2018年04月15日号
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artscapeレビュー

2014年01月15日号のレビュー/プレビュー

キャリー

会期:2013/11/08~2013/12/12

丸の内ピカデリー[東京都]

高畑勲監督の『かぐや姫の物語』で欲求不満だったのは、都から脱走したかぐや姫が着物を脱ぎながら山中を疾走する、あの胸騒ぎを覚えずにはいられないシーンが、結局のところかぐや姫の見果てぬ夢だったことだ。これまでにないアニメーションによってこれまでにないかぐや姫の物語が語られるのかと思いきや、あくまでも原作に忠実なまま物語は終わってしまった。荒々しい線が力強く躍動する画に眼が釘づけにされただけに、期待が外れたショックは大きい。
その萎えた気持ちを再び漲らせたのが、本作だ。スティーブン・キングの原作と、1976年にブライアン・デ・パルマ監督によって制作された映画を踏襲してはいる。しかし『かぐや姫の物語』と決定的に異なるのは、主人公の人間像である。
陰湿なやり方で同級生にいじめられている高校生のキャリーは、家庭でも狂信的な母親から虐待され、八方塞がりのなか幸いにも恵まれた超能力を研ぎ澄ますことで、大逆襲をはかる。物語の終盤で一気に爆発する暴力は、思わず拍手喝采を送りたくるほど痛快である。同じく悲劇的なヒロインとはいえ、ひたすら耐え忍ぶかぐや姫とは対照的に、キャリーは少なくとも反撃したのだ。
堅忍不抜の内向性と窮鼠噛猫の外向性。前者の精神性が現代の日本社会にいまだに残存する美学であることは否定できないにしても、注目したいのは双方の悲劇の背景にはいずれも親が介在しているという事実である。信仰を重んじるあまりキャリーの行動を束縛する母親が常軌を逸していることは言うまでもない。ただ、かぐや姫の上洛に狂喜乱舞する翁もまた、その真意とは裏腹に、かぐや姫の自由と人生を縛りつけている点で、キャリーの母親と同じ狂気を共有している。2人の対照的な娘は、ともに狂った親に翻弄されるという面で、表裏一体の関係にあるのだ。
双方の悲劇に通底する現代性があるとすれば、それはこの親子のあいだの支配関係に表わされていると言えるだろう。

2013/11/21(木)(福住廉)

堀尾貞治 展

会期:2013/11/19~2013/12/01

LADS GALLERY[大阪府]

芸術家のなかには制作と人生がシンクロして「全身芸術家」と称される者がいるが、堀尾貞治もそのひとりかもしれない。日々黙々と制作し、1年間に100回前後も展覧会を行なう。そんな彼の仕事は、もはや単体で批評すべきものではなく、生き様自体が一個の大きな作品と言えるのではないか。そんなわけで、今回もいつもの調子と思って出かけたのだ。ところがどっこい、彼にはまだまだ未知の引き出しが隠されていた。本展では数種類の作品が出品されていたが、最も驚かされたのは壁画状の大作である(画像)。これらは、折り畳んだ紙を黒く塗り、開いたら黒と白の模様ができていたという単純な代物だ。それが堀尾の手にかかると、かくも美しい絵画作品になるのである。なんたるセンス。やはり彼は「全身芸術家」である。

2013/11/23(土)(小吹隆文)

森川あいみ個展 ラジオ体操第一

会期:2013/11/26~2013/12/01

KUNST ARZT[京都府]

画廊の展示室には、湾曲したベニヤ板に描かれた絵画が縦横無尽に配置されていた。それらはどれも、ある視点から眺めた風景であり、動きを伴っている。どうやら展覧会タイトルに謎を解くカギがあるようだ。つまり本作は、ラジオ体操をする人間の動きと視線の経過をトレースして描かれた、絵画によるインスタレーションなのである。絵のなかに動きや時間を封じ込める表現方法は、たとえばイタリア未来派や日本の絵巻物の異時同図法のように、すでに多くの実例がある。しかし、彼女の手法はそれらとは根本的に異なる。画面を曲げ、3次元的な展示を行なうことにより、よりダイナミックな描写に成功しているのだ。可能性に満ちた独自のスタイルであり、今後の展開に期待している。

2013/11/28(木)(小吹隆文)

新incubation5 生田丹代子×佐々木友恵「時代(とき)をかさねる──心と技」展

会期:2013/11/22~2013/12/26

京都芸術センター[京都府]

ベテラン作家と若手作家が互いに触発し合うことで現代美術をさまざまな角度からとらえ見通すという芸術センターの企画展「新incubation」5回目。今回は、キャリアを積んだ作家として、ガラスを用いた造形作品を制作し続けている生田丹代子、若手作家として、京都市立芸術大学で漆工技法を学び、平面や彫刻、インスタレーションなど多彩な手法の表現に取り組んでいる佐々木友恵の二人が紹介された。厚さ5ミリにカットされた板状のガラスを少しずつずらし重ね合わせた生田の作品は、角度や距離によってじつにさまざまに表情が変化して見えるから不思議。驚きと緊張感をともなうその美しさに息を飲んだ。佐々木は自身の幼少期の記憶や、感情体験をモチーフにした作品を発表。描かれた情景や物のイメージが塗り重ねられた漆の層のなかに深い奥行きをもって立ち現われるという雰囲気が儚げで印象的だ。素敵だったので2度訪れた展覧会。どちらの作品も素晴らしかった。
画像キャプション=佐々木友恵《沈黙の解凍》(2010) 撮影=金城秦哲

2013/11/29(金)(酒井千穂)

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英ゆう個展「外を入れる。vol.2」

会期:2013/11/29~2013/12/14

京都芸術センター[京都府]

2007年から2009年末までタイにてレジデンスを行なってきた英が2010年にその成果を同センターで披露した今展と同名の展覧会も記憶に新しい。そのときは、バンコクの王宮前広場に見立てた78畳の大広間に、色鮮やかな供花などタイの風物をモチーフにした大作がおもに展示されていた。2回目の今回は、4階にある茶室を日本庭園に見立て、燈籠や石塔などをモチーフに描いた作品を配するという展示。茶室には、中心に円形の人工芝の敷物が敷かれていて、そこに座って作品を鑑賞するように薦められた。人工芝のやや硬く心地悪くもある感触が、外で地面に腰を下ろしたときのちょっとした緊張感や違和感を思い起こさせるのだが、座位と立位では、視界に入る景色の印象も作品のイメージも少し異なって見えるのも面白い。着慣れない服を着たときに自分の気持ちが変わるのと同じような感覚が新鮮で、作家の遊び心を感じた展示。次の作品発表も楽しみだ。

2013/11/29(金)(酒井千穂)

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