな家具や道具と組み合わせたインスタレーションを発表。半透明の紗、鏡、映像、動物の剥製など虚実の境界を橋渡しする装置により、ここではないどこかもうひとつの世界を構築しようとしているようだ。こちらも鏡を多用しているため、いま見たばっかりの若江漢字の作品とつい比較してみたくなる。観念的な若江に比べて、横谷は触感的・身体的だ。

2013/11/01(金)(村田真)

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