artscapeレビュー

2014年02月15日号のレビュー/プレビュー

シャヴァンヌ展──水辺のアルカディア

会期:2014/01/02~2014/03/09

Bunkamuraザ・ミュージアム[東京都]

ピュヴィス・ド・シャヴァンヌの初の本格的な展覧会。シャヴァンヌは知名度こそ低いものの、日本では比較的なじみ深い画家だ。それは日本の近代洋画に多大な影響を及ぼしたからであり、国立西洋美術館の《貧しき漁夫》をはじめ大原美術館や島根県立美術館などにも作品が所蔵されてるからだろう。でも実際に作品を見てみると、彼の画業はめまぐるしく移り変わる19世紀の近代絵画の流れのなかに位置づけるのは難しい。初期のころ影響を受けたのはロマン主義だが、その後は明らかに古典主義を信奉しているし、そのアルカディア(理想郷)を求める時代錯誤的な姿勢は象徴主義に通じ、淡く平坦な色彩はモーリス・ドニに先駆けている。つまり彼は印象派やポスト印象派という近代美術史のハイライトをすっ飛ばして、いきなり古典絵画からナビ派に接続しているのだ。しかし彼の画業の大半は壁画に費やされたこともあって、余計モダンアートの表舞台でスポットを浴びることは少なかった。ちょうどシャヴァンヌと仲のよかった象徴主義の画家モローがフォーヴィスムに影響を与えたように、シャヴァンヌも美術史の裏の回路に通じていたのかも。でもシャヴァンヌの場合、壁画をやってたから淡く平面的な画面を獲得できたんだろうし、結果的にナビ派に近づいたんじゃないかと推測できる。今回出品されている作品の多くは、その習作や縮小ヴァージョン。

2014/01/04(土)(村田真)

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天機:富春山居圖(監督:スン・ジェンジュン)

帰りの機内、映画『天機:富春山居圖』を見る。有名な水墨画を盗むスパイ、アクションもので、アンディ・ラウやリン・チーリンらが出演する豪華作だった。ただし、つくりはやや荒削りである。劇中に登場する日本人たちは、ヤクザ、コスプレ、相撲、兵隊というステレオタイプのイメージだ。こうした映画は日本未公開なので、日本ではなかなか認識されにくいが、中国文化圏における日本兵の悪い印象はやはり視覚言語として共有されている。

2014/01/04(土)(五十嵐太郎)

小野啓『NEW TEXT』

発行所:赤々舎

発行日:2013年12月01日

1977年、京都府生まれの小野啓は、立命館大学経済学部を卒業後、2002年頃から現役の高校生のポートレートを撮影し始めた。「大人でも子供でもない年代」の高校生たちに向き合うことで、「人としての根本」を探り出したいと考えたからだ。大学を卒業して社会に出る頃、誰しも自分自身の人間形成の時期だった高校時代が気になってくるものだ。小野はそのナチュラルな気持ちの動きを、写真家としての営みにストレートに結びつけていったということだろう。
それらの写真は「青い光」というタイトルでいくつかの写真コンペに出品され、2006年にはビジュアルアーツフォトアワード大賞を受賞し、同名の写真集として刊行された。だが、小野の撮影はさらに続けられる。途中からは雑誌やフライヤーを使ってモデルを募集して、メールのやりとりで撮影の日取りを決めるようになった。モデルたちの居住範囲も関西エリアだけでなく、全国各地に広がっていく。結局、高校生たちを写した撮影総数は2013年までの11年間で550人にまで増えていた。
小野はそれらをまとめた写真集を刊行しようと考えるが、それには小野自身にも出版社にも大きなリスクがかかる。その問題をクリアーするために2012年から「『NEW TEXT』をつくって届けるためのプロジェクト」を開始した。
5,000円で写真集を予約すると、1冊は手元に届き、もう1冊が全国の図書館や学校など希望する場所に寄贈されるというものだ。参加者が500名を超えて、このプロジェクトの目標は無事達成され、赤々舎から『NEW TEXT』が刊行された。ハードカバー、344ページの堂々たる造本の写真集である(デザインは鈴木成一)。
高校生たちのこの時期にしかない一瞬の輝き(あるいは翳り)を捉えるために小野が用いたのは、決して奇をてらった撮り方ではない。撮影場所を丁寧に選び、6×7判のカラーフィルムで細部までしっかりと画面におさめていく。中間距離の写真が多いが、時にはクローズアップ、逆にやや遠くから撮影する場合もある。「笑わないこと」だけが唯一のルールと言えるだろう。解釈を押しつけるのではなく、写真から何を読み取るのかは読者に委ねるという姿勢が清々しい。小説家の朝井リョウが「全ページが物語の表紙」という言葉を帯に寄せているが、まさに言い得て妙ではないだろうか。

2014/01/05(日)(飯沢耕太郎)

黒川創『いつか、この世界で起こっていたこと』

発行所:新潮社

発行日:2012/05/31

黒川創の小説『いつか、この世界で起こっていたこと』を読む。3.11に触れた震災文学のなかでも、相当変わった切り口だった。アメリカのエルビス・プレスリーからロシアのチェーホフまで、あるいはユーゴ、関東大震災のときの鎌倉の津波など、時間と空間を超え、ときには地球の外側から見るような視点さえ導入しつつ、短編をつむぐ。震災を日本の出来事として閉じるのではなく、世界史の断片的な記憶と共振する3.11と言えるだろう。

2014/01/05(日)(五十嵐太郎)

せんだいスクール・オブ・デザイン 2013年度秋学期 PBLスタジオ1メディア軸♯4 小川直人「映画のなか/そとの仙台」

東北大学大学院工学研究科 せんだいスクール・オブ・デザイン[宮城県]

せんだいスクール・オブ・デザインのメディア軸で、せんだいメディアテークの小川直人のレクチャー「映画のなか/そとの仙台」を行なう。かつてのプログラムピクチャーは城趾、七夕、松島などの観光名所を好んだが、『ゴールデンスランバー』など伊坂幸太郎原作の映画はそれがなく、どこにもありうる地方都市をリアルに描く。とある事情で公開されなかった、仙台舞台の私小説の映画化『ア・ルース・ボーイ』(1997)を見たいと思う。

2014/01/07(火)(五十嵐太郎)

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