artscapeレビュー

2014年02月15日号のレビュー/プレビュー

フジフィルム・オンリー・ワン・フォトコレクション展

会期:2014/01/17~2014/02/05

フジフィルム スクエア[東京都]

富士フィルム株式会社の創立80周年を記念して、日本を代表する写真家たち101人の作品を収集するというのが「フジフィルム・オンリー・ワン・フォトコレクション」。そのプロジェクトが完了したのを記念して、収集作品展が東京・六本木のフジフィルム スクエアで開催された。
幕末に来日して横浜を拠点に日本各地を撮影したフェリーチェ・ベアトの「長崎、中島川」(1865年頃)から、鬼海弘雄の「浅草ポートレート」のシリーズより選ばれた「歳の祝いの日」(2001)まで、101点の作品が並ぶとなかなか見応えがある。この種のコレクションは、誰がどのようにやっても偏りが出てくるものだ。今回も明治~昭和初期の写真家たちと、1990年代以降に登場してきた写真家たちの層が、どうしても薄くなっているように感じた。逆に言えば、「日本写真」がしっかりと確立した1960~70年代の作品はとても充実している。現存の写真家たちは、ほとんどが自分自身で作品を選んだそうだが、彼らがそれぞれのスタイルを確立した時期の作品を残しているのが興味深い。写真作家の自意識が、選出作品に滲み出ているということだろう。いずれにしても短期間に収集作業を行なった山崎信氏(フォトクラシック)をはじめとするスタッフの方たちには、ご苦労様と申し上げたい。
むしろ、このコレクションをこれからどう活かしていくのかが問題になるのではないだろうか。教育的な価値の高いこれらの写真を、なるべくいろいろな場所で展示していってほしいものだ。

2014/01/19(日)(飯沢耕太郎)

大脱出

映画『大脱出』を見る。密室殺人事件と同様、脱出不可能な監獄という建築的なテーマに興味を持ったからだ。本当にガラス張りの透明なセル=監房の分散配置、移動する場所なき監獄というアイデア自体は、決して目新しいものではなく、古典的でさえあるが、やはり映像としてベタでも可視化されると盛り上がる。ただ、実際の運用があまり完璧な監獄に見えないのと、最後の脱出が、さほど建築的な手法でないのは残念だった。

2014/01/19(日)(五十嵐太郎)

岸幸太「ガラクタと写真」

会期:2014/01/20~2014/02/02

photographers' gallery/ KULA PHOTO GALLERY[東京都]

岸幸太の作品には、このところずっと注目している。新聞紙に写真を印刷した「The books with smells」(2011)から始まって、解体工事現場で拾った廃材やプラスチックボードに写真を貼り付けた「Barracks」(2012)、東日本大再震災の被災地で出会ったモノたちを撮影した「Things in there」(2013)と、実物と写真画像とを強引に接続するような作品をコンスタントに発表してきている。今回は会場にプリンターを持ち込み、新作を含む「Barracks」の作品を複写して藁半紙にプリントし、それを綴じあわせて写真集の形にするという作業の現場を公開した。でき上がった写真集はその場で販売している。
普通、写真作品は、きれいにプリントされた状態で、最終的にフレームなどに入れて展示される場合が多い。岸はどうやら、写真を撮影し、プリントするという写真家の現場を、より直接的に観客に開示したいと考えているようだ。その結果として、彼の作品には過剰なノイズがまつわりつき、暴力的とも言える触感、物質感を感じさせるものとなった。そこには、こぎれいに整えられ、フレームアップして商品化された作品とは一線を画する、観客を挑発する荒々しいパワーが召還されている。それはまた、東日本大震災の傷口を糊塗し、ふたたび何ごともなかったように経済効率のみを追い求める体制に復帰しようとしている社会状況に対する、モノの側からの強烈な異議申し立てでもある。見かけの奇妙さに目を奪われるだけではなく、彼の作品の批評的なスタンスを評価していくべきだろう。

2014/01/20(月)(飯沢耕太郎)

今道子「RECENT WORKS」

会期:2014/01/08~2014/03/01

フォト・ギャラリー・インターナショナル[東京都]

10年あまりの沈黙の時期を経て、2011年に銀座・巷房での個展で復活を遂げてからの今道子の作品世界は、以前とはやや違った雰囲気を醸し出している。彼女のトレードマークというべき魚、鶏、野菜、果物等の「食べ物」を素材に、奇妙にリアルな手触りを備えたオブジェをつくり上げて撮影するスタイルに変化はない。だが、以前の作品に見られた、自らの特異な生理感覚を前面に押し出し、やや神経質に思えるほどにマニエリスム的な画面構成に執着する傾向は、少しずつ薄れてきているのではないだろうか。
今回のフォト・ギャラリー・インターナショナル(P.G.I)での個展に出品された「RECENT WORKS」(主に2013年に撮影)を見ると、どこかゆったりとした、のびやかな空気感が漂っているのを感じる。彼女の精神的な余裕、あるいは写真作家として長年培ってきた自信が、作品にほのぼのとしたユーモアをもたらしているのかもしれない。「白うさぎと目」のような作品は、不気味であるとともに実に愛らしくて、思わず笑ってしまうほどだ。といっても、決して手を抜いているわけではなく「骨のワンピース」のような大作では、エアブラシで絵の具を吹き付けて背景の布にタケノコの形を浮かび上がらせるといった工夫も凝らしている。
これらの新作も、そろそろ展覧会や写真集にまとめる時期に来ているのではないだろうか。1980年代以来の作品を、まとめて見ることができるような機会をぜひ実現してほしい。どこかの美術館に、ぜひ手を挙げていただきたいものだ。

2014/01/21(火)(飯沢耕太郎)

ヴォルフガング・ティルマンス「Affinity」

会期:2014/01/18~2014/03/15

WAKO WORKS OF ART[東京都]

ヴォルフガング・ティルマンスが、1990年代以来、写真表現の最前線を切り拓いてきた作家であることは言うまでもない。彼の周囲の現実世界のすべてを等価に見渡し、撮影してプリントした、大小の写真を壁に撒き散らすように展示していく彼のスタイルは、世界中の写真家たちに影響を与えてきた。東京・六本木のWAKO WORKS OF ARTで開催された新作展を見て、その彼がさらに先へ進もうとしていることを明確に感じとることができた。ティルマンスはやはりただ者ではない。彼のスタイルは固定されたものではなく、時代とともに、そして彼自身のライフ・スタイルの変化にともなって、フレキシブルに変容しつつあるのだ。
2012年に刊行された2冊の写真集『FESPA Digital: FRUIT LOGISTICA』と『Neue Welt』に、すでにその変貌の兆候がはっきりと刻みつけられていた。ティルマンスは、これらの写真を撮影するためにデジタルカメラを使用し、プリントもデジタルのインクジェット・プリンターで行なうようになった。その結果として、写真の撮り方、選択、レイアウトもまた、デジタル的な表層性、多層性をより強く意識させるようになってきている。清水穣が「『デスクトップ・タイプ』レイアウト」と呼ぶ、この「プリントアウトされた写真がテーブルの上で重なり合っているような、いくつものウィンドーを開いたデスクトップの画面のような」レイアウトは、今回の壁面の展示でも多面的に展開されている。銀塩=アナログの時代にはなかった新たな視覚的経験を、貪欲に形にしていくティルマンスの創作のスピードに追いつくのはなかなか難しいが、せめて彼の写真集や写真展を「スタンダード」として見る視点を、日本の若い写真家たちも持つべきではないだろうか。

2014/01/22(水)(飯沢耕太郎)

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